写真家の枠を超え、映画、デザイン、ファッションなど、多彩な活動を行っている蜷川実花氏。蜷川氏の作品から発せられる色彩は鮮やか、かつ強烈で、まさに唯一無二の世界観を確立しています。そんな蜷川氏の展覧会「蜷川実花展-虚構と現実の間に-」が、11月14日(日)まで、上野の森美術館にて開催中です。
2018年から全国10会場を巡回した展覧会の集大成となる東京展の入り口で、まず目に飛び込んでくるのが、本展のキーカラーとなっている赤い幕。
コロナ禍で劇場に行けない日々が続いていますが、まるで劇場を訪れたかのようなイメージを持って欲しいとのこと。SNSの時代ですが、実際に会場に足を運んで、展覧会を体感してもらいたいそう。
本展は、モニターで花や金魚を投影する『プロローグ』から始まり、色鮮やかな花々を撮影した『Blooming Emotions』と『Imaginary Garden』、著名人を撮影した『I am me』、蜷川自身のセルフポートレート『Self‐Image』、パラリンピアンを撮影した『Go Journal』、写ルンですで東京の街を切り取った『TOKYO』、父 蜷川幸雄氏の最期の一年半の日常を撮影した『うつくしい日々』、桜と藤の花の作品で構成される『光の庭』、そして、書斎を再現したインスタレーションと映像作品『Chaos Room』といった9シリーズで構成されています。
今回は、中でもおすすめのセクションを3つピックアップ! 早速、会場に足を踏み入れてみましょう。
■Blooming Emotions
蜷川氏の作品と言って、真っ先に思い浮かぶのが、色鮮やかな花々の写真です。このセクションでは、蜷川氏が撮影した生花の写真が、壁一面に展示されています。目黒川で撮影した桜の作品は新作だそう。
彼女が撮影する生花の多くは、自然の中にあるがままに咲いている花ではなく、誰かに向けて育てられた花です。花は本来、種子を運ぶために昆虫の目を引きつけるものですが、人間社会との共存の中で、人々の暮らしに多様な豊かさをもたらすパートナーという側面でも繁栄してきました。蜷川氏は、その時々に自身が感じる情感とともに、人々に寄り添って咲く花々の姿を写し取っています。鑑賞者は、作品と向き合う中で、蜷川氏が感じてきた情感をともに体験することができます。
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■Imaginary Garden
このスペースは、壁はもちろん、フロアにも花々の作品が広がっており、鑑賞者の写真スポットになっています。造花やカラーリングフラワー(インクの色水を花に吸わせて作る多彩な色彩の花)といった、自然な組み合わせでは生まれない合わせで飾られた花を撮影した作品を展示。ここでの蜷川氏のアプローチは、ありのままの美、自然の中にある美しさだけを認めるのではなく、人工物やそこにある人の想いや欲望も含めて、世界の美しさと向かい合うものです。
展示された造花の写真はほとんど墓地で撮影されたもの。それは亡くなった人々に寄り添う永遠の美、記憶や思い出が色褪せぬようにとの願いなど、様々な文脈で手向けられた花々です。正気と夢、生と死、一瞬と永遠など、様々な要素が交錯する色鮮やかな空間に飲み込まれる中で、鑑賞者はここではない世界に向けられた人々の欲望や想いの中を漂います。虚構と現実の境界で鑑賞者が感じたイメージや感情は、その人と世界を結ぶ大切なつながりなのかもしれません。
■うつくしい日々
本展示は、蜷川氏の父・蜷川幸雄氏が病に倒れ、ゆっくりと死に向かう一年半の日常を撮影した作品です。作品とともにメッセージも添えられており、これはかつて蜷川氏が行ってこなかった手法だといいます。
蜷川氏が「逝く人の目で撮った写真」と表現するように、一点一点に、家族や人々、そして世界と別れゆく父の視線と、寄り添う娘の視線が重なっています。心のどこかに不安と悲しみを宿しながらも、ふと見上げた空の青さに、芽吹く若葉に、風の薫りに、輝くような生を感じます。
鑑賞者が前向きな感情を掴み取ることができるのは、本作品が命の終わりについての物語であるだけでなく、その命を未来へと紡いでいく物語でもあるからです。父・蜷川幸雄氏への感謝、前向きに生きようとする意思、それでも溢れ出る悲しみ、それら全てを包み込む美しさ。この世界が無常であることの実感とともに、だからこそ感じる淡く儚い輝きを、ゆらめく感情の中で蜷川氏は写し取っています。最後の展示を飾るのは、蜷川氏と息子の影を写したカット。「止まれ」の標識の先に歩みが続くように、命は父から娘へ、そしてその子供たちへと繋がれていくのでしょう。
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今回ピックアップしたセクションの他、蜷川氏が自身の日常を作品として初めて撮影した上記の『うつくしい日々』に続く、日常を題材とした『TOKYO』も見どころ。
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また、これまでの作品の多くは、追憶や夢、幻想や心象風景など、様々なフィクションと多層的なイメージで結ばれてきましたが、2021年春に撮影した桜と藤の花で構成された『光の庭』は、未来というフィクションとイメージから成り、新たなアプローチとなっています。
会場最後の『Chaos Room』は、蜷川氏の自宅から持ってきた家具や本、人形、化粧品など、書斎をイメージしたもの。天井から造花のバラや藤の花、番傘が下がっていたり、プロジェクターとスクリーンからは映像が流れているなど、蜷川実花の世界観が繰り広げられており、圧巻。写真撮影可能なので、ぜひ記念に撮影してみてはいかがでしょうか。
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最後に、蜷川氏からメッセージが届きました。
久しぶりに東京で開催される大規模な個展です。2018年からスタートした巡回展とはいえ、東京に向けて再構築してアップデートしています。これまでの私の作品をまとめて見てもらえる機会をいただけて、とても嬉しく思っています。インスタレーションも多く、体感型の展示内容になっていますので、ぜひ見ていただきたいです
本展は、表現のジャンルを限定することなく時代の先端を鮮烈に示し続ける“蜷川実花”の作品世界を全身で体感できる、またとない機会。ぜひ、会場に足を運んでみてくださいね!
■蜷川実花展-虚構と現実の間に-
会 期:9月16日(木)~ 11月14日(日)
会 場:上野の森美術館
時 間:10:00~17:00
*最終入場は閉館30分前まで
*会期中無休
料 金:平日は日付指定/土日祝は日時指定
*事前予約制です。詳しくは東京会場公式サイト(https://ninagawa-exh.com/)をご覧ください。
【前売券】一般1,600円、大学・高校生1,400円、中学・小学生500円
*美術展ナビチケットアプリのみ
【当日券】一般1,800円、大学・高校生1,600円、中学・小学生600円
*在庫に余裕がある場合、当日午前10時より会場にて販売
*未就学児は無料(日付/日時指定は不要)
*障がい者と介護者1名は無料(入場の際に障がい者手帳要提示。日付/日時指定は不要)
問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)