※好評につき会期が以下のように延長されました。
《変更前》2021年10月29日(金)~2022年1月23日(日)
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《変更後》2021年10月29日(金)~2022年1月30日(日)
昔から、日本人の暮らしと深い関係にあった「虫」。日本に現存する最古の和歌集『万葉集』には、すでに「影草の生いたる野外(やど)の夕影になく蟋蟀(こおろぎ)は聞けど飽かぬも」といった虫に関する歌が残されています。また、平安時代には、貴族の優雅な遊びとして、かごに入った虫の鳴き声を楽しむことが流行ったとされています。このように、古代から我が国の人々は、豊かな風土に育まれた様々な虫たちに親しみ、その姿を愛でてきました。
解剖学者・養老孟司氏は、無類の昆虫愛好家、昆虫学者としても知られ、世界各地を訪れて、不思議と驚異にみちた虫たちの生態を探求しています。
そんな養老氏と細見美術館がタッグを組み、特別展「虫めづる日本の美-養老孟司×細見コレクション-」が2022年1月23日(日)まで、京都・細見美術館で開催中です。何でも、細見美術館の細見有子理事長が養老ご夫妻と長年知り合いで、そのご縁から今回の特別展が実現したといいます。
本展では、養老氏が細見コレクションから選ぶ、虫を表した絵画・工芸作品約60点を紹介します。写実の精緻を極めた伊藤若冲の「糸瓜(へちま)群虫図」、宝石のような虫たちが鏤められた蒔絵の小箱など、みずみずしい好奇心にあふれる虫博士の眼が出会った、日本の美に息づく儚くも美しき生命に触れることができます。
また、養老氏が親交を結ぶ虫仲間の作家たちの、独特の自然観やデジタル技術によって表現された作品もあわせて紹介。
会場は第1展示室から始まり、そこには「特別展示 虫博士が贈る美しき虫の世界」の世界観が広がっています。会場の入り口近くには、養老氏の昆虫標本や、愛用の顕微鏡と同型のものが展示されています。歩を進めてみると、養老氏と交流のある作家たちの、虫をモチーフにした現代作品が展示されています。例えば、山中俊治氏+斉藤一哉氏+杉原寛氏+谷道鼓太朗氏+村松充氏の作品「Ready to Fly」は、虫が飛ぶ瞬間に羽を開く、その精妙な構造を3Dプリンタで再現。
この虫の羽を開くメカニズムは、例えば、身近なところでは折り畳み傘、また人工衛星のアンテナなどの展開方法などといった、工学的なメカニズムに応用されています。作品にゆっくりと近づいてみると、逃げるように飛翔の準備を始めるので、ぜひ試してみてください。
また、分島徹人氏の「おさむしの合子」は、甲虫・プリンキパルスカブリモドキをモデルにした作品。
中国、湖北省に生息するオサムシの一種で、オサムシの中でも最美麗種の一つに挙げられています。作品は、艶やかな漆をはじめ貴金属紛、青貝、ガーネットなどの貴重な素材を用い、高蒔絵という半立体の表現で、器の表面に昆虫の身体を堂々と配しています。
他、「デジタルマイクロコラージュ」を発表した小檜山賢二氏や、「マユタテアカネの石製香炉」を作った佐藤正和重孝氏など、現代作家の中にも、虫をモチーフにした作家や、テクノロジーやデジタルを用いて虫を表現している方がいることがよくわかるセクションとなっています。
第2展示室、第3展示室は、「魂はこぶ虫」、「詩歌・物語の虫」、「虫がかざる」、「虫を写す」、そして「虫を想う」といった5つのテーマから構成されています。展示の中でも、養老氏が特に興味を示しているのが、「秋草虫蒔絵螺鈿小箱」と、伊藤若冲の「糸瓜群虫図」だといいます。秋草虫蒔絵螺鈿小箱は、秋草にトンボや蝶、カマキリがいる様子を見ることができます。
また糸瓜群虫図は、トンボやバッタ、カマキリなど11匹の昆虫が、糸瓜に群がっているさまが見て取れます。
古代から日本人が虫の世界、すなわち自然に親しんできたことが古美術を通して実感できることでしょう。
最後に、養老氏の言葉をご紹介します。
日本人には古来、小さきものに目を向ける視点がある。「『縮み』志向の日本人」で李御寧が説いた通りだ。東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたわむる。石川啄木はそう歌に綴った。たかが虫、されど虫。その視点において「虫」は目立つ印象的な存在となる。「愛づる」とはこの視点であろう。本展示は、これまでも「虫視点」を駆使されてきた細見美術館ならではのユニークな内容となった。自然の中の美をいかに抽出し、表現するか。目の前の作品を自分は一体どう見ているのか。それを吟味し、楽しむ場になれば望外の喜びである。
ぜひ、虫博士の眼が出会った、日本の美に息づく虫の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。きっと自然を考え直す契機となることでしょう。
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開催概要
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■特別展「虫めづる日本の美―養老孟司×細見コレクション―」
会 期:好評につき会期が以下のように延長されました。
《変更前》2021年10月29日(金)~2022年1月23日(日)
↓
《変更後》2021年10月29日(金)~2022年1月30日(日)
*一部展示替えあり
会 場:細見美術館
時 間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休 館:月曜日(祝日の場合、翌火曜日)、年末年始(12月27日(月)~1月4日(火))
料 金:一般 1,300円 学生 1,000円