2017年1月14日、ANAインターコンチネンタル石垣リゾートで「石垣市文化観光シンポジウム」が行われました。主催は石垣市観光文化課。それと、石垣市で注目されつつあるクリエイティブツーリズムの活動を取材して来たので2話に分けてレポートします。
後編「石垣島にみるクリエイティブツーリズムの芽生え」レポートはこちら
南ぬ島 石垣空港 到着
1月14日(土) 12:40ごろ、南ぬ島 石垣空港に到着。この日、本州では寒波が到来し、Facebookのタイムラインでも、各地の雪景色などが多数見られましたが、石垣島は約20℃と、いたって温暖です。早速、コートとマフラーをバックに押し込み、胃袋へと石垣島をインストールすべく、空港内の「やいま村」へ。「ソーキそば (並)」700円と「もずくの天ぷら」100円を食します。
石垣市の概況
石垣市は、面積229.00K㎡、日本列島の最南西端に位置する八重山諸島の中心地であり石垣島と尖閣諸島で構成されています。人口は約49,000人(2016年12月末現在)で、移住者と自然増で人口は増えています。
年平均気温は24.0℃で、最寒月の1月でも平均気温は18.3℃。本年度の観光客数は120万人を突破することが確実視され、ますます観光都市としての地位を確固たるものにしてしつつあります。観光客のお目当てはやはりダイビングやマリンスポーツが一番です。
僕がはじめて石垣島へ行ったのは、2013年6月。LCC Peachのキャンペーンで航空券を取った記憶があります。その時の関空~石垣空港のチケット代はなんと6,590円! 新大阪~東京間の新幹線の約半額です。LCCの台頭も観光客増に大きな影響を与えています。
ただ、石垣島は、東京から約1,952km、沖縄本島からも約411kmに対して台北までは277kmに位置しており、観光だけでなく日本にとっては地政学的にも防衛の要の島でもあります。実際に海上保安庁の方々も多く住んでいるようです。
石垣市文化観光シンポジウム の開催
さて、この楽園のような石垣島で、石垣市の市政70周年を記念し、また、観光都市としてさらなる発展を目指すためにANAインターコンチネンタル石垣リゾートで「石垣市文化観光シンポジウム」は開催されました。
開場してからは、地元ミュージシャンのトランペットとギターの演奏があり、また会場は地元のクリエーター池城安武さん(イチグスクモード)の色鮮やかなシルクスクリーンのテキスタイル作品によって装飾されていました。
「石垣市文化観光シンポジウム」の登壇者は以下の方々です。
・隈 研吾氏(隈研吾建築都市設計事務所主宰/東京大学教授)
・佐々木雅幸氏(文化庁文化芸術創造都市振興室長/同志社大学教授)
・岡田智博氏(クリエイティブクラスター代表)
・平田大一氏((財)沖縄県文化振興会理事長/沖縄「文化プログラム」基本方針検討委員会委員)
・中山義隆氏(石垣市長)
[コーディネーター]
・谷口正和氏(石垣市観光アドバイザー/ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役)
先ず、中山義隆石垣市長の挨拶では、市政70周年を記念して、石垣市役所の新庁舎が隈研吾さんによって設計されることや、石垣市がクリエイティブ・シティ・ネットワークへ加盟したことが報告されました。
その後、基調講演の建築家 隈研吾さんへ引き継がれます。
隈研吾氏の講演「島の文化と魅力の創出」
今の日本でもっとも有名な建築家と言えば隈研吾さんではないでしょうか。ご存知の方も多いと思いますが、隈研吾さんは2020年東京オリンピックメイン会場でもある新国立競技場の設計者です。
プレゼンテーションでは、「北上川運河交流館 水の洞窟」から始まり、「那珂川町馬頭広重美術館」、「竹屋 Great (Bamboo) Wall(中国)」、「スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店」、「浅草文化観光センター」、「アオーレ長岡」など、隈さんのこれまでの作品を紹介されました。
