中之島香雪美術館の開館記念展「珠玉の村山コレクション~愛し、守り、伝えた~」は、朝日新聞社の創業者・村山龍平(1850~1933)が収集した美術品の中から、約300点を選りすぐり、1年間5期にわたって紹介しています。館所蔵品は重要文化財19点、重要美術品23点を数え、時代や作家を代表する名品も多くあります。これらの所蔵品に、村山家から寄託された美術品を加えた「村山コレクション」は、これまでまとまった形で紹介されたことはなく、今回が初めて全容を公開する機会となります。
第Ⅲ期展「茶の道にみちびかれ」では、村山が茶会で用いた茶道具約80点を紹介します。
Ⅲ期のみどころ
村山自身、元は茶の湯が好きではなかったと語っていますが、その言葉とは裏腹に、美術品の鑑賞から次第に茶の湯へと傾倒していきます。大阪を中心とした実業家18名が参加した茶の湯の会「十八会」の発起人に名を連ね、さらに神戸・御影の自邸には茶室「玄庵」を建てました。本展では、村山が茶の道に導かれつつ収集した茶道具の優品とともに、明治35年(1902)に大阪の自邸で開いた第3回十八会、大正11年(1922)に京都鷹峯の光悦寺で開催された光悦会、同13年に神戸御影の自邸で開いた玄庵残茶会について、当時の記録をもとに道具の組み合わせを紹介します。さらに、大正時代に刊行された名物茶道具カタログである『大正名器鑑』に収録された、村山秘蔵の茶入と茶碗12点を一堂に展示します。
唐物「肩衝茶入 銘 薬師院」(南宋~元時代、13~14世紀)は、茶席で抹茶を入れておく道具で、室町時代後期(16世紀)の記録に登場し、400年以上前からその存在が確認できる名物茶器です。
侘び茶を大成した千利休の美意識が窺える作品も紹介します。「桂籠花入」(桃山時代、16世紀)は、京都の桂川で漁師が使っていた魚籠を利休が花入に見立てたとされています。長次郎「黒楽茶碗 銘 古狐」(重要美術品、桃山時代、16世紀)は、装飾性を徹底的に排除して質素さを追求した、利休好みの茶碗です。
また、村山が開催した茶会の記録をもとに、その道具の組み合わせを紹介します。伊賀「耳付花入 銘 慶雲」(桃山時代、17世紀)や、池大雅「六遠図・試錐図巻」(重要美術品、江戸時代、18世紀)、長沢芦雪「山家寒月図」(江戸時代、18世紀)は、明治35年(1902)に開催された第3回十八会において、実際に用いられました。
大正時代に刊行された豪華名物茶道具カタログである、『大正名器鑑』には、旧大名家の華族や財界人が所蔵していた茶道具が収録されています。瀬戸「大覚寺手茶入 銘 初雁」(江戸時代、17世紀)や、瀬戸・美濃「黄天目」(室町時代、16世紀)をはじめ、ここに収録された村山所蔵の茶道具を一堂に展示します。
日本製の茶器に華やかな色彩を持ち込んだのは、京都で作られた京焼です。その華麗なスタイルを完成させた野々村仁清による「色絵諌鼓鶏形香炉」(江戸時代、17世紀)や、琳派風の懐石道具を得意とした尾形乾山が制作した「色絵立葵文透鉢」(江戸時代、18世紀)のような、時代の古さを感じさせない卓越したデザインによる作品も出品します。
※期間中、展示替えがあります。
美に寄せる想い─村山龍平記念室(常設展示)
中之島香雪美術館では、村山龍平の生涯を紹介する常設展示「村山龍平記念室」を設けています。村山の足跡を大型年表や解説パネル、映像などでたどるほか、貴重な展示品や再現展示をおりまぜ、村山の美への想いを立体的に感じとれる構成となっています。
みどころは、神戸・御影の香雪美術館本館敷地内にある「旧村山家住宅」紹介コーナー。洋館、和館、茶室棟(玄庵)などの建物と庭園からなる広壮な邸宅は、有力財界人が住まう関西屈指の高級住宅地として発展した御影にあって、明治・大正時代の姿をいまなおとどめる貴重な作例として、国の重要文化財に指定されています。
