現代アートの分野で活躍する新進気鋭のアーティストをサポートすると共に、より良い LIFE スタイル「アートのある暮らし」を提案する作品展示プランのコンペティション「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」。
レベルの高い作品展示プランに審査が難航する中、94組もの応募の中から、グランプリ、「サンワカンパニー社長特別賞」、ファイナリストに5組のアーティストが選出されました。彼らの応募プランのコンセプトやこれまでの活動、そしてこれからについてお話を伺います。
第四回目は、ファイナリストのAkane Soeda + Risako Okuizumiのお二人です。
〈バックナンバー〉
第一回 デジタル時代だからこそ、身体性を伴うアナログなデジタル写真を撮るアーティスト・顧 剣亨(コケンリョウ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」グランプリ受賞
第二回 絵の具は描くもの?絵画の決まりごとを飛び越え新たな「絵画」で表現するアーティスト・多田圭佑(タダケイスケ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」「サンワカンパニー社長特別賞」受賞
第三回 作家と僧侶、二足のわらじで現代の「信仰」を模索するアーティスト・長谷川寛示(ハセガワカンジ):「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」ファイナリスト
◯建築設計がバックグラウンド
関心は「空間」と「身体」の関係性
鈴木:お名前と経歴をお願いします。
添田:Akane Soeda + Risako Okuizumiの添田朱音です。
奥泉:奥泉理佐子です
添田:私たちは去年の夏ぐらいからユニットとしての活動を始めて、実作としては「群馬青年ビエンナーレ 2019」(会期:2019年2月2日~3月24日 会場:群馬県立近代美術館)で展示中です(現在終了)。その作品を、サンワのショールーム用に見せ方を少し変えて、今回のコンペに応募しました。
奥泉:4年ほど前から、添田さんの作品に私がパフォーマーとして参加をするという形で、作品を通した関係がありました。今回は初めて、初めから二人で共同して作ってみようか、という話になりました。
鈴木:これまでの作品のコンセプトについて教えていただけますか。
添田:元々二人とも建築設計をバックグラウンドとして持っています。私は「空間」と「身体」について、建築という枠の中にとどまらず考えることができないかと、パフォーマンスやインスタレーションなどをメインに制作しています。空間の仮設性や、身体間の即興の関係性、またその演劇性について、自らの身体を実験体として考察してきました。
奥泉:私は学部から大学院まで建築設計を学んでいて、空間に対する人間の認識や、人は空間のどういう移り変わりに魅力を感じるのか、ということにずっと興味があります。例えば、2年前に制作した作品《dégager》は、曲がり角というものは、人間の視界を1°ずつ円を描くように変化させていく特殊な空間だと言えるのではないか、という問いから始まった設計実験です。人は無防備に、無自覚に空間を認識していくものですが、私はそこで起きていることをなるべく丁寧に知りたい、というような気持ちで制作をしています。
それから、添田さんの作品に出演し始めた経緯ですが、私はクラシックバレエやら少林寺拳法やら身体表現の経験が少しあったので、見られることにやや慣れていて・適度に身体が動き・プロすぎない、添田作品にちょうどいい身体だったという感じです。それで声をかけてもらって、最初に出演した作品《attempt vol.4》で妙にしっくりきて。ふざけて「身体が合うということですね」なんて言ったりもしますが、あの会場では確かに不思議な時間が流れた気がしていて。それ以降何作品か関わり続けて、共作に至りました。
◯応募作品《attempt vol.5_1》について
鈴木:審査の際に「この作品、なんだろうな」という意見が出たのですが、今回の作品について説明していただいてもいいでしょうか。
奥泉:今回の応募作品は、映像と、それを観るための空間で構成されています。
映像の投影について考えはじめたのは、たいていの美術品は、触ることも近づくこともあまり出来ないのに対して、映像はすこしちがう、と思ったことがきっかけです。たとえば美術館の壁に映像が投影されている場合、そこに触るなと禁じることは出来ない、なぜなら壁に触っているのであって、作品に触っているわけではないから...というような屁理屈が最初にありました。光に指紋はつかないし。
