19世紀後半にフランスの芸術家たちによって見出された日本美術が、ヨーロッパに多大な影響を与えることになったジャポニスム旋風。それから約1世紀半、現代の日本が誇る文化芸術を発信する祭典「ジャポニスム2018」が開催。パリ内外の 100 近くの会場を舞台に、2018年7月から約8か月間にわたり、美術展、舞台公演、映画、その他食や工芸など日本人の日常生活に深く根ざした文化まで多岐にわたる日本の芸術と文化が古典から現代まで幅広く紹介されています。
街中の宣伝用ポスターもあちこちで見かけました。
展覧会フォトレポート
さっそく、現地での展覧会の様子をフォトレポート形式でお伝えしていきます!
1.「teamLab: Au – delà des limites(境界のない世界)」展
デジタル領域のさまざまな分野のスペシャリストから構成されるウルトラテクノロジスト集団、チームラボ。パリにおいてもチームラボ旋風を巻き起こし、開幕から4週間で46,000人を動員、平日でも2,000人、休日は4,000人を超える来場者数となっており、その勢いはとどまるところを知りません。
デジタルで描き出された滝が高さ11メートルの壁から床へと流れ、来場者の足元で枝分かれしながら空間に広がっていく作品や自分で描いた動物が生態系をなし世界を創っていく作品、文字に近づくと文字がもつ世界が呼応して変化していくもの、花々が咲いては散るさまを表現した作品など、チームラボならではの世界観をインタラクティブに表現。来場者の動きを感知してそのつど変化する光と色と音のデジタルアートに、子供も大人も大興奮、パリの人々を大いに楽しませています。
◆「teamLab: Au – delà des limites(境界のない世界)」展
会期:2018年5月15日(火)〜9月9日(日)
会場:ラ・ヴィレット
※展覧会詳細はこちら
2.「池田亮司 | continuum」展
池田亮二はパリと京都を拠点に活動する作曲家・アーティストであり、音響、イメージ、空間、知覚現象、数学的概念等を用いた、体感型の作品を数多く発表しています。今回の展覧会では、会場となるポンピドゥ・センターのために新作のインスタレーション2点が展示されています。一つの作品は真っ暗な空間に設置された巨大なスクリーンに映し出される無数のコード。データをコード化し、そのコードを元に音と映像を作成したもの。もう一つは、真白な空間に設置された5台の巨大なスピーカーから出てくる音を全身で体感する作品。今回の展示で見せているのは、永続性がないデータという情報と、残響によって存在し続ける音の対話。対照的でありながら、相互に補い合う2作品の根底にある理論や考え方を、五感で理解していくような作品といってもいいかもしれません。
◆池田亮司 continuum
会期:2018年6月15日(金)〜8月27日(月)
会場:ポンピドゥ・センター
3.「Enfance / こども時代」展
最先端の現代アートを発信し続けるパレ・ド・トーキョーを会場に、日本とフランス、その他さまざまな国のアーティスらの「こども時代」をテーマにした作品が展示される、日仏共同企画の現代アート展です。3000㎡の展示スペースを使って繰り広げられる、20人近くの現代アート作家やフランス工芸職人による大型作品の数々は、さながらラビリンスのように展開し、訪れた人の感性や記憶を刺激しながら、こども時代の空想や成長といった問題を問いかけます。
パレ・ド・トーキョーの正面玄関脇の屋外スペースに展示されている、子どものおもちゃ箱から取り出してきたようなドールハウスがとても目を引きます。壁の絵や窓、冷蔵庫など一部の家具を除いて、アナログ的な手法を用いて手書きで描かれているところが、子ども時代のあやうさや儚さを象徴しているようです。一般的に語られるこども時代は、親に守られ、夢や希望がいっぱい詰まった幸せな時代のイメージとして取り上げられることが多いですが、会場を回っているとそればかりではなかった幼い時代の記憶もよみがえります。例えば表玄関のドールハウスは、展示期間の約2か月半、昼夜を問わず野晒しとなります。外にさらされ風雨で劣化していく様子は社会の現実に直面し変わらざるを得ない子ども心を表しているのかもしれません。
◆「Enfance / こども時代」展
会期:2018年6月22日(金)〜9月9日(日)
会場:パレ・ド・トーキョー
4.ルーブル美術館ピラミッド内 特別展示 名和晃平 彫刻作品 “Throne”
ジャポニスム2018の幕開けとして、ルーブル美術館ピラミッド内に名和晃平氏による巨大彫刻《Throne》が設置され、大きな注目を浴びています。
《Throne》は加速度的に進化を遂げるコンピュータや人工知能などの存在が、やがて政治や経済に影響を与える”権力”や”権威”に置き換わるのではないか、という予感を”浮遊する空位の玉座”として表現しています。その造形は、古今東西の祭事に使われる多様な山車の装飾や形状を参照しつつ、現代によみがえらせたもの。作品のコンセプトに加え、ルーブル美術館という場所へのアプローチ、金箔の意味などいくつものストーリーを内包し、メッセージ性の強い作品となっています。ルーブル宮に近代的なガラスのピラミッド、そこに権力や権威を象徴する巨大な黄金のオブジェ並ぶ様はまさに圧巻の風景です。展示は来年1月14日までなので、パリに行かれた際はぜひ足を運んでみてください。
