新型コロナウイルス感染症の影響を受けて3年ぶりの開催となった、日本を代表する都市型大規模音楽フェスティバル「SUMMER SONIC(サマーソニック)」。THE 1975やMÅNESKIN、King Gnu、RINA SAWAYAMAなど、国内外のアーティストが豪華に多数集結し、あらゆる音楽ファンを満足させてくれました。久々に戻ってきたサマソニには大勢の観客が参戦し、大変な盛り上がりをみせ、熱い夏となりました。
そんなサマソニ東京会場において、日本の現代アーティストを世界トップレベルに育てていくことを目的に、文化庁主導の音楽とアートを融合させた分野横断的な取り組み「Music Loves Art in Summer Sonic 2022」が初めて実施されました。国際的に影響力のある音楽イベントであるサマソニにおいて、金氏徹平やレアンドロ・エルリッヒなど国内外の現代アーティスト5名の大型作品を、「ZOZOマリンスタジアム」および「幕張メッセ」に展示。日本の現代アート作品を世界的なトップアーティストの作品と一緒に発信することを通して、日本のアーティストの国際的な評価を高めるとともに、グローバルに活躍の場を広げるための原動力となることを狙いました。あわせて、今回の展示を通じて、日本が現代アートの国際拠点となるための一端を担うことを目指したそう。
山峰潤也キュレーターは「海外ではコーチェラなど、音楽とアートを融合したミックス型カルチャーの取り組みが行われている。日本では現代美術の認知度が低く、分野ごとの切断が大きい。今回、展示する5人の作家の作品は、アートを初めて観る方にも広くリーチできるものばかり。海外アーティストも日本との親和性が高い方を選んだ。今の時代において、アートが観られていく必然性を強く感じている」と述べています。
次に、「Music Loves Art in Summer Sonic 2022」にて展示された5名のアーティストの作品についてみていきましょう。
小林健太
サマソニの顔となるZOZOマリンスタジアムのメインゲートでは、写真家の小林健太による作品《フラグメンツ・オブ・メモリー》(2022)が観客をお出迎え。この作品は、本企画のための新作です。
これまで「Louis Vuitton(ルイヴィトン)」や「DUNHILL(ダンヒル)」といったファッションブランドとコラボした経験を持つ小林は、この作品の中で指先ツールという写真のレタッチで用いるツールを使用。まるで絵具のストロークのような表現を、渋谷の風景を撮影した写真作品の中で行いました。写真のベーシックな部分にオーロラフィルムを入れることで、都市空間の煌めきを表現。また、ミラー状のピースも用いており、そのおかげで作品の中に鑑賞者が映り込み、作品の一部となる楽しい側面も。破片が散らばったようなリズム感のある作品は、音楽的要素も感じさせます。
金氏徹平
様々な彫刻や平面作品、また舞台芸術も手掛ける、世界的に注目を集めているアーティスト金氏徹平。彼がサマソニのために手掛けた新作《Hard Boiled daydream( Sculpture/Spook)#A.B.C》(2022)は、今や世界語になっている「マンガ」からインスパイアされた作品です。
マンガといえばキャラクターが主役の世界ですが、金氏はマンガの背景に描かれているモノに注目。金氏によると、高度経済成長の中で、マンガにモノが描かれることが多くなったという話を研究者からも聞かされたそうです。背景にある見過ごされてしまいがちなモノたちにフォーカスして生まれた作品です。手前から2m、4m、6mといった巨大な作品を、遠近法で鑑賞できます。小さいものとして見慣れている平面的なマンガの世界を、軽やかでありながら、圧倒的な大きさのスカルプチャーによって表現しており、一見の価値あり。
レアンドロ・エルリッヒ
金沢21世紀美術館に恒久設置されている《スイミング・プール》や、森美術館での個展など、日本との親和性が高い、国際的に活躍するアルゼンチン出身の現代アーティスト レアンドロ・エルリッヒ。
彼がサマソニで表現したのが《Traffic Jam 交通渋滞》(2022)という、完成度の高い砂の自動車の作品です。これは、元々2年ほど前に、マイアミビーチのプロジェクトとして誕生したもの。砂遊びをしながら自然と触れ合っていた子どもの頃に想いを馳せながら着想されました。今回、40台の砂の車を、東京藝術大学と多摩美術大学の彫刻科の学生20名が、約10日間かけて完成させました。工事現場で砂埃を抑えるために使用される糊を水で溶かしてスプレーにしたものを、作品に吹きかけて表面を固めているといいます。
この作品の横に立てられた「STOP」という標識には、「環境問題よ止まれ」といったメッセージが込められています。炭素を排出しつつ渋滞する車の列は、遠い未来に残る現代の遺跡とも解釈できます。また、砂浜に作品を展示することで、地球温暖化の問題も提示。我々が直面している環境問題について、深く考えさせられます。
細倉真弓
写真家として活動している細倉真弓は、ユースカルチャーや音楽シーンの撮影も行っており、音楽と親和性が高いことから、今回選出されました。
様々な視点から東京を読み解くプロジェクト「東京フォトグラフィックリサーチ」にて、2019年に発表した7作品の中から、4つの映像作品を上映した《I can(not)hear you》。本作を制作するにあたって、細倉は東京に暮らす若者に声をかけ、イヤホンでお気に入りの曲を聴いてもらいながら踊るようにリクエスト。三脚に固定されたカメラの前で、ある人はゆっくりと身体をゆすり、またある人は激しく踊りだします。映像にはその人の内面は映らず、またイヤホンから流れる音楽は聴こえません。各々が音楽に没頭する姿に、人となりが表われています。また、どんな音楽を聴いているのかといった想像力を駆り立てられる作品です。
イナ・ジャン
韓国人で、現在はNYを拠点に活動している写真家のイナ・ジャン。写真を主な表現媒体としながら、絵画や彫刻、コラージュといった様々な表現手法を用い、アートのみならずデザインやファッションの世界でも注目を集めています。彼女は、色とコンポジションの関係性を表現する作品を生み出すことで知られています。
サマソニでの新作《Voyages – たび》(2022)は、物語と水、音楽といった3つの要素から生まれた5mにおよぶ2枚の壁画です。サマソニが海の近くで開催されることも、作品作りにおいて考慮したそう。ジャンは「音楽は色々な感情を呼び起こすもの。NYと韓国を行き来する中で、昨年から韓国の川である漢江とNYのイーストリバーの写真を撮り続けており、これらの写真を通して、冒険や旅を表現している。2つの川には、歌のようにリズムがある。壁画で様々な感情を表したい」と語りました。
本作は、至るところにコラージュがあったり、一方でストレートフォトがあるなど、様々な要素が含まれています。同じ旋律を繰り返す音楽からインスピレーションを受けている作品の、抽象的なイメージが感情に訴求してきます。
都倉俊一文化庁長官は本プロジェクトについて「音楽とアートを一緒にしたイベントは初めてで、(サマソニ東京には)10万人が集まるので、現代アートに対してどういった反響があるのか楽しみ。一つの大きな文化的イベントが、来年、再来年と続くようにしたい。2025年度には大阪・関西万博があるので、そこで何ができるか、そのままなだれ込めるようにしたいし、意欲を持っている」と述べています。
文化庁による「Music Loves Art in Summer Sonic」が、今後どのように発展していくのか、目が離せません。