インタビュー:町田久美 by NIIZAWA Prize

ARTLOGUE 編集部2018/08/27(月) - 18:00 に投稿
インタビュー:町田久美 by NIIZAWA Prize

町田久美(まちだ くみ)さんは1970年群馬県高崎市生まれ。多摩美術大学にて日本画を専攻しましたが、日本画の技法を使いつつも、いわゆる日本画の枠にとどまらず、現代美術作家としてデビュー当時から海外で展覧会を行うなど国内外でも活躍しています。町田さんの作品はどこか哀愁や懐かしさ、また夢の世界のような不思議な感覚があります。

本稿は、NIIZAWA Prize by ARTLOGUEの「NIIZAWA KIZASHI 2017」受賞を機会に、町田さんへインタビューをしました。

 

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町田久美《優しいひとたち》2007
東京都現代美術館

 

絵が好きなスポーツ少女、美大へ。

 

鈴木:幼少の頃から絵が好きだったのですか?

町田:そうですね、子供の頃から絵を描くことが好きでした。

鈴木:いつから美大を目指そうと思われたのですか?

町田:小学生の頃から美大に行きたいとは思っていましたが、スポーツも好きでしたので、高校までずっと運動部に所属していました。大学進学を考える時期になって、美術の先生から「美大に行きたいのなら、もう勉強を始めないと受からないぞ」と言われ、県内の美術予備校には日本画科が無かったので、隣県の美術予備校に通いました。

 

原点…?

 

鈴木:その当時に好きだった作家はいらっしゃいますか。

町田:特にいませんでした。広重の木曾路之山川という3枚組の版画や、田中一村、アンドリュー・ワイエス、藤田嗣治などの画集は記憶に残っています。

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歌川広重《木曾路之山川》1930年頃 メトロポリタン美術館所蔵

鈴木:その作品がご自身の原点みたいになるんですか?

町田:それはどうでしょうか。正直に言うと自分は「一番好き」というものがない人間で、一番を聞かれると本当にいつも困ってしまいます。

鈴木:大学で日本画専攻というのは最初から決めていたんですか?

町田:油絵の一部画材の臭いが苦手だったことと、木炭デッサンの木炭が紙に引っ掛かる音が嫌で…それらを使わない試験がある絵画科は日本画科しかなかったんですね。何の前知識もなく入学しましたが、水を使う絵画は性に合っていましたので結果として正解だったと思います。

鈴木:学生時代に今の作品のような表現になっていったんですか?

町田:全く違う作風でした。当時は厚塗りで、油絵なのか日本画なのかパッと見で分からないような作品が日本画の主流だったこともあってか、学生時代はずっとそのようなスタイルで描いていました。思ったような作品が作れずに、いつも気持ちだけ空回り状態でした。

その後は研究生として大学に残りましたが、団体展中心だった当時の潮流と折り合わず、半年で辞めてしまいました。その後は貸画廊を中心に1年に一回くらいのペースで個展をしつつ、アルバイトやバックパッカー旅を繰り返すといった生活を30歳近くまで続けていました。

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バックパッカー時代の町田久美さん

 

試行錯誤、iMacの登場で世界とつながる。はじめての企画展は海外で。

 

鈴木:いきなり海外で個展を開催したのですよね。

町田:そうですね。あの頃は日本でギャラリーなどに作品を持ち込んでも全くうまくいきませんでした。例えば日本画を学んだ学生にそこそこ知られている貸画廊があったのですが、「師事された先生はどなたですか」と聞かれて返事が出来ないでいると断られてしまうんです。線画スタイルの作品を画廊に持ち込むと、「これはマンガだ。アートじゃない」と言われるので今度は出版社に持ち込むと、「これはマンガでもイラストレーションでもない」と言われてしまう。

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町田久美《玩弄物》2003
高橋コレクション
町田久美さんが現在所属する西村画廊に最初に見てもらったのは『淫蕩学校 (ホラー・ドラコニア少女小説集成)』マルキ・ド・サド (著)、町田 久美 (イラスト)、 澁澤 龍彦 (翻訳) の挿絵

