2010年から3年ごとに開催している、国内最大規模の「あいち」の国際芸術祭。今回で5回目を迎え、会場として愛知芸術文化センターの他、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)も舞台に加えて、2022年7月30日(土)から10月10日(月・祝)までの全73日間開催されます。芸術監督に森美術館館長であり、国際美術館会議(CIMAM)会長も務める片岡真実氏を迎え、「STILL ALIVE 今、を生き抜くアートのちから」をテーマに、現代美術を基軸とし、最先端の芸術を「あいち」から発信します。
国内外から現代美術80組程度、パフォーミングアーツ10演目程度の参加を予定しており、現在、コンセプトや会場の空間的特性に合わせてアーティストを選定し、具体的な出品作品に関しては協議中だそう。2021年8月23日(月)に記者会見が開催され、あいち2022に参加する22名(組)のアーティストおよびグループが発表されました。国内と海外、男女比はほぼ半々で、それぞれの展示場所の発表は次回以降になるとのこと。パフォーミングアーツのプログラムについても、次回以降に正式に決定するといいます。
片岡氏は、今回のテーマであるSTILL ALIVEを多角的に解釈。それぞれカテゴリー別に属するアーティストをご紹介します。
■愛知県出身で、国際的に広く知られるコンセプチュアル・アーティストの河原温を起点に、過去・現在・未来という時間の概念を探り、コンセプチュアル・アートの起源を再訪。河原温の電報作品《I Am Still Alive》との関連から、文字や言葉による表現にも注目します。
この文脈では、河原温(日本/米国)はもちろん、抽象と具象、コンセプチュアル・アートと純粋絵画のはざまに存在する作品を生み出すバイロン・キム(米国)や、主に画家・彫刻家として活動し、自らの作品を抽象と具象の間で揺れる「ミュータント(突然変異体)」と表現するミシェック・マサンヴ(ジンバブエ)など。
■世界各地でパラレルに発展したモダニズムの系譜、絵画や彫刻の概念を再訪し、それぞれの文脈にある社会的、経済的、政治的な歴史、あるいは現在について考えます。
ここでは、ポップアートやミニマリズム、抽象的表現主義などを参考にしながら、それらの思想を独自に展開し、立体と平面、抽象と具象、リアリティとイリュージョンなど、様々な二項対立の上に立ち、「絵画」と「芸術」の本質を探るカズ・オオシロ(日本/米国)や、1990年代のブラジルの民主主義の復興と、新自由主義経済の導入を間近に見つめてきたアンドレ・コマツ(ブラジル)など。
■現代美術とパフォーミングアーツの領域が共存してきた「あいちトリエンナーレ」の歴史を踏襲しつつ、現代美術の文脈で語られてきたパフォーマンス・アートに特に注目します。人間の身体を写真や映像、パフォーマンスといった表現メディアとして採用した作品を通して、ポストヒューマン、政治化される身体、資本主義下での身体イメージの意味などを考えます。
この中では、個人の心理状況やパーソナリティの表徴としての癖や習慣に興味を抱き、日常的な行為や手順をテーマにしたパフォーマンス、彫刻、インスタレーションを発表する笹本晃(日本/米国)や、2001年より活動を開始した、身体表現と共同作業を基盤に、ライブ・パフォーマンスやビデオ、ドローイング、オブジェ、写真、テキストによるインスタレーションを発表しているアーティスト・デュオのプリンツ・ゴラーム(ドイツ・レバノン/ドイツ)など。
■生きることの意味、生と死といった根源的なテーマを、作品を通して問い掛けます。とりわけコロナ禍以降の時代にあって、「今、を生きるためのアートのちから」を、メンタルヘルス、ケア、ヒーリング、祈りといった言葉とも連動させながら考えます。また、工芸と現代アートを横断する表現、先住民族の伝統的な表現など、手仕事にある触覚性と生の実態、芸術における継承と革新についても考えます。
この文脈では、生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ、その場所やものに宿る記憶といった不在の中の存在感を糸で紡ぐ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作している塩田千春(日本/ドイツ)や、ISSEY MIYAKEでデザインを学び、渡英、その後彫刻家リチャード・ディーコンにアートを教わり独立した眞田岳彦(日本)など。
■世界各地の社会、経済、政治の歴史を俯瞰してみると、そこには常に、国家や民族、宗教といった壮大な力と、個々人の複雑な関係性があります。戦争や内戦、革命などによって移住や移動を強いられた身体や、その背景にある絡み合った人類の歴史を、抽象的、詩的に、また美しさとの対比によって表現する作品を通して考えます。
ここでは事例として、ドキュメンタリー的な映像制作の本質と可能性を探求するホダー・アフシャール(イラン/オーストラリア)や、あいち2022のテーマ「STILL ALIVE」と同タイトルの作品を発表している、紛争や暴力の持つ過激なイメージに対抗する寓意的な表現としての絵画に取り組むモハンマド・サーミ(イラク/英国)など。
次に、あいち2022のロゴについてみていきましょう。
ロゴデザインは、アーティストデュオ「Nerhol(ネルホル)」の活動でも知られる、あいち2022公式デザイナー・田中義久氏によるもの。ハートのかたちは、片岡氏とのディスカッションの中で、愛知県全体の形状と、知多半島と渥美半島に囲まれる三河湾の形状が二重のハートを連想させることと、「STILL ALIVE」というテーマから「生きる」意味を象徴する心臓をイメージさせるというインスピレーションから生まれたとのこと。色は、特に強い黄みがかった朱色「猩々緋(しょうじょうひ)」や「常滑焼」など、愛知県をイメージする複数の赤を集約しています。
また、ラーニングの参加プログラムには、「アーティストによる美術史講座」、「愛知と世界を知るためのリサーチ」などがあります。スクール・プログラムでは、教育関係者向けの研修プログラムや、児童・生徒向けの団体鑑賞プログラムを用意し、地域の教育機関との連携を図ります。ボランティア・プログラムでは、ボランティア研修を通して、「対話型鑑賞」の手法を普及し、これまでアートに馴染みのなかった来場者にも、対話しながらアートを楽しんでもらえる芸術祭の姿を目指すとのこと。
片岡氏は「年度内に、残りの約60組のアーティスト全員を発表できればと考えている。コロナ禍という難しい状況の中で、なかなか終わりがみえない時間が過ぎている。先のみえない不確かな時間の中で、どういう風に未来を想像するかというイマジネーションが問われており、そこから新しい価値観を築いていくクリエーションが必要。多様な地域から、多様な価値観が持ち寄せられるこの国際芸術祭の場は、そういう意味でもコンセプトが示している通り、今をどういう風に生き抜いていくことができるかという、人類にとって最大の問いを提示している。多様な応答をみることができるだろう。生きるためのアートのちからを、今を生きる皆さんにお届けしたい」と語っています。
愛知県という舞台で繰り広げられる「あいち2022」は、地域の魅力の向上が図られるとともに、新たな芸術の価値観を創造してくれることでしょう。今から、あいち2022の開幕が待ち遠しくてなりません。
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■国際芸術祭「あいち2022」
テーマ:STILL ALIVE(今、を生き抜くアートのちから)
芸術監督:片岡真実氏(森美術館館長、国際美術館会議(CIMAM)会長)
会期:2022年7月30日(土)〜10月10日(月・祝)[73日間]
主な会場:愛知芸術文化センター、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)