SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』をテーマとした展覧会が開催中! アニッシュ・カプーア、ピエール・ユイグ、赤瀬川原平らが参加

遠藤 友香2021/03/01(月) - 12:13 に投稿
ネリ・オックスマン(1976〜) “Mushtari : Jupiter’s Wanderer” 2014 映像 4分22秒 作家蔵 In collaboration with Christoph Bader and Dominik Kolb Photos: Yoram Reshef

1968年に公開された、巨匠スタンリー・キューブリックが手掛けた映画『2001年宇宙の旅』。それを題材とした展覧会「2021年宇宙の旅 モノリス_ウイルスとしての記憶、そしてニュー・ダーク・エイジの彼方へ」が、4月25日(日)まで、東京・表参道のGYRE GALLERY(ジャイル・ギャラリー)にて開催中です。キュレーションは、スクールデレック芸術社会学研究所所長の飯田高誉氏。

人間とテクノロジーの関係、人類の進化をテーマにしたSF映画の金字塔である『2001年宇宙の旅』では、猿人が謎の黒い石板「モノリス」に触れたことで道具を手にし、「ヒト」へと進化。やがて宇宙へ進出するまでに発展します。人類は「モノリス」の謎を解き明かそうと、初の有人木星探査に出発。そんな旅の途中、宇宙船ディスカバリー号をコントロールしていたAI(人工知能)の「HAL9000」が乗組員に反乱を起こします。続編『2010年宇宙の旅』では、モノリスが電脳空間的であるとともにコンピュータ・ウイルス的であることが証明されます。

 

本展覧会では、映画の時代背景となった2001年から20年経過した2021年を迎える現代、「HAL9000」の夢、「モノリス」のヴィジョンとは何かを問い直し、1980、90年代の電脳文化勃興を経て、「宇宙旅行」、「AIの反乱」、「非人間的な知性」、「人工的な進化」といった現代の諸問題を芸術作品によって探求していきます。 

出展アーティストには、赤瀬川原平(日本、1934〜2014)、アニッシュ・カプーア(イギリス、1954年〜)、ピエール・ユイグ(フランス、1962〜)、オノデラユキ(日本、1962〜)、森万里子(日本、1967〜)、ダレン・アーモンド(イギリス、1971〜)、ネリ・オックスマン(アメリカ、1976〜)、ジェームズ・ブライドル(アメリカ、1980〜)、プロトエイリアン・プロジェクト(Proto-A)といった、巨匠からニュー・ダーク・エイジの旗手まで、幅広いラインナップ。
[gallery 8793]
 

本展は3章から構成され、第1章は「時空の歪み」として、赤瀬川原平、アニッシュ・カプーア、ダレン・アーモンドが出品。
[gallery 8790]

カプーアは、宇宙の空洞をコンセプトとして作品を制作しており、本展出品作品《サイフォン ミラー_クロ》(2008)は、「ヴォイド(=ブラックホール)」の概念に由来する「宇宙なる物体」シリーズに連なる作品。フランスの画家ギュスターヴ・クールベが描いた、女性の局部を写実的に描き、問題となった「世界の起源(L’Origine du monde)」をインスピレーション源としており、カプーアの重力に関するヴォイドの概念と通底しています。本作品は、『2001年宇宙の旅』でも描かれた「5次元(時間・空間に加えた重力)」の宇宙像=ブラックホールを、あたかも表象するかのようです。

アニッシュ・カプーア(1954年〜) ​​​​​​​Syphone Mirror- Kuro 2008 140×140×45 cm 樹脂、漆 / Synthetic wood, Japanese lacquer photo by Gautier Deblonde
アニッシュ・カプーア(1954年〜)
Syphone Mirror- Kuro
2008
140×140×45 cm
樹脂、漆 / Synthetic wood, Japanese lacquer
photo by Gautier Deblonde



​​​​​​​第2章は「月面とポストトゥルース」として、ピエール・ユイグ、森万里子、オノデラユキが出展。真実と虚偽、見えるものと見えないものの関係性を説いています。
[gallery 8791]