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町田久美《ラ・デグランジュ》 2005
高橋コレクション

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町田久美《登山》 2006
高橋コレクション

 

どうにも八方塞がりで途方に暮れていた時に、アップルからiMacが発売されたのです。これなら海外にもアクセス出来ると思い、すぐに購入しました。

インターネットの英語のアートコミュニティに自分の経歴をアップしたところ、ドイツやオランダのジャーナリストが興味を持ってくれて、そのジャーナリストが来日した際に作品の絵葉書を渡したところ、それを現地の画廊に持ち込んでくれて、海外での個展が決まったんです。

その後もフランクフルト大学の学生が開催している「ニッポン・コネクション」というイベントのアート部門に招待されて作品を展示したりと、そんなことを続けていくうちに、少しずつ活動の場が広がっていきました。

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ドイツ、ケストナーゲゼルシャフト(kestnergesellschaft)での町田久美展 展示風景
Photo: Raimund Zakowski

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町田久美展資料

 

旅をしながら描き続けた日々。

 

鈴木:今の作風になっていった経緯を教えてください。

町田:元々、予備校での着彩画の下描きデッサン、モチーフをアウトラインだけで描くのが好きで、その「線」で描くことを試してみたいと突然思いついたんです。それまでは自分が好きなものや得意な描き方で制作することに抵抗感があったのですが、当時趣味で集めていた縁起物を組み合わせて好きに描いてみようと思いついて試してみたんですね。それが福助やキューピーを題材にした作品です。たまたま縁起物業者の人の目に止まって、デパートの催事で展示されたりもしたのですが、搬出の際に梱包材が汚いからとゴミと間違えられて捨てられてしまったりしました。その作品は写真も残っていません。

鈴木:ひどい。

町田:いろいろ社会勉強になりました。

鈴木:作品には、何かモチーフがあるのでしょうか。

町田:その時々であったり無かったり。頭に浮かんだ図像に近いモノを粘土や紙で作ったり、必要な構図のために自分でポーズをとって写真を撮ったりはしています。

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自分のポーズを撮った写真

鈴木:町田さんの作品は具象的でありながら、夢物語のようなところもあり、違和感のようなものを感じさせる。作品世界が独特ですよね。

町田:世の中のほとんどの人が何処かであれらの形を見たことがあるのではないかなと思っています。例えば夢の中で。

「違和感」は自分でもよく使う言葉ですが、違和感を含め、自分が生きてきた上で感じた様々な感情、基本的にネガティブなものなのですが 、それを画面上で再構成し直すとあのような作品になるのです。

 

NIIZAWA KIZASHI 純米大吟醸 2017  ラベルに採用した《道行》

 

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町田久美《道行》2015
西村画廊

鈴木:今回「NIIZAWA KIZASHI 純米大吟醸 2017」のラベルに採用した《道行》(2015)に描かれているのは馬ですよね。

町田:そうですね。馬は昔から人間の生活に近しい生き物だという親しみもあって、よくモチーフにしています。

鈴木:作品を実際に間近で見ると、描線がすごく細いですよね。あれは細い筆で一本一本描いてるんですか? 

町田:筆で一本一本細かく描いています。ドラえもんを描いた《星霜》(2017)という作品は一見、非常に太い線で描かれていますが、あれらは細い線の集合体です。一筆ではありません。

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町田久美《星霜》2017 ©Kumi Machida ©Fujiko-Pro

鈴木:一本の線なのにすごく奥行があるように見えました。

町田:大学時代の教授が「紙に一本の線を引くだけで、そこに蝶々が飛ぶ空間ができるんだよ」と仰っていたんです。当時はただ漫然と聞いていたのですが、心の中にずっと留まり続けている言葉です。まだまだその言葉の本質には迫れていませんし、自身のアプローチは教授の仰るソレとは微妙に異なっている気もするのですが、自分なりに突き詰めていきたいと思います。

鈴木:町田さんはモノトーンないしは色数が少ない作品が多いですけど、《道行》はその中でも結構色を使っている方ですよね?

