アートでイノベーションするホテル「ホテル アンテルーム 京都リニューアル+ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」

三木学2016/08/31(水) - 15:06 に投稿
アートでイノベーションするホテル「ホテル アンテルーム 京都リニューアル+ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」
ホテル アンテルーム 京都 正面にストリート・アーティスト、BAKI-BAKIのデザインが施されている。

現代アートの発表の場としての京都

最近、京都のアート・シーンが活発です。京都は美術・芸術大学が集積しており、伝統的に現代アートが盛んな地であるといえます。 かつて日本の現代美術は「西高東低」と言われた時期がありましたが、京都は制作の場であり、発表の場は東京や世界という位置づけで見られていたかもしれません。現在でも、日本だけではなく世界各地で開催されている芸術祭で、京都の美術・芸術大学出身者が多数活躍しています。 しかし、最近では京都にも様々なアートスペースができ始め、発表・発信の場としても注目が集まっています。 なかでも、ホテルとアートの相性はよく、幾つかの魅力的な試みが行われています。その一つ、京都駅の南側の市営地下鉄九条駅の近くにある「ホテル アンテルーム 京都」は、予備校の学生寮をリノベーションし、ホテルとアパートの両方の機能を兼ね備えたユニークな施設として知られています。ホテル内にあるGALLERY9.5では、彫刻家の名和晃平率いるSANDWICHがディレクションしており、若手の有望作家など様々なアーティストがフィーチャーされています。 現在GALLERY9.5では、京都造形芸術大学ウルトラファクトリーに集うクリエエイターによる「ULTRA×ANTEROOM exhibition 2016」展が開催されています。 名和晃平、ヤノベケンジ、やなぎみわ、山本太郎、淀川テクニックと言った世界的に活躍する著名アーティストの他に、アート・ディレクターでアーティストとしても活動をしている増田セバスチャンや、写真家としての顔も持つ俳優の永瀬正敏がヤノベケンジとのコラボ―ション作品を出品しています。 さらに、今年のベネチア・ビエンナーレ国際建築展で特別賞を受賞した建築集団ドット・アーキテクツ、grafを率いるデザイナー、服部滋樹、様々なイベントや媒体をオーガナイズするデザインスタジオUMA/design farmなど、現代アートに留まらない、バラエティに富んだ顔ぶれになっています。 今年で、「ULTRA×ANTEROOM」と銘打たれた展覧会は、3回目となり、過去最大規模24組のアーティストの作品を見ることができます。ウルトラファクトリーとは、ヤノベケンジがディレクターである京都造形芸術大学の共通立体工房で、今回出品している様々なアーティストやクリエイターが実践教育「ウルトラプロジェクト」を行っています。 ウルトラプロジェクトを技術面で支えるスタッフやウルトラファクトリー主催のアート・コンペで選ばれた若手アーティストも出品しており、実践的な制作現場としての大学と発表の場としてのホテルの共同企画となっているところもポイントです。
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入口すぐにあるGALLERY9.5で開催されている「ULTRA×ANTEROOM exhibition 2016」展。九条と十条の間の通りに、ホテル アンテルーム 京都があるためGALLERY 9.5と命名されている。
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増田セバスチャン《Colorful Rebellion-Japanesque-#2》2015 「色彩による反抗」をテーマに、世界中で集めたカラフルなアクセサリーなどを、コラージュのように貼り付けていく半立体的な作品。「和」をテーマにした本作は、増田には珍しく緑がベースカラーだが、補色の赤紫がアクセントカラーであるため、効果的な配色になっている。
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永瀬正敏《ATOM HELMET in the Past and Future》2016 高松市美術館で開催中の「シネマタイズ」展でも出品されているヤノベケンとのコラボレーション作品。高松市美術館では、展覧会期中、館内で林海象監督、永瀬正敏主演のSF短編映画『BOLT』が撮影中である(2016年9月1日現在)。
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淀川テクニック《九官鳥 No.1》2015 淀川河川敷のゴミや不用品などを集めてオブジェを作ることで知られる淀川テクニックの立体小作品。「瀬戸内国際芸術祭」で制作した作品《宇野のチヌ》など、巨大作品が有名であるが、小作品によって精巧な技術があることがわかる。
 

