「琳派美術館」の異名を持つ京都にある「細見美術館」にて、2022年12月4日(日)まで開催中なのが、江戸や明治時代の絵画に、日本が誇るキャラクター文化を代表する鉄腕アトムや初音ミク、リラックマが登場する展示会「響きあうジャパニーズアート―琳派・若冲 × 鉄腕アトム・初音ミク・リラックマ―」。
本展は、日独交流160周年記念にあわせて、2021年11月から2022年1月にかけて、国際交流基金の主催によって、ミュンヘン五大陸博物館にて開催された「RIMPA FEAT. MANGA」の帰国記念展です。
日本美の象徴といわれる琳派、そして傑出した個性を持つ絵師である伊藤若冲。国内のみならず海外にも広く知られていて人気の高いこれらの美術作品は、後世のクリエイターをも魅了し、創造の源泉となってきました。
本展では、細見コレクションの琳派・若冲作品とともに、細見美術館館長の細見良行氏監修のもと、京都の呉服メーカーであり、日本画の工房でもある「豊和堂」のアートディレクターの山田晋也氏と、友禅絵師の平尾務氏が現代を描く日本画の制作プロジェクト「琳音(りんね)」を展示しています。
日本のポップカルチャーを代表するキャラクターが、琳派や若冲などの名画の一場面に描かれるなど、意表をつくマッチングが見事。例えば、富士山の上空を飛ぶ鉄腕アトム、若冲の鶏の傍らに初音ミク、情趣豊かな自然の中でくつろぐリラックマなど、世代を超えて描き継がれてきた情景の中に出現したり、伝統的なモチーフや人物に代わって登場するなど、大人も子供も楽しめます。
第一展示室に足を運ぶと、まず目に飛び込んでくるのが、近年発見され、関西初公開となる、尾形光琳の幻の名作と言われる《富士・三壺図屛風》。右隻に「霊峰 富士」、左隻に「神仙が住むと言われる三つの霊山」が描かれています。
その絵画をモチーフとして、山田氏と平尾氏が《鉄腕アトム×富士 火の鳥×三壺》として描いており、光琳の作品と対比して鑑賞すると面白い。日本の象徴であり霊峰である富士の上空をアトムが舞い、民の平和を見渡す姿をイメージして描かれたそう。また、中国の神山である蓬莱山に棲む火の鳥が飛び立つ姿を想像して描かれています。
第二展示室には、伊藤若冲の《鶏図押絵貼屛風》が展示されています。速い筆さばきで各様の羽や様々なポーズを描き分けています。墨の濃淡を活かし、躍動感に富んでいる作品です。
それをモチーフとして描かれているのが、《初音ミク×鶏》です。様々なテクニックを駆使して描かれた若冲の鶏と、大胆かつ繊細に表現された初音ミク。衣装の細密な装飾や素材感までも肉筆で写しとっています。弧を描く躍動的な尾羽とミクの髪の流れが呼応し、流麗な美しさが際立った作品です。
山田氏は「特に非常に細かく描き込まれた数字やアルファベットを肉筆で写すのには大変苦労しました。若冲の鶏の尾とミクの髪。流れる古今の美は同じだなと思いました」と述べています。
また、酒井抱一の《桜に小禽図》を題材にした作品《初音ミク×桜に小禽》では、初音ミクが着用している着物に注目。これは、伊藤若冲によって描かれた鹿苑寺(金閣寺)大書院障壁画の葡萄図をモチーフとしたもの。
第三展示室には、豊和堂が手掛けた着物を纏った初音ミクの人形《Dollfie DreamⓇ 初音ミク》も展示されており、必見です。
第三展示室には、神坂雪佳の図案集《百々世草》を題材としたリラックマの作品が、多数展示されています。《百々世草》は、雪佳の代表作として知られ、3冊に計60図が収められています。古典文学や琳派好みの画題を大胆にアレンジし、意表をつくほどの独創的な構図を取るものも多い中、愛らしい動物、季節感のあるのどかな風景など、親しみやすい題材も多く、雪佳らしいおおらかな表現も見どころです。
こちらは、ファッションブランド「エルメス」社の季刊誌の表紙に採用された「八つ橋」をモチーフに、リラックマが描かれた作品《リラックマ×八つ橋》。たくさん咲くカキツバタの中で、ピクニックをしているリラックマたち。
「絹本に何度も色を重ね、ムラのないようにする技法が大変でした」と山田氏は語っています。
以上、「響きあうジャパニーズアート―琳派・若冲 × 鉄腕アトム・初音ミク・リラックマ―」をご紹介しました。琳派は日本の伝統的な美意識に基づきながら各時代に応じた美しい調度類を生みだしてきました。現代においては、身近に置いて癒されるぬいぐるみが人気で、これは時代を反映していると言えるでしょう。古の人も現代人も、美しいものを愛でることは普遍的であることがわかります。ぜひ、響き合うジャパニーズアートを体感しに、細見美術館に足を運んでみてはいかがでしょうか。
■「響きあうジャパニーズアート―琳派・若冲 × 鉄腕アトム・初音ミク・リラックマ―」
場所:細見美術館/京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
会期:2022年9月6日(火)~12月4日(日)
前期/9月6日(火)~10月10日(月・祝)
後期/10月12日(水)~12月4日(日)
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合、翌火曜日)
入館料:一般 1,400円 学生 700円