◆ルーブル美術館ピラミッド内 特別展示 名和晃平 彫刻作品 “Throne”
会期:2018年7月13日(金)~2019年1月14日(月)
会場:ルーブル美術館・ピラミッド内
5.「深みへ‐日本の美意識を求めて‐」展
19世紀にパリの中心地に建てられた大富豪ロスチャイルド家旧邸宅「ロスチャイルド館」で、ジャポニスム2018のコンセプトである日本文化の多様性と美意識をテーマにした展覧会「深みへ‐日本の美意識を求めて‐」が開催されています。
本展のメインビジュアルにもなっている縄文時代の火焔型土器とそこから着想を得た若手デザイナー・アンリアレイジによる彫刻ドレスの組み合わせは、まさにジャンルや時代を越えて存在する調和を体現。「一見、対極に見える両者が、プリミティブなパワーやダイナミズム、そして生命という共通要素を通し、対峙、融合、共存する」とキュレーターの長谷川祐子氏は述べています。他には南の島に魅せられた二人の画家、田中一村の花鳥画とゴーギャンの木版画、生涯で12万体を彫ったといわれる円空の木彫仏像とアフリカなどの原初彫刻に影響を受けたとされるピカソの木彫像といった興味深い組合せも。
自然と豊かな関係性を持ち、島国という立地によって独自の文化の受容と展開をしてきた日本の芸術文化。時代背景の異なる作品を併置し、日本と西洋の作家の作品を対峙させるなど、歴史横断的かつ国際的な対話的構成を通じて、作品が持つ背景や物語が浮き彫りにされていきます。それらは日本の美意識に新たな視点と理解をもたらしてくれるでしょう。
◆「深みへ‐日本の美意識を求めて‐」展
会期:2018年7月14日(土)~ 8月21日(火)
会場:ロスチャイルド館/Hôtel Salomon de Rothschild(オテル・サロモン・ドゥ・ロスチャイルド)
6.井上有一 1916-1985 -書の解放-
紙と墨のシンプルな素材と日本の伝統的な書の技法を使って今までになかった現代的な書を生みだし、世界的にも評価の高い書家井上有一(1916-1985)の回顧展がフランスのパリ日本文化会館で開催中です。有一の書は、私たちが日常で使っている文字が絵画や抽象画となり、その造形が全く新しい表現の芸術となっていく、西洋の芸術の概念や理論では決して生み出されることのなかったアートなのです。
パリ日本文化会館での会期のあと、アルビのトゥールーズ・ロートレック美術館にも巡回が決定しており、フランス国内での関心の高さが伺えます。
◆井上有一 1916-1985 -書の解放-
会期①:2018年7月14日(土)~ 9月15日(土)
会場①:パリ日本文化会館
会期②:2018年9月29日(土)~ 12月17日(日)
会場②:トゥールーズ・ロートレック美術館(アルビ)
フランスへ行くなら要チェック!日本の至宝がパリで勢ぞろい。
これから、秋に向けてフランスの文化シーズン到来。「ジャポニスム2018」でも連日大型イベントが目白押しとなっています。
今後またとないであろう珠玉の展覧会として見逃せないのは、1900年のパリ万博万国博覧会のために建てられたパリ市立プティ・パレ美術館での江戸中期の天才絵師・伊藤若冲の最高傑作《動植綵絵(どうしょくさいえ)》と《釈迦三尊像》の全33福をみせる欧州初の大規模若冲展、パリ市立チェルヌスキ美術館では国宝の風神雷神図屏風のヨーロッパ初公開と、宗達・光琳をはじめとする琳派の傑作が勢ぞろいする琳派展でしょう。
ポンピドゥ・センターではフランスでも人気の高い建築家・安藤忠雄の半世紀に及ぶ挑戦の軌跡と未来への展望に迫る展示と河瀨直美監督の特集・特別展、全作品回顧上映が予定。
映像関係で注目したいのは「日本映画の100年」。フランスには熱狂的な日本映画ファンが多く、今回は無声映画から最近の映画まで100本以上の作品が各地で上映されます。また9月には、フランスのテレビで日本のドキュメンタリー、映画、アニメ他日本のコンテンツを集中的に放送する「テレビ日本月間」が実施されます。
舞台公演では、フィルハーモニー・ド・パリにおいて宮内庁式部職楽部による雅楽が披露されます。「世界最古のオーケストラ」とも呼ばれる宮廷音楽が平成のパリに再現されます。国立シャイヨー劇場を始めとする劇場では、フランスからのラブコールで実現した中村獅童、中村七之助による歌舞伎、日本の若手演出家による現代演劇や文楽も上映される予定です。
参加型の企画も充実しており、世界の柔道大国である日本とフランスの子どもから指導者までさまざまなレベルでの柔道交流、日本の専門家による実技と講義を行う和食セミナー、禅の文化を多角的に紹介し禅の精神に体験的に触れる「禅文化週間」など、実体験を通して日本文化の精神や真髄に対する理解を深めてもらう場も用意されているのです。
自国の文化といえどもその全体像を把握することはなかなか難しいことかもしれません。 「ジャポニスム2018」を通して、今の日本を代表する芸術・文化を知り、縄文時代から現代に受け継がれてきた日本文化の歴史と多様性、高い技術と豊かな精神性、日本人の美意識と智恵を再発見する機会になることでしょう。
「ジャポニスム2018:響きあう魂」開催概要などはこちらでチェック
https://www.artlogue.org/japonismes2018/