隈さんは新庁舎についても「場所の個性をどう発見するのか、石垣市は個性的なので、その個性を引き立ててまちづくりをしたい。市役所は市民だけでなく、観光客も遊びに来るような場所であるべき」と地元の素材や特性を活かしつつ、サードプレイスとしての市役所の構想も語っていました。
地域の材料を使って、地域をリスペクトして設計するという隈さんの姿勢は学ぶべきものが多いです。
パネルディスカッション 「文化観光都市ISHIGAKI、2020東京オリパラに向けて」
第二部はパネルディスカッションです。石垣市観光アドバイザーでもあり、パネルディスカッションのコーディネーター谷口正和さんを皮切りに、登壇者が一人一人紹介され壇上へと上がります。
谷口正和氏(石垣市観光アドバイザー/ジャパンライフデザインシステムズ代表取締役)
谷口さんが「他にない磨かれた個性、高い独自の固有性が重要。石垣の未来、まちづくりをどう担っていくのかをディスカッションしたい」
と、パネルディスカッションの方向性を示し、市長が最初に発言すると恐縮するので、佐々木さんからと発言を促します。
以下、各人の発言を紹介します。
佐々木雅幸氏(文化庁文化芸術創造都市振興室長/同志社大学教授)
前日、市長に会って創造都市ネットワーク日本に沖縄県ではじめて石垣市に入ってもらった。ユネスコの世界遺産は過去のものであり、これも重要だが創造都市ネットワークは今の都市を対象としており、未来に向けて重要な取り組みだ。創造都市ネットワークには54カ国116都市が加盟しており、日本では、神戸市(デザイン)、名古屋市(デザイン)、金沢市(工芸)、札幌市(メディアアート)、鶴岡市(食文化)、浜松市(音楽)、篠山市(工芸)の7都市が認定を受けている。今は、製造業で雇用を増やす時代ではなく、小さいが新しくクリエイティブな仕事を増やして行くことが重要。
文化、観光、スポーツを感動産業でまとめるのには賛成。物が売れないのは感動がないから。経験経済的視点で、観光もマスツーリズムからカルチャーツーリズム、さらにはツーリストと地元が経験をシェアするクリエイティブツーリズムへ変化するべき。地元のアーティスト、クリエーターとツーリストをつなげる人の役割が重要だが、ホテルでは出来ないのでNPOなどがいい。
隈 研吾氏(隈研吾建築都市設計事務所主宰/東京大学教授)
中心(都市部)ではなく、毒されてない周辺(地方)、イギリスではスコットランド、スペインではグラナダなどの動きが面白い。フランス人はパリっぽいものを作るからパリの建築家が好きではない。石垣市は東京に毒されない新しい核になる可能性が高い。石垣らしさを出すべき。
外の人が見ると新鮮に見える。その視線をどう活かすか。長く残されたものは理想的な形では残っていないので、いかに発見するかが大切。痕跡でも磨き上げて創り上げていく。チェルシーなど中世から残っているのは2割で、あとの8割は19世紀以降に復活させ歴史を作った。伝統や歴史はこれから作っていくもの。諦めたらそこで終わる。
台湾人は石垣島が好き、台湾も工場から観光へと変化してきた。石垣と台湾一緒にやりたい。
岡田智博氏(クリエイティブクラスター代表)
石垣市はすでに創造都市である。たとえば「石垣島 Creative Flag」の活動は、地元クリエーターを集めて、観光、情報発信、農業などに活かし、渋谷のLOFTにも売り場を作るなど、見せるだけで終わっている他の地域よりも進んでいる。しかし、これまでは創造都市と宣言していなかったので、まだまだ認知度は低かった。創造都市ネットワーク日本への加盟によって、さらにつながりが生まれ、強いては地元が触発されてより良いものづくりが成される。
