ノルウェーのオスロに本拠を置く国際的な建築事務所スノヘッタ(Snøhetta)。ランドスケープと建築を融合した持続可能なデザインで、多くのコンペを勝ち抜いて世界的な建築プロジェクトを手がけています。北欧を代表するこの建築事務所の、自然とランドスケープ、ヒトとコトにアプローチする作品のいくつかを2回に分けて見ていきます。今回は、スノヘッタの「ヒトとコトのデザイン」にフォーカスします。
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北欧の光に生きる老人たち
スノヘッタは、建築やランドスケープといった大掛かりなプロジェクトのほかにも、ショップのインテリアデザイン、美術館の展示、グラフィックデザインやサイン計画なども手がけています。
「Living the Nordic Light」は、北極圏に住む100歳を超える4人の老人たちのポートレートとインタビューを中心に、北欧の光と影の歴史を追ったプロジェクト。スノヘッタは、電気のない時代の暮らしや世界大戦の記憶など、生々しい証言と美しい写真で構成された160ページのビジュアルブックをアートディレクション。大きく引き伸ばされたプリントと、老人たちをスキャンした3Dプリント彫刻を並べた展示空間もデザインしました。
ムンク関連のデザイン
スノヘッタは、オスロのムンク美術館の展示デザインを始めとする、ノルウェーの国民的な画家エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch, 1863〜1944)に関連する様々なプロジェクトにも参加しています。ムンク美術館で、2年間で6人のアーティストとムンクのコラボ展示を行う「+ムンク (+Munch)」展のディスプレイも手がけています。
「+ムンク」でフィーチャーされるのは、ノルウェー出身の2人の著名な芸術家、ニューヨーク在住の現代美術作家のビャーネ・メルガード(Bjarne Melgaard, 1967〜)と、オスロの観光名所フログネル公園の奇妙なポーズの人体彫刻で知られる、グスタフ・ヴィーゲラン(Gustav Vigeland, 1869 〜1943)。デンマークを代表する芸術家のアスガー・ヨルン(Asger Jorn, 1914〜1973)やフィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh, 1853〜1890)、写真家ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe, 1946〜1989)、ポップアートのジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns, 1930〜)という顔ぶれ。
スノヘッタは同じくムンク美術館の、今年2018年の9月9日まで開催されている企画展、「柱時計とベッドの間の自画像」展の展示デザインも担当しています。展覧会のタイトルは、1944年のムンクの死の直前まで描かれた最後の自画像《Self-Portrait. Between the Clock and the Bed》から採られたもの。
絵画の展示は、最小限の説明と贅沢に余裕を設けたスペースが設定され、鑑賞者はスノヘッタの製作した巨大な家具の上に座ってじっくりと作品に向き合えます。天井に埋め込まれたビデオスクリーンでは絵画のクローズアップがスローモーションで流され、寝転がって眺めたり、座り直して実物の絵画を確認したりといった自由な鑑賞が可能になっています。
スノヘッタは、オスロ国立芸術大学の建物をリノベーションして2015年に開校した、エドヴァルド・ムンク高校のVI(ビジュアル・アイデンティティ ※理念やコンセプトを体現するロゴマーク等の統一性ある視覚的要素)とサイン計画を担当しています。グラフィックデザインの分野でも、建築理論や心理学、ランドスケープ建築の科学的な手法が見事に取り入れられています。
イマジネーションが膨らむ小人の住む家
「Bloomberry ドールハウス」は、小児病院のチャリティオークションのために製作された作品。「好奇心のキャビネット」というコンセプトでハンドメイドでつくられた三角屋根の家は、屋根に空いた穴や窓から思わず中を覗き込んでしまいます。
チューバルーン
コングスベルグ・ジャズ・フェスティバルのメインステージ、チューバルーン(Tuballoon) は、空気圧で膨らむ設計で、イベントが終わると空気が抜かれて分解されコンテナに収納されます。1年に1度のイベントに繰り返し何回も使えるエコな仕様となっています。コンピューターで音響学的にフォルムが検討され、ホーン楽器や内耳器官を思わせる形状が決定されました。
北欧の地で、コミュニティにコミットしたプロジェクトにも数多く参加しているスノヘッタ。体験する人をワクワクさせる「ヒトとコトのデザイン」にも力を注いで、建築事務所からトータルデザイン事務所へとその歩みを進めているようです。
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