アートに浸る部屋

今回、ホテルアンテルーム京都では、5周年を迎えるにあたり、大幅なリニューアルを行いました。新たに67室を増床し、128室とする他、名和晃平+SANDWICHがアートディレクションを行い、国内外で活躍する8組のアーティストがホテルの一室全体を制作・コーディネートした「コンセプトルーム」が新設されています。 名和晃平、蜷川実花、ヤノベケンジ、金氏徹平、BAKI—BAKI+井上正博、宇加治志帆、宮永愛子、矢津吉隆(KYOTO ART HOSTEL kumagusuku)の8組のアーティストは、それぞれの世界観を、作品だけではなく、調度品に至るまでディレクションし、ホテルの一室全体を使って表現しています。その結果、ホテルに飾られているアートや美術館に展示されているインスタレーション以上に、部屋と作品が一体化した空間になっているといえます。 部屋と作品の一体化が際立つのは、桜をモチーフにした写真を、壁紙、カーテン、ベットカバーなどにプリントし、部屋全体を被膜のように覆った写真家、映画監督の蜷川実花のコンセプトルームです。カメラの起源は、カメラ・オブスキュラというラテン語で「暗い部屋」を意味する光学装置にあり、現在でもイタリアではホテルの部屋のことを「カメラ」と言います。蜷川実花のコンセプトルームは、彼女がカメラを通して見たイメージが部屋に投影されていると捉えることができるかもしれません。
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蜷川実花コンセプトルーム 蜷川実花ならではのビビッドな桜の写真で部屋全体が覆われている。散らない桜が常設のアート空間であることのアナロジーになっている。庭には本物の桜が植えられており、季節外れでも想像力を掻き立てられる。
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カメラ・オブスキュラは、暗い部屋の壁面に小さな穴を空けることで、反対側の壁面に外の光景が倒立(上下左右反転)して映る光学装置。図版は「17世紀のカメラ・オブスキュラ。部屋を暗くし、壁に開けた穴から屋外の風景の光をキャンバスの上に映し出す」(Wikipedia)
まさに、「暗い部屋」を作ったのが、自らも京都でアートをテーマにしたホステル(ゲストハウス)である、KYOTO ART HOSTEL kumagusuku(クマグスク)を運営する矢津吉隆のコンセプトルームです。クマグスクのコンセプトをアンテルームに入れ込むという入れ子構造を作り、ホテル内ホステルとして構成されています。色材会社ホルベインと共同製作したという漆黒の塗料を部屋中に塗り、空間を壁面で遮断して60inchの巨大モニターが設置された映像鑑賞のための特別な空間といえるでしょう。僕が行った時は、流れている映像は倒立しているように見えたので、もしかしたら、カメラ・オブスキュラの擬似体験ができるかもしれません。
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矢津吉隆コンセプトルーム 自身が運営するアートホステル「クマグスク」をホテル内で擬似的に設営。部屋の中にさらに部屋があるような構成になっており、中に入ると暗闇の空間になっている。漆黒の闇の中で、巨大モニターによる映像が鑑賞できる。
アーティストが作ったという手触りが感じられるのは、宇加治志帆のコンセプトルームです。ウォールペインターでもあるため、壁面や空調ダクトを自分で塗り、部屋自体が一つの抽象画のように見え、絵画に包まれた気分になれるでしょう。パステル調の配色に窓から差し込む光や照明も魅力的です。
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宇加治志帆コンセプトルーム ベッドの上の壁面には、平面作品が飾られているが、壁面や天井には直接ペインティングされている。面をまたいで色が塗られているため、より絵画にくるまれているように感じる。 ダクトなどへの立体物へのペインティングは、絵画からオブジェが飛び出したような効果をもたらしている。
花柄、パステルのような華やかさと、暗闇の中間にあるのが、名和晃平のコンセプトルームです。壁面には、立てかけたキャンバスの上から塗料を流し、重力の力のみで描く手法を用いた「direction」シリーズの一環として、グレーの塗料を用いた絵画が飾られています。庭には採石場から運び出した石を円形に積み上げ、中央には彫刻作品《Ether》 が置かれています。部屋の内と外で名和の関心事の一つである重力が、下への力を感じる《direction》と、上への力を感じる《Ether》によって示されており、睡眠と目覚めのメタファーになっているようにも思えます。
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名和晃平コンセプトルーム 全体を灰色にしてシックにまとめているが、ところどころに、名和の小作品が飾られおり、効果的な演出がなされている。青森ヒバのバスタブなども設置されており、抑制的ながらリッチでリラックスできる空間。
ヤノベケンジは、もともとホテルにあった洋服用の壁掛けフックの形状を巨大化させてベッドの上の壁面に設置しています。一見すると蛸のようなユニークな形態となったオブジェには、ナイトランプの機能も付いています。日用品を巨大化させる手法は現代アートでは珍しくないですが、ビックリハウス的な面白さと、手作り的な仕上げ、機能性へのこだわりに加えて、ドローイングに描かれているヤノベの巨大作品《サン・シスター》が使う洋服用の壁掛けフックという設定や物語性にニヤリとしてしまいます。
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ヤノベケンジ・コンセプトルーム キャラクター性や物語性があり、機械彫刻などによる派手な演出で知られるヤノベであるが、今回はホテルの洋服用の壁掛けフックをモチーフに自分の世界観を組み合わせて提示している。落ち着いて休息できるホテルの機能を損なわないことを重視しており、空間に適合させることの上手いヤノベらしい配慮が伺える。
 