洋館の河合幾次、和館書院棟の藤井厚二ら、当時屈指の建築家が腕を振るった建物には、施主である村山自身の意向も随所に色濃く反映され、美を愛した村山の姿を彷彿とさせます。常設展示では、全景ジオラマ模型や映像で邸宅の全容を紹介するほか、洋館2階の居間を再現展示。豪壮な洋室に竹をあしらった和風意匠の家具・調度を置くというユニークな空間構成は、村山の好みによるものでしょう。洋館の内装全体を担当した小林義雄は、日本のインテリアデザイナーの草分けとして知られ、1階食堂の椅子の背に貼られた「MADE EXPRESSLY BY YOSHIO KOBAYASHI(小林義雄謹製)」のプレートからは、小林にとっても特別な仕事であったことがうかがえます。
村山龍平と美術との関わりでは、『國華』特集展示コーナーも見逃せません。明治22年(1889)、岡倉天心らが創刊した『國華』は、現在も刊行を続ける美術雑誌として世界最古の歴史を誇ります。「夫レ美術ハ國ノ精華ナリ」と日本美術の復興を目指し、精巧な木版口絵や最先端のコロタイプ印刷を贅沢に使用した雑誌でしたが、すぐに行き詰まり、朝日新聞社の共同経営者で東洋美術への造詣の深い村山龍平と上野理一が全面的に経営支援することとなりました。ことに村山の『國華』への愛着は深く、新たに収集した美術品は同誌上でたびたび紹介されており、開館記念展でもその一部を展示します。
中之島玄庵~再現プロジェクト~
中之島香雪美術館の茶室展示室である「中之島玄庵」は、旧村山家住宅(神戸・御影)に建つ国指定重要文化財の茶室「玄庵」を、原寸大で正確に再現してあります。茅葺き屋根、土壁、柱など、本物と同じ材料を使い、伝統的な技法で造りました。建物の周りの「露地」についても、できる限り忠実に仕上げています。
御影の「玄庵」はもともと、藪内流家元の茶室「燕庵」(重要文化財)の忠実な「写し」です。茶の湯の世界では、この関係を「本歌」と「写し」と呼び、家元の相伝にかかわる厳粛な行為です。さらにその「写し」である中之島玄庵もまた、古田織部好みの様式を伝える貴重な茶室建築といえます。
展示にあたっては、茶室正面の土壁部分を取り外せるように造作しており、本来、外部からはうかがいにくい茶室内部の空間を、見やすく工夫しています。古田織部好みの三畳台目に相伴席の付いた間取り、十一カ所ある明かり取りの窓、三十種類余りの天然の木材など、この茶室に凝縮した茶の湯の美意識が、手に取るように感じられます。
また、茶室を囲む壁面上部には、御影の四季の風景をCG加工した映像を映し出し、自然の移ろいの中で変化する茶室の様子を楽しんでいただけます。
この再現プロジェクトは、京都伝統建築技術協会理事長で京都工芸繊維大学名誉教授の中村昌生氏が設計・監修し、元禄年間創業の安井杢工務店が建てました。露地は中根庭園研究所が監修しています。「玄庵」の実測調査から材料の選定・加工、組み立てにはじまり、茅葺き、土壁の仕上げなど、プロジェクトの過程を紹介する映像も展示室で見られます。
開催概要
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会 期:2018年7月7日(土)~9月2日(日)
※前期:7月7日(土)~8月5日(日)、後期:8月7日(火)~9月2日(日)
ギャラリートーク:7月21日(土)、8月18日(土)16:00から1時間程度、展示室にて
会 場:中之島香雪美術館
時 間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休 館:月曜(祝日の場合は翌火曜日)
入館料:一般900(700)円、高大生500(350)円、小中生200(100)円
※()内は20名以上の団体料金
中之島香雪美術館開館記念展 フォトギャラリー
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