その場での文化を通じて得た経験が市民・島民レベルで感動を呼ぶからこそ、オリンピックで文化が必要。サードプレイスとして集える場、隈氏の設計する新市庁舎にはポテンシャルを感じる。クリエイティブという側面だけでなく、文化を通じた体験を高めることで地域を強くする受け皿としても、そのような場は有為なものとなるだろう。クリエイティブにも地産地消が重要。Creative Flagなどで創作を発信する石垣市は地元の磁場から生まれたクリエイティブをビジネスにしようとしている他には例のない動きがある。
平田大一氏((財)沖縄県文化振興会理事長/沖縄「文化プログラム」基本方針検討委員会委員)
植物は塩に弱いが、淡水と海水の混ざる場所にあるマングローブは生命力が強い。石垣島は外から来ている人が多いので、文化の生命力も強い。「文化観光都市 ISHIGAKI」への提言、文化立県では駄目、文化をただ産業化するのではなく、感動産業(感動体験型産業)にするべき。15年前から感動産業の重要性を唱えてきたので、(沖縄県に)文化観光スポーツ部が2011年に出来て初代部長に抜擢されたのも必然。人づくり産業である、感動産業を広めていく。
現在、パラリンピックの注目度は低い。沖縄は2020年に向けてパラリンピックに特化した文化プログラムを誘致した方がいい。そうすれば障がい者にもやさしいハードインフラが残り、フィジカルチャレンジャーと地元の子どもが出会うことで、子どもの引き出しも増え、それらがレガシーになり沖縄、八重山がバージョンアップされる。パラリンピックはもともと障害を負った米軍帰還兵の更生プログラムでもあった。沖縄には米軍基地が多くあるので平和的使命も担える。
中山義隆氏(石垣市長)
石垣市は台湾や県外からも移住者が非常に多く合衆国のような地域。台湾の方が観光に来たらその辺に生えている薬草やノニを見て町中にお金が落ちていると言う。観光客が増えているのはインフラの影響が多いが、一度来たお客様にどうリピーターになって頂くのかが重要。都会からの移住者が石垣島でも同じ都会の生活を求めれば地元とハレーションを起こす。ただ、移住者が都会で感じたものを八重山、石垣で守るべきものを守りながら、再発見すればより新しく良いものが生まれる。「石垣島 Creative Flag」などの活動には期待している。
2020年、オリンピックで世界中から日本は注目される。東京だけでなく隈さん設計の新市庁舎で石垣市も一緒に注目されたい。
ドイツ陸上競技連盟のナショナルチームの合宿を誘致している。沖縄の高校野球が強くなったのはプロ野球のキャンプが来たからで、一流、本物を見ることが重要。石垣市のポテンシャルは高い、本物を一つ一つ見つけていくことが大切。
シンポジウムを終えての感想
パネラーの発言や、谷口さんの素晴らしいファシリテーションもあり、今回のシンポジウムで石垣市の文化観光の方向性がしっかり見えました。
しかし、隈さんが仰っていたチェルシーの中世から残っているものは2割というお話は驚きでした。残されているものは痕跡でも磨き上げて創り上げるというのは、どの地域でも実践可能なことで大切ですね。
また、自分たちの地域の良さは、なかなか地元の人では気づきにくいので、佐々木さん、隈さん、岡田さんのような外部の目が価値を見出し、中山市長はじめ、平田さんやCreative Flagに関わるクリエーターなど、地元の人がそれらを活かし実践していくことが、地域のポテンシャルを最大化し活性させることにつながるのでしょう。
ともすれば、都市部の代理店がまるごと請け負って、地元の人が介在することなく進められがちな地方創生事業ですが、外部の視点と内部の力が上手く合わさることで、いい循環作用からレガシーとして残るようなモノゴトになる予感がします。
今回のシンポジウムを通して、創造都市石垣が生まれる瞬間に立ち会った気がします。
後編「石垣島にみるクリエイティブツーリズムの芽生え」レポートはこちら