動物なのか、昆虫なのか。
ボディーはプラスティックチューブ。ペットボトルを装着し、風を食べて動く巨大な生物。
それがオランダのアーティスト テオ・ヤンセン(Theo Jansen)氏が生み出した「ストランドビースト」です。オランダ語で砂浜という意味のストランドに生物という意味のビースト。
彼らは通常、浜辺で生息しています。
その動く姿は一度見たら忘れられません。何となく、風の谷のナウシカに出てくるオウムのようにも見えます。足音も似ています(笑)
彼らは、実際目の当たりにすると画像や映像で見る以上に「生物」です。閉館後の人が誰もいなくなった真っ暗な美術館内では、ビーストたちが伸び伸びと自由にうごめいているのではないか、なんてふと想像してしまうほど。
そんな人工生命体「ストランドビースト」が、この夏、三重県に13体上陸しています。
ストランドビーストは、海水の水位上昇が問題となっているオランダの国土を守る生物として着想されました。
ボディーがプラスティックチューブのみで形成されている理由は、彼らを機械ではなく生命体にするため。人間がタンパク質でできているように、単一素材で完成させることにこだわっているのだそうです。
そして、全てのビーストは夏が終わると死を迎えます。墓場と呼ばれる場所に運ばれて、展示会時に新たに組み立てられ、再生されるのだそうです。
「三重県立美術館 開館35周年記念Ⅱ テオ・ヤンセン展 人工生命体、上陸!」
今回この展覧会開催にあたり、来日したテオ・ヤンセン氏がインタビューを受けて下さいました。
羽田沙織(以下H):今回、東海・関西圏では初となる大規模個展ですが、スタートして今のお気持ちはいかがですか?
テオ・ヤンセン(以下TJ):ここに来てすごく歓迎されているのを感じているし、来てくれる人もすごく親切で心が温かいので、自分もそれにお返ししたいと感じています。
また美術館の35周年記念で呼んでもらえたことをとても光栄に思います。
ちょっと前に、津の海も歩いてきました。すごく気に入って、次に生まれてくるストランドビーストのアイデアを色々と想像しました。
H:日本からインスピレーションを得て作品になることもあるのですか?
TJ:もちろんです。日本の皆さんの反応を見るのはすごく作品に影響を受けているし、日本にはもう10回も来ていて友達もたくさんいます。
ちょうど今日の午後に来た人が、小さな切手が木箱に入った民芸品をプレゼントを下さったのですが、日本のものは、後ろのちょっとした細かい細工のようなものがとても好きでインスパイアされています。それに、日本には、竹でストランドビーストを作った人もいます。手先が器用なところがとても好きです。
H:世界各地で、色々な素材のストランドビーストが生まれているのですね!
TJ:はい、たくさんの国で生まれています。WEBサイトにストランドビーストの作り方の秘密をアップしていて、誰でも使えるオープンソースにしているので、それを見て、アメリカ、サウスアフリカ、サウジアラビアなどの学生たちがストランドビーストを作ってくれています。本当は、ストランドビーストは、浜辺で生きるものですが、学生たちのラボラトリーや本棚などでも生きているんです。それはまるで、学生たちがストランドビーストウィルスに感染してしまい、そのウィルスにストランドビーストを作らされているようです。そうしてストランドビーストは世界中に増殖しているのです。
H:今の時代、作品がネット上で拡散され偽造されることなどを恐れて、画像の権利関係も厳しくなっていますし、そもそも通常は制作のノウハウなどは非公開にするものだと思いますが、なぜ敢えて公開しているのですか?
TJ:特許を取って工場とか会社とかとやりとりをするのは、自分にとってはすごく煩わしいことで、それよりは、貧しいままで海岸にいた方がいいと思って。
それに、拡散されることによって、それがテオ・ヤンセンのものだっていうことが逆にわかるので、それで他の人がマネできなくなっているってこともあります。みんなに知れ渡ると、弁護士を雇うより楽です(笑)
テオ・ヤンセン氏がストランドビーストの制作を開始したのは1990年。
今年2017年までのこの27年間は、12の時代に分けられ、ビーストたちはその時代毎に様々な進化を遂げています。
時代設定は、ストランドビーストの制作が開始された1990年は「前グルトン期」
現在2017年は「ブルハム期」
2006年からの2年間の「セレブラム期」には、ビーストたちが、強い風や潮などの危険から回避する行動を自主的に取るようになりました。
2016年から始まった現在の「ブルハム期」は、イモムシ型のビーストの時代。関節部への砂の混入という課題が克服され、重量のある帆や筋肉を備えることも可能になったそうです。
まるで恐竜たちが繁栄した時代が「ジュラ紀」と呼ばれているように、ストランドビーストたちにもそれぞれに時代が設定されているのです。
その独特な時代設定についてや、今後ストランドビーストたちはどんな進化を遂げていくのかについてもお話を伺いました。
羽田沙織(以下 H):ストランドビーストはとても動きがナチュラルで驚きます!この動きはどのようにして生まれたのですか?