また、添田さんは、人と人との身体的な、言葉ではないコミュニケーションを重視する作家なので、興味をシェアしているうちに、光に触ることと、他人の身体に触ること、そのふたつの接触を同時に考えていけないか、という話になりました。
映像には字幕が付いていて、映像に映る手は、その字幕に従っているように見える動きをしています。例えば、「右手を広げて」とか「中指に触って」というような。ただ、その「右手」「中指」などという指示対象の部分は、字幕では全部空白になっています。
右手が開かれる動作が映って、「 を開いて」という字幕が出てくると、人は思わず空白部分に「右手」という言葉を代入してしまう。そうやって頭のなかで空白を補完しながら見続けていると、字幕の内容が「爪を見て」「動きを覚えて」「音を聴いて」といった風に、どんどん目線の動きや認識、音声に対するものへと変わっていきます。すると、映像の中で字幕の指示に合わせて動く手を客観的にみていたはずの鑑賞者も、つられて目を動かしたり、耳を澄ましたりしてしまう。客観視していたはずの動き、自分とは関係のない映像の中の身体が、字幕を介して観客の身体と重なっていくのではないかということを意図しています。
作品の終盤では、実際に(映像に映っている)この手に触れてほしいという意の字幕が出るのですが、その指示にならって手をのばすと、鑑賞者の手の上に、プロジェクションされた手がきれいに重なって映ります。群馬青年ビエンナーレの展示会場でそれを確認していたので、鑑賞される方にはぜひ実際に触ってみてほしい。作品を観てもらいたい、意味や見た目の感じを体感してほしい、という気持ちももちろんあるのですが、それ以前に、映像の光に触れてみて、なにかを感じる、とか、なにも感じない、とか、身体で確かめてみてほしい、と思っています。
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◯今後の活動について
鈴木:今後の活動や目標はありますか。
添田:奥泉さんがもう学生ではなくなってしまうので。
奥泉:今は大学院生なんですが、3月に卒業したあとは、建築設計事務所で働きます。いずれ独立して、自分の事務所を持てたらと考えています。建築設計を主軸にして、より専門性も身につけた上で、Akane Soeda + Risako Okuizumiでないと作れないような作品も考え続けていくことができたら、きっとどちらも面白くなるぞ、と。
添田:今回一緒に作品を作って分かったのは、制作方法がほぼ真逆といっていいほど逆なんです。私自身はイメージを先行させるのに対して、奥泉は言語ベースで考えていくのですり合わせが大変でした。ただその過程で、お互い何を信じて制作しているのかがだんだん浮き彫りになっていって。私はこれからも変わらず制作活動を続けていくし、彼女は院を修了して建築の実務に取り組んでいくことになると思うのですが、選び取る言葉やイメージがお互いに変わっていく中でも、その時一番信じているものを出していけたらと思っています。
鈴木:今回ファイナリストに選出されましたが、何か一言いただけますか。
奥泉:展示したかったですよね。
添田:なによりも展示したかった。
奥泉:でも二人で、最初から共同して制作をするのは一作目なので、入選したのは弾みになりました。周囲に似たようなことをやっている人があまりいなかったりすると、自分たちで作品を信じていても、どこまで他の人と共有できるのかがわかりません。なので、入選したことで、興味を持ってもらえているということが明確になって、すごく良かったと思っています。
鈴木:最後にですが、推薦人の砂山太一さんに何かメッセージか感想があればお願いします。
奥泉:砂山さん、ありがとうございました。
添田:ありがとうございました。
奥泉:これからも頼りにしております。砂山さんとは他にも、別の美術展示の仕事を、ちょうど今一緒にやらせていただいています(現在終了)。砂山さんが企画構成、私が会場設計を担当している、美術家・大岩雄典個展「スローアクター」(会期:2019年2月9日~3月2日 会場:駒込倉庫 Komagome SOKO)というものです。これもたいへん愉快な仕事なので、今後とも色々、楽しいことができたらいいなと思っています。
添田:同感です。がんばりますのでよろしくお願いします。
鈴木:ありがとうございます。
(了)
■「sanwacompany Art Award / Art in The House 2019」展示プランについて
作品タイトル:attempt vol.5_1
推薦人:砂山 太一(京都市立芸術大学 美術学部 芸術学研究室 専任講師)
■作品コンセプト
0.