例えば、ユイグの《100万の王国》(2001)は、フィリップ・パレーノとの共作で、日本のデザイン会社K-Worksから、名無しの2次元キャラクターの著作権を46,000円で購入。彼らは、購入したキャラクターに「アン・リー」という名前とCGの身体を与えます。本作品では、線で描かれた半透明な「アン・リー」がたったひとりで月面を彷徨います。アニメーションに合わせて、デジタル合成された宇宙飛行士ニール・アームストロングの声が、アポロ11号月面着陸計画の物語と、フランスの小説家ジュール・ベルヌの1864年の小説『地底探検』の一節を混ぜ合わせたナレーションを朗読。映像の冒頭で、アン・リーが最初の一歩を踏み出すと、「それは嘘です」という言葉が。本作の制作年が、1968年に公開されたスタンリー・キュブリックの映画『2001年宇宙の旅』に重ねられていることを踏まえるなら、その言葉はキューブリックがスタジオで月面着陸を捏造したという陰謀論を思わせる、アイロニカルな作品となっています。

ピエール・ユイグ(1962〜)100万年王国 2001  映像 6 分 石川文化振興財団蔵
ピエール・ユイグ(1962〜)
100万年王国
2001
映像 6 分
石川文化振興財団蔵


森の作品《トランスサークル》(2004)は、縄文と太陽系惑星群の運行と結びつけた題材で、作家にとって記念碑的な作品です。ストーンは全部で9体あり、太陽系の9つ惑星群の運行を数値化して、LEDの発する9色の光と速度によって、それぞれの惑星の多様な運動性を表現。ストーンは、死者を弔うお墓も表しており、死と再起の象徴としても展示されています。

森万里子(1967〜)トランスサークル 制作年:2004年 材 質:コーリアン、LED、LED、コントロールシステム、玉砂利、サイズ:コーリアン9体 @110,0X56,0X34,0cm photo by David Sims
森万里子(1967〜)
トランスサークル
制作年:2004年
材 質:コーリアン、LED、LED、コントロールシステム、玉砂利
サイズ:コーリアン9体 @110.0×56.0×34.0 cm
photo by David Sims



第3章は、「隠喩としてのスターチャイルド」というテーマで、ネリ・オックスマン、ジェームズ・ブライドル、プロトエイリアンプロジェクトの作品が並び、「人類を超越する存在とは何か?」といった命題を探求するアーティスの表現が紹介されています。
[gallery 8792]

例えば、ブライドルの作品《Se ti sabir》(2019)は、かつて地中海に実在した古語を軸に、人間が、人工知能や人間以外の生物種とお互いに理解し合うための新しい方法を問いかける映像作品です。『2001年宇宙の旅』では、人工知能は人間と究極的には理解し合うことができない存在として描かれていましたが、本作でも、人工知能を、タコやアンモナイトのような頭足類がもつ原始知性と比較し、人間を根本的に異なる知性をもつ新しいエイリアンに見立てています。しかし、『2001年宇宙の旅』と異なり《Se ti sabir》が暗示するのは、人間以外の知的な生物とのコミュニケーションの不可能性ではなく、個や種すらも横断するネットワークとしての知性の可能性です。

ジェームズ・ブライドル(1980〜)Se ti sabir  2019 映像 18 分48 秒 作家蔵
ジェームズ・ブライドル(1980〜)
Se ti sabir
2019
映像 18 分48 秒
​​​​​作家蔵



​​​​​​​最後に、本展を手掛けた飯田氏に質問を3つ投げかけました。

1.『2001年宇宙の旅』に着想を得たのはなぜですか?

映画タイトルから20年経過した2021年を迎えた本年、公開当時(1968年)から変遷した今日における宇宙観を検証するために企画しました。

2.アーティストの選定は、どのような基準で行ったのですか?

国内外で活躍しているアーティストの中で、人間とテクノロジーとの関係、人類の進化と地球環境、そして、キューブリックの『2001年宇宙の旅』の宇宙観から「人新世」、そして「ニュー・ダーク・エイジ」の時代を迎えた現代における未来観を問い掛けることができるアーティストであることを選定基準としました。

3.コロナ禍の今、アートによって未来観を問い直す意義を教えてください。

「人新世」という人類中心の価値基準によってもたらされた環境破壊や気候変動、そして今までの人類による宇宙へのアプローチを捉え直し、《スターチャイルド=アート》の視点によって地球を俯瞰することの意義を問いたいと思います。

ぜひ、会場に足を運んで、作品を鑑賞することを通して、未来について考えてみてはいかがでしょうか?


開催概要
----------------------------------------------------------
■「2021年宇宙の旅 モノリス_ウイルスとしての記憶、そしてニュー・ダーク・エイジの彼方へ」
会 期:2021年2月19日(金)~4月25日(日)
会 場:GYRE GALLERY
電 話:03-3498-6990

アクセス数
0
0
0