明治期以降の「写実」が一堂に会した「ニッポンの写実 そっくりの魔力」展
明治時代から現代までの邦人アーティストらによる、高精細な写実的絵画・造形作品の約80点を展示した、「ニッポンの写実 そっくりの魔力」展が、2017年6月10日(土)から8月20日(日)まで北海道立函館美術館で開かれています。
西洋文化の本格的な流入が始まった明治維新。美術の世界でも西洋美術の影響を受け、現実を記録し、再現するような写実的技巧が積極的に取り入れられました。そうしたターニングポイントを経ながら、独自に発展を遂げた我が国の精密描写ですが、どのような変遷をたどってきたのでしょうか?その一端を紹介しましょう。
安藤緑山は、牙彫(げちょう)すなわち象牙彫刻の分野で活躍し、上の作品に代表されるような、野菜や果物の細密彫刻を残しました。江戸時代、既に日本の工芸分野では動植物を模した写実的な作品が数多くつくられていましたが、なかでも牙彫は、明治時代さかんに国外へ輸出され、そのブームの中、精緻な技巧を更に向上させました。大正時代につくられたこの作品も、言われなければ、象牙で作られたとは思えないほどリアリティあふれていて、作者の観察眼の鋭さと、それを形に表す技能がよく分かります。
写実画の大家として知られる野田弘志は、戦後多くの画家が抽象画を指向するなか、抽象から写実へと軸足を移しました。まるで剥製をそのまま置いたかのような、《やませみ》は、野田が写実画を始めた頃の作品で、代表作のひとつに数えられます。
スーパーリアリズム画家として、水や生卵といった液体やジェル状の物体が見せる「一瞬の表情」をよく描いたのが上田薫。《スプーンのゼリー》シリーズのように、身近にあるおいしそうな物の写実絵が、観る人の感覚を刺激します。
生粋の写実画家、磯江毅の出世作となったのが《新聞紙上の裸婦》です。モノクロ写真かと見まごう精緻な筆致ですが、実際はジェッソで地塗りした150×182cmの紙に、鉛筆と水彩で描かれています。裸婦像としては珍しく、硬質で静謐な印象を与えます。
成安造形大学の学長も務める洋画家の岡田修二は、2000年頃から琵琶湖の湖畔を題材とした細密画《水辺》シリーズを描き始めました。いずれも、10cm四方の小さな写真から、水辺に浸かった枯れ葉の多様な表情をとらえ、174cm×174cmの油彩画に昇華させたもので、観る者に驚嘆の念を与えずにはおれません。
「キャンバスに描かれた1輪のチューリップ?」と思うでしょう。実はこれ、白壁に留められた木彫のチューリップなのです。作者の須田悦弘は、多摩美術大学在学時の課題で、木彫のスルメを制作したことから、写実的な木彫造形に目覚め、草花を題材にした作品を多く手掛けています。作品は、ガラスケース内で生け花のように展示されることはなく、壁や床、あるいはちょっとしたすき間に置かれ、鑑賞者を新たな体験へといざないます。
ニッポンの写実 そっくりの魔力
会 期:2017年6月10日(土)~ 8月20日(日)
会 場:北海道立函館美術館
開館時間:9:30~17:00(入場は16:30まで)
休館日:月曜日(7月17日を除く)、7月18日(火)
URL:http://event.hokkaido-np.co.jp/sokkuri/
協力:北海道立函館美術館