ダイニング・テーブル、一対の椅子。その上から投影される映像は、スモークガラスの上に光を落とします。そして、椅子に腰掛ける、鑑賞者の膝の上にも。投影された2本の腕を観るとき、その腕というのが、誰かの意識と身体に紐づいていることを忘れられる人はいません。自分に正対する向きの腕を観た鑑賞者は、考えるよりもはやく、椅子に座っている自分自身の身体と、向き合っているのだろうこの腕の持ち主の身体を、想像することになります。
1.
映像には字幕があります。そして、映像の中の腕は、一連の動きを4回繰り返します。字幕は意味を持っているように見えますが、そこには多数の空白があります。その字幕が、繰り返される指の動きと連動しているように見えるとき、その空白が指示対象(右手、左手、中指、爪、など)を示していることが、鑑賞者により補われます。言葉は身体に対し、つよい強制力を持ちます。映像に映る身体に対する以上に、鑑賞する身体に対しての強制力です。ある文字列が目の前に現れたとき、それは読まれてしまう。意味を持つ言葉を目の前に、完全に無頓着に、見過ごすということはできません。
2.
映像は無音です。字幕の言葉は、はじめ、動きのみに向けられていますが、そのうち時折、音声にも言及します。面を叩く指先の動きに次ぐ(音を聴いて)という字幕を見た鑑賞者がうっかり耳を澄ませたとしても、鑑賞者の耳に入ってくるのはショールームの環境音のみです。そのうちに字幕の指示は、(見つめて)(目をそらさないで)(視線をとどめて)(目で追って)(覚えて)などのように、見ること・視線の動き・見たものの記憶へと関わっていきます。このとき、鑑賞者の視線もまた、指示された箇所に向かいます。
3.
ここで起こりはじめるのは、一つの字幕による、映像にうつる身体と鑑賞者の身体のリンクです。見えないけれども向き合っている、目の前にあるはずの身体と、ダイニングテーブルを介して、静かに連動していくこと。鑑賞者と、光により投影された身体が、静かに関係を持ちはじめます。
■推薦人
アーティストAkane Soeda + Risako Okuizumiを推薦します。
添田朱音と奥泉理佐子は、いずれも建築設計をバックグラウンドに持ち、人間の身体と空間との関係に重心をおいた作品制作を展開しています。その作品は、たとえば身体と空間のあいだにイメージを挟み込みこむなど、物理的な結び付きの中にある不確かさや不全性を見るものに突きつけます。その触知的ながらも非物質的な振る舞いの発露は、人間の認知や創造性の所在を批評的に検証します。
彼女たちのこのような稀有な取り組みは、イメージに取り囲まれた現代的身体そのもの、あるいは今日における空間と身体の関係に問題提起をなすものとして期待します。
Akane Soeda+Risako Okuizumi
建築設計をバックグラウンドとした、添田朱音と奥泉理佐子によるユニット。身体と空間との関係に重心をおいた作品制作を行う。共同作品に、attempt vol.5。
添田朱音 Akane Soeda
アメリカ デトロイト出身。京都府立大学生命環境学部にて建築設計を学び、東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修士課程を卒業。現在、同大学教育研究助手。
実際の人物が出演するインスタレーションや映像作品を制作。出演者同士あるいは出演者と観客の間に、目線や接触など空間と身体とを介した人間同士の在り方を描き、それらを客観的視点から観察するような性質を持つ。主な展示に『群馬青年ビエンナーレ 2019』(2019、群馬)『觀念集』(2017、中国上海)『続・祝祭から内省へ』(2016、東京)『ATLAS』(2014、茨城)など。
奥泉 理佐子 Risako Okuizumi
1994年、東京生まれ。幼少よりクラシックバレエ、少林寺拳法、演劇など身体表現に触れたのち、建築を学びはじめる。武蔵野美術大学菊地宏研究室卒業後、フィンランド、アアルト大学の留学を経て2018年に帰国。2019年3月、東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻中山英之研究室卒業のち、建築設計事務所勤務予定。
建築設計に主軸を置き、空間の中で移り変わる体験の生み出し方を探るために、人間の無意識下にある知覚の特徴を、言語を用いて紐解きながら制作を行う。光や距離など非物質的な要素と、建築の物質的で実体的な要素とを結びつけ、認知空間を構築していく手法を特徴としている。
主な展示に『群馬青年ビエンナーレ2019』(2019、群馬)大岩雄典個展『スローアクター』(2019、東京、会場設計担当)『2074、夢の世界』(2017、東京)。