Untitled, 2017. Lithograph. 70 x 56.5 cm / 27 9/16 x 22 1/4 in. 13/36 + 7 AP.
Photo: Kei Okano. ©2017 Izumi Kato. Courtesy the Artist and Perrotin.
この度ペロタン東京にて、香港での個展を来年に控えた日本人アーティスト加藤泉がリトグラフ作品を発表。フランス・パリのリトグラフ工房Idem Parisで制作した作品を2週間限定で展示、販売いたします。
加藤は1990年代後半にアートシーンに登場して以来、生命の源泉を探る絵画や彫刻によって原始的ともいえる人物像を描いてきました。出芽するかのような生命体の匿名のシルエット、奇妙な表情をした男女両性的ともいえる生き物、そして誇張された人間の姿。これらは形式、媒体、質感において、彼の仕事を特徴づけるプリミティブなイメージの要素です。
物語がないように見える彼の作品には、長年の人生の経験から生まれた世俗的かつ身体的な感覚がにじみ出ています。これはあたかも彼のエネルギーとプリミティブな要素を重ね合わせるかのように、真っさらなキャンバスの上に直接指で描くこと、どちらかといえば練り込むことによって得ることができるものなのです。
少し奇妙さや不気味さも感じる彼の創作の性質に基づき、今回展示されるリトグラフも最初から同じ直感的な身体性を体現しています。18世紀後半に始まったリトグラフの手法は、石灰岩でできた印刷面に直接描くことで元来の作品を再現することができます。(金属板上に制作する印刷方法とは異なります)。グリース(油)と水は混ざり合わないという原則に従い、加藤はグリースをベースとした媒体である”トゥッシェ”というインクを使用し、それを用いて特別な石版の上に絵を描き、より絵画的な効果を生み出しています。版面を化学処理した後、水受容性の非印刷領域および油性分を含んだ領域である描画部分が表面上に生成され、その結果、紙を乗せると油分で描かれた部分だけインクが付着するという仕組みです。
加藤のプリント作品は、19世紀と20世紀の民主的な芸術形態と広告媒体の両方として普及したリトグラフを思い起こさせます。批評家で理論家のウォルター・ベンヤミンによる1936年のエッセイ「複製技術時代の芸術作品」では、芸術作品はかつて、写真や映像の大量複製によって消失したオリジナルの存在から生まれたアウラを持っていたと主張しています。このことを念頭に置くと、加藤のリトグラフ作品(ペインターとしての絵画の技術、ユニークな視覚的言語、全作品に通じる象徴的な人間のモチーフ)は、オリジナル/コピー、真正性/具体性、芸術/商品という二元性におけるアウラの復活といえます。
リトグラフは、各々の色を別々に重ねて印刷しなければならないということから、制作プロセスは非常に手のかかる作業です。また今回の作品らは、加藤自身の厳しい判断のもとに進められ、(以前はピカソやシャガールと制作を行なっていた技術の高い)職人たちと協働して制作されたことはとても重要な特徴です。その結果として、作品は自由に開放され、生き生きとした触覚的な視覚表現が得られました。ローラ・U・マークスは、「触覚的視覚」を視覚表現以外の感覚を巻き込みながら作用し、身体的記憶に働きかけることで見る側と見られる側とイメージのあいだの距離を縮めるダイレクトなものと述べています。彼の日常的な制作活動と同じく加藤のリトグラフ作品は、アーティストとしての思想と肉体を一体化した表現、つまり「心技体」の修練によって作り上げられています。そのように、加藤はキャンバスからも開放され、芸術と人生との距離はなくなっているのです。それどころか、彼の芸術表現が生命の脈動に到達するために突きつめているのは、静かで激しいアウラなのです。
*今展では10枚のリトグラフ作品を展示し、各作品3点ずつ合計30点のみの限定販売となります。
加藤泉
1969年、島根県出身。
1992年に武蔵野美術大学油絵学科を卒業後、現在は東京と香港を拠点に活動しています。2000年代以降、加藤は革新的なアーティストとして注目を集め、2007年には、ロバート・ストーが企画した第52回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際展に招待されました。加藤の作品は、フランスのメッツにあるポンピドゥー・メッスなどの著名な美術館などの展覧会に参加しています。他にも金沢21世紀美術館、原美術館、東京都現代美術館、霧島アートの森、水戸芸術館、ダイムラー・コンテンポラリー(ドイツ)、モスクワ近代美術館(ロシア)、ハイファ美術館(イスラエル)、ジャパン・ソサイエティー(アメリカ)などがあります。
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