町田:最近は色を使う割合が少しずつ増えていっていますね。学生時代は教授に注意されるくらいカラフルな絵を描いていましたが、それは性に合っていたからという訳ではなく、頑張って無理に描いていたのだと卒業後に気が付きました。

鈴木:今は年間何枚くらい作品を描かれてるんですか。

町田:本画で数点、ここ34年は版画やオイルペンシルを中心とした制作をしていたので、それらを合わせるともう少し多いですね。

 

鈴木:フランスのポンピドゥ・センター・メッスの「Japanorama」展にも作品を出品してましたよね。

町田:はい。後は「THE ドラえもん展 TOKYO 2017」の巡回と12月の西村画廊での個展ですね。

鈴木:町田さんは、みんなが気にかかってる存在ではあるんだなという印象です。作品に静かなインパクトがあります。作品をみると「なんだろこれ」って惹きつけられてしまう。

町田:タイミングなんでしょうか、

流れがあるんですね。時代とか時期とか。やっていることは同じなんですけれども、時代が変わったりすると突然居場所が出来たり、意見をもらえたり。それまではどんなに人に作品を見せても無反応なのに、ある時から作品の居場所、展示場所が変わるというのは不思議な体験でした。

  

作品制作後にボロボロになる

 

町田:私は制作に時間がかかるので、ボロボロになって暫く何も出来ない…みたいな感じになるんです。制作後にあんまりボロボロになるので、家族は「何でそうなるの?」という反応です。制作中にある種のトランス状態、ゾーンに入る作家は多いと思うのですが、そういう状態を経た後に作品が完成すると、暫く何もできなくなる。そして再び制作衝動が襲ってくる。

「また怖い時間がくるな」と思うんです。でも衝動があったら始めないと終わらない。その繰り返しです。

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町田久美《留守番の仮面》2005
個人蔵

鈴木:僕はアーティストじゃないので、そのトランス状態や葛藤が分からないですけど。

町田:人それぞれだと思いますが、条件が揃えば誰でも案外スッと入れると思いますよ。

  

作品の立体化をしてみたい

 

鈴木:何か今後やってみたいことはありますか。

町田:自分の作品を立体化してみたいです。

鈴木:見てみたいですね。サイズを大きくしたものも面白そうですね。

町田:立体化するための知識や経験が足りなくて。もし可能なら大理石のような素材を使ってみたいですね。

 

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町田久美《雪の日》2008
国立国際美術館

鈴木:この記事の中でも触れておけば、誰か名乗りを上げてくれるかもしれないですよ。

鈴木:立体化した町田さんの作品をケースにして中に「NIIZAWA KIZASHI 純米大吟醸 2017」を入れるのはどうですか。

町田:それが出来たら、面白いですね。

鈴木:ドン ペリニヨンが、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons, 1955~)とコラボレーションしてドンペリを収納出来るオブジェ《バルーン・ヴィーナス・フォー・ドン ペリニヨン(Balloon Venus for Dom Pérignon)》をつくったことがあるんですけど、NIIZAWAでも、あのようなものも考えています。

《道行》の馬の中にお酒が入っていたら面白そうですけどね。

町田:馬の被り物みたいな?

鈴木:あれで被り物もつくったら更に面白いですね。

町田:何かコラボレーション出来たら嬉しいですね。

鈴木:立体化も是非とも実現しましょう。ARTLOGUEでも呼びかけてみますね。

今日は興味深いお話をありがとうございました。

 

All images: © Kumi Machida, Courtesy of Nishimura Gallery

 

NIIZAWA KIZASHI 純米大吟醸 2017 町田久美

7%という世界最高峰の精米により醸造された新澤醸造店の最高級 日本酒に、毎年アーティストの作品をラベルに採用しています。

2017は町田久美の《道行》

販売サイト:NIIZAWA SAKE STORE

 

[caption id="" align="aligncenter" width="222"]画像を削除しました。 NIIZAWA KIZASHI 純米大吟醸 2017 町田久美[/caption]

 

 

 

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