京都の呉服専門店「ぎをん齋藤」七代目当主 齋藤貞一郎氏(1948-2021)と、植物染の「染司よしおか」五代目当主 吉岡幸雄氏(1946-2019)。
江戸時代より代々続く、京都にある染織の家に生まれたといった共通点を持った二人は、家業を継ぎながらも伝統の枠にとらわれることなく、それぞれのスタイルで生涯をかけて美を追求してきました。
齋藤氏は染織コレクターとしても知られ、そのコレクションは辻が花や縫箔、慶長裂を中心に、古代から近世までの日本の染織、さらには中国の出土裂にまで及びました。蒐集品に学び、精力的に古典技法や意匠を継承した作品は、高く評価されています。
吉岡氏は、1988年に生家「染司よしおか」五代目当主を継ぎ、日本の伝統色の再現に取り組みました。それ以前は、1973年に図書出版「紫紅社」を設立し、美術工芸の雑誌・全集・豪華本などを編集・出版。自身も『日本の色辞典』『源氏物語の色辞典』などを紫紅社から出版するなど、多数の著書を残しています。齋藤氏のコレクションを紹介する『布の道標』も同社から出版され、二人の交流の様子がうかがえます。
そんな二人の展覧会「美しき色、いにしへの裂―〈ぎをん齋藤〉と〈染司よしおか〉の挑戦―」が、2022年8月28日(日)まで京都・細見美術館にて開催中です。
細見美術館では、2017年に齋藤氏の展覧会、2021年に吉岡氏の展覧会を行うなど、両者のコレクションや偉業を展観してきましたが、本展では熟練の職人と共に試行錯誤を繰り返して創りあげた、いにしえの色の再現や憧れの技を昇華させた新たな表現と、その過程にも焦点を当てています。美しい色彩や素材へのこだわり、技の継承や職人の育成など、様々な想いをたどりながら、染織に挑み、染織に魅せられた二人の姿を紹介しています。
色の美しさを追求する旅―吉岡幸雄の挑戦
吉岡氏は、古典や文献にあらわされている色彩の記述や古裂を手掛かりに、先代からの染織技術を受け継ぐ染め師・福田伝士氏と二人三脚で、植物・天然染料という色彩を醸し出す素材に辛抱強く取り組み、先人の染め方にならって、日本の伝統色を再現してきました。
このセクションでは、紫根や紅花で染めあげた布を、染料である植物と一緒に展示して、色の世界を表現しています。また、天皇即位の際に天皇陛下が着用していた、高貴な方しか纏うことのできない黄櫨染(こうろぜん)で染めた布も展示されており、一見の価値あり。
吉岡氏の植物染めと色について、さらには「季節のうつろい」をその鮮やかな色合いで表現した季節の飾りを紹介しています。
[gallery 8947]
いにしえの技に目を凝らす―齋藤貞一郎の挑戦
「古裂を再現することは、消滅してしまった良き時代のエッセンスを現代に蘇らせる作業である」という言葉を残している齋藤氏。古裂とは、骨董価値のある古い布のこと。着物などの形を残すものから端切れまで、様々な姿で現代まで受け継がれています。
齋藤氏は、古裂から学び、古裂を活かすことも行ってきました。その一つが、裂地に金銀の箔を摺りつけて文様をあらわす表現技法「摺箔」への取り組みです。摺箔は、桃山時代に能装束をはじめとして盛んに使用されましたが、江戸中期以降は行われなくなりました。
絢爛豪華でありながら、細やかで複雑な染織が遺る桃山時代に憧れ、金箔による表現を試みてきた齋藤氏は、ライフワークとして摺箔の表現を行います。テーマに「七曜(木・火・土・金・水・日・月)」を掲げ、職人とともに試行錯誤を繰り返してきました。いにしえの技を昇華させた齋藤氏の表現世界をお楽しみください。
[gallery 8948]
美をつなぐ―過去から未来へ
日本のみならず、中国の出土裂やインド更紗など、様々な染織遺品を蒐集してきた二人にとって、先人の遺した古裂は貴重な美の教科書であり、創造の源でもありました。これら古裂と対峙して、自分たちの仕事、ひいては人生に還元していました。
今に伝わる染織遺品は、その時々に最高の素材や技術を駆使して生み出され、権威や富を象徴し、社寺や芸能、衣装などあらゆる場面を装飾してきました。
ここでは、それぞれのライフワークに大きな刺激を与え続けた、正倉院裂、辻が花染、慶長裂、インド更紗など、奥深き古裂の世界を展開しています。
[gallery 8949]
以上、細見美術館で開催中の「美しき色、いにしへの裂―〈ぎをん齋藤〉と〈染司よしおか〉の挑戦―」をご紹介しました。仕事に対する情熱、技術力、そして本物を見極める眼を持つといった共通点のある齋藤氏と吉岡氏の世界観に、ぜひ浸ってみてはいかがでしょうか。
開催概要
----------------------------------------------------------
■「美しき色、いにしへの裂 ―〈ぎをん齋藤〉と〈染司よしおか〉の挑戦―」
会 期:2022年7月2日(土)~8月28日(日)
前期/7月2日(土)~7月31日(日)
後期/8月2日(火)~8月28日(日)
会 場:細見美術館(京都市左京区岡崎最勝寺町6-3)
時 間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休 館:月曜日
*祝日の場合、翌火曜日
料 金:一般1,400円 学生1,100円
URL :http://www.emuseum.or.jp/