テオ・ヤンセン(以下 TJ):動物のような動きを最初から目指していたわけではなくて、ストランドビーストを歩かせる時に、コンピュータープログラムを作って、どの手段が一番機能的に良いかと考えた結果、あのようになったのです。それは美しさを求めていたわけでもなく、機能を追い求めてできたものです。
地面に足がついている時間が長ければ長いほど、空中に浮いている時って足は何もやっていないので、ある意味、無駄な動きになります。
その時間を減らす一番いい動きをプログラミングで生み出したのです。でも実際に動物の動きを見ているとそうやって動いているものが多くて、結果的にそこがクロスしていたのです。
H:ストランドビーストとご自身の関係性を教えてください。テオさんはビースト達の親なのですか?それとも友達?ペット?
TJ:(笑いながら)もちろんストランドビーストたちのことは愛しているけれど、家族やペットを愛するのとは随分違っているよ。どんなに好きでもワニやサルを愛せないように、ストランドビーストとはちょっと関係が遠いかな。
H:では、何か呼び名(ニックネーム)のようなものをつけることはないですか?
TJ:「カモーン!動物たち!!戻ってこーい!」なーんて呼ぶ必要がないからね(笑)
ニックネームはないよ。
H:ストランドビーストの生息する時代設定について教えてください。
TJ:進化の過程の時期は、作るときに使っていた道具から来ていることが多いです。
ヒートガンで温めて作っていた時期は、ヒートガンからきた名前「カリダム期」を付けているし、結束バンドとかセロテープを使い始めてこれはいいな!と思った時は、そこから名前「グルトン期」を付けました。
H:なるほど!では、今後のストランドビーストの進化について聞かせてください。
TJ:私としては、ストランドビーストを生存させるということが最大の目標で、自分自身がいつか死んだ後でも、ストランドビーストが生き残れるようになることが大事です。
今まで色んな進化の過程があって、今回の新作は別の系統から出てきていますし、そういったものを全てうまく合わせて1つのストランドビースト、最終形態みたいなものが作れたらいいなと考えています。
H:どんなに進化をとげても、テオさんのストランドビーストの生息地はやっぱり浜辺なんのですよね?
TJ:そう!浜辺というのはとても大事。ずっと海の近くで生まれ育っているし、自分の脳みその半分は砂でできている位だからね(笑)
物理を勉強していた時は15㎞ほど陸地に入ったところにいたのですが、すぐに海が恋しくなって戻ってきたよ。
H:では最後に、今回の展覧会の最大の見どころを教えてください。
TJ:全てです!ただ、イモムシ型のものが新作で、まさに今も制作に取り掛かっている最中です。来週オランダに帰った後も、イモムシ型の新作を作るので、それはとても注目してもらいたいかな。
「アウルム期」(2013年~2015年)という時代に生まれた《アニマリス・プロボシス》というビーストは、2体が対になっていて、風を受けると、まるでその2体が求愛行動でもするように頭を振り合います。
テオ氏が、ただ単純に動きが面白いから作ったというちょっと異質のビーストです。
ストランドビーストは自ら増殖していくことはありません。しかし、作品を見た人たちが、時にコミュニティまで作り、自分たちのストランドビーストを続々と生み出しているのです。
こうしてストランドビースト達の進化の過程を見ていると、いつか本当に彼らは地球を救う生物になりうるのではないか、と思えてなりません。
三重県立美術館 開館35周年記念Ⅱ テオ・ヤンセン展 人工生命体、上陸!
会 期:2017年7月15日(土)~9月18日(月)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休 館 日:毎週月曜日(ただし7月17日、9月18日は開館)/7月18日(火)
開催場所:三重県立美術館
観 覧 料:一般=1000(800)円/学生=800(600)円/高校生以下無料( )内は、前売りおよび20名以上の団体割引料金
U R L:http://theojansen-mie.com/
TheoJansen Japan OfficialHP:http://theojansen.net/