「365日アートフェア」とアトリエの同居

その他の「コンセプトルーム」もそれぞれ完成度が高いですが、今回の目玉は「365日アートフェア」というリニューアルのコンセプトを実現した1階から6階までの部屋かもしれません。若手アーティストを大胆に起用し、約70組、200点以上の作品が各部屋に飾られています。それらの作品はすべて購入ができ、購入されたらアーティストは、新たな作品を展示するルールになっており、新陳代謝も行われるというわけです。 ホテルでのアートフェアは、以前から世界各地で行われ、近年日本でも活発に開催されています。 ただし、期間中は実際のホテルの宿泊機能は停止され、ベッドを含めた部屋中に作品が展示されることになります。多くの作品を効率よく観られる一方、人気があるアートフェアは人でごった返しになるため、アートの理想的な鑑賞状態から遠ざかるという逆説があります。 「365日アートフェア」とは、つまり「常設」にすることで、時間をかけてアートと親しみ、自分や自分の部屋との相性を考え、作品を購入できるというわけです。名和晃平らが考えたコンセプトには、ホテルとアートの関係自体を再構築(リニューアル)することが含まれているのでしょう。 アートフェアのようにすべての部屋を見回ることができないというデメリットがあるとはいえ、ホテル本来の機能とアートの理想的な鑑賞環境の両方を満たすための意欲的な試みといえます。今後、若手アーティストの作品販売の有効な方法としても期待ができそうです。 また、今回のリニューアルでは、アトリエも新設されたので、遠方から来るアーティストの滞在制作や、アパートメントに住むアーティストの理想的な制作環境になるかもしれません。一過性のホテルだけではなく、アパートを兼ね備えているアンテルーム京都ならではの取り組みといえ、制作されていく成果物も期待できそうです。 朝食レストランやバーなどの共有施設も充実しており、京都におけるアート&カルチャーの新たな発信&制作の場として、シーンを牽引していく、コア施設の一つになる可能性があるといえるでしょう。京都に遊びに来る際は、ホテル アンテルーム 京都に宿泊してアートに浸ってみてはいかがでしょうか?
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7月22日(金)に開催された名和晃平(彫刻家)、中原典人(建築家)、五十嵐太郎(建築評論家)によるトークショー。 関係者を含め約600人が集まったということもあり熱気を帯びていた。すでに大きな発信力があることを証明したといえる。
  ホテルアンテルーム京都 http://hotel-anteroom.com/ 「ULTRA x ANTEROOM exhibition 2016」 会期:2016年7月14日(木)-9月11日(日) 会期中無休・入場無料/営業時間:12:00~ 19:00 http://hotel-anteroom.com/gallery/1481  
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