夜、星を見上げた時、この星は他の場所からどんな風に見えているのかな?と感じたことはありませんか?
光り輝く月を見上げた時、この月を昔の人はどんな風に見ていたのだろうと思ったことはありませんか?
そしてそのように思いを馳せることこそ「アート」なのではないでしょうか?
「宇宙と芸術展」がシンガポールにやってきた
2017年4月1日(土)、シンガポールのアートサイエンスミュージアムで「宇宙と芸術展」が始まりました。これは2016年7月30 日(土)から2017年1月9日(月)の期間東京の森美術館で開催されていた「宇宙と芸術展」を元に、アートサイエンスミュージアムと森美術館が共同で企画した展覧会です。
120もの作品を通して、私たちが抱く宇宙観を、科学的側面、文学的側面、そして予想もできなかった、最新技術を活用した新たな側面からアプローチしています。
開催前にはアートサイエンスミュージアムのエグゼクティブ・ディレクターであるオナー・ハーガーさん、森美術館館長の南條史生さん、メインキュレーターである椿玲子さんなどが中心となって、興味深いトークが行われました。
「マクロコスモス」と「ミクロコスモス」
森美術館の南條史生館長はこうコメントしています。
我々はかつて森美術館にて「医学と芸術展」を2009年から2010年にかけて開催しました。医学資料、老いや病、生と死にまつわる様々なイメージ、遺伝子技術を使ったアート作品等を通して、幅広く「医学を芸術として捉える」この展覧会で、私たちは自身の体内がとても宇宙に似ていることを再確認しました。つまり医学とは人間の身体の中のミクロコスモス(小宇宙)を見ているということ。その一方、「宇宙と芸術展」はまさにマクロコスモス(大宇宙)に目を向けています。
一見対極であるかのようなこの2つの展覧会ですが、とても類似した方向性を共有しています。そしてそのことは、我々人間の未来を問うことと、宇宙とは何かを問うことに繋がりがあることを感じさせてくれます。
国によって宇宙の捉え方が違う
今回の「宇宙と芸術展」の会場となるアートサイエンスミュージアムには世界中からたくさんの人が訪れます。展覧会では宇宙にインスパイアされた様々な時代、手法の芸術が展示されていますが、それをみていると、足を運ぶ人同様、多彩な宇宙観があることを実感します。例えば星図。星図というのはいつの時代、どこの国でも作られてきました。様々な時代に作成された星図を見比べていると、宇宙というのはどこの場所から見ても「宇宙」なのだなと再確認することができます。
そして、その星図の向かいには「竹取物語」絵巻が展示されています。この「宇宙と芸術展」では、科学的視点と竹取物語のような文学的視点を共存させることにより、「宇宙」が様々な芸術を産み出すインスピレーションを与えてきた存在であることを再確認させてくれます。
同じであること、同じではないこと
この展覧会は森美術館の展示を元にしていますが、全く同じ内容ではありません。まず会場が違う上に、展示作品にも若干の違いがあるからです。例えば、森美術館にはあった日本刀の展示は今回の展覧会にはありません。
逆に今回新たに加わった作品もあります。例えば、英国のアーティストコンラッド・ショウクロスの新作《Slow Cube VII》。会場に足を踏み入れると、中央に作品が置かれ、そこから延びるかのような幾何学的な形の影が床から天井までを覆いつくし、ゆっくり移動しています。この影の動きをみていると、あたかも作品自体がオートマティックに動いているかのようですが、実際は作品内に隠された光源のお陰で、影の動きが生み出されています。
この空間に身を委ねていると思わず瞑想に引き込まれるような感覚を覚えます。この一種の「トランス状態」の中で、天文学者や宇宙論者が想像する、未だ解明できていない現象はこんな風なのではないかと思いをはせました。
ショウクロスの作品と同じくアートサイエンスミュージアムの展示に加えられた、フランスのコレオグラファー、キッツ・デュボアによる無重力状態で行われるダンスパフォーマンスのビデオ作品もとても興味深いです。彼らはプレス内覧会の際に1999年に行われたパフォーマンス映像の前で素晴らしいパフォーマンスを行ってくれました。
問いかけてくる、4つのテーマ
今回の展示はテーマで分類された4部構成となっています。第1部となる「OUR VISION OF THE UNIVERSE(宇宙における私たちのビジョン)」では、世界中の歴史的な宇宙論に焦点が当てられ、宇宙に関するとても重要な書籍の「初版本」が展示されています。まさに「初版本」祭状態です。ちなみにシンガポールでは、日本語の本に限らず書籍がとても高価です。本に対する価格感覚が日本人とは明らかに違っているのです。
展覧会の第2部「THE UNIVERSE AS SPACE-TIME(時空としての宇宙空間)」では、新しい宇宙観が、現代のアーティストの作品を通して表現されています。
特にここで注目したいのは宇宙の広大さを感じさせる(十分すぎるほど!)空間に設置されたビョーン・ダーレムの《ブラックホール(M-領域)》。この作品はドイツのホームセンターで簡単に買えるようなものを材料にして制作されているのですが、「・・・宇宙ってもしかしてものすごくゴミだらけなのでは?」と、ふと心が乱れました。
第3部である「A NEW VIEW OF LIFE(新しい生命観)」は、伸びやかに展開される、宇宙を巡る創造性の自由さを感じる空間となっています。なので、鑑賞者である私たちも、もっと自由に鑑賞してみましましょう。例えば・・・パトリシア・ピッチニーニの《ザ・ルーキー》のモノマネをしながら写真を撮ってみたり。アートサイエンスミュージアムではフラッシュを使わなければ自由に撮影を行うことができるのです!
展示の最終章である第4部「Space Art(スペースアート)」では「宇宙の環境」について考えていく作品と向き合うことが出来ます。ここで男子の親是非観て頂きたいのが、月に旅行した最初のアートワーク、《Moon Museum》です。
1960年代後半の著名な6名のアーティスト、ロバート・ラウシェンバーグ、デイビット・ノブロス、ジョン・チェンバレン、クレス・オルデンバーグ、フォレスト・マイヤーズ、アンディ・ウォーホールの作品を集積回路の基板となる薄い半導体板に印刷したこの作品は、1969年11月、極秘プロジェクトとして、アポロ12号機の月着陸モジュールの足に秘密裏に取り付けられ、宇宙空間に運ばれました。
この作品、私はシンガポールでの今回の展示で、親子連れ、特に男子にとても注目を浴びると思います。なぜならアンディ・ウォーホールの作品はシンガポールではとてもタブーだから!もしかしたら今回もアポロ12号の時のように、こっそりと運ばれてきたのかもしれません。
この展覧会は、どの年代の方でも一度は興味を感じたことのある「宇宙」について、様々な視点から見つめ直す機会を与えてくれます。そこからそれぞれが気がついた「視点」から想像を膨らませたくなるのではないでしょうか。
「宇宙と芸術」展を森美術館で既に観てしまったという方にも、再訪をオススメします。同じ「宇宙と芸術」展だけど、同じでない。多様性が更に増した展示内容は、鑑賞者に新たな視点を与えてくれることでしょう。
アートサイエンスミュージアムがある「マリーナ・ベイ・サンズ」も含め、ここはシンガポールを訪れた人なら絶対に楽しむことができる場所です。
またアートサイエンスミュージアムでは日本のウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の個展、「フューチャーワールド」が、常設展示されており(そしてこの常設展示は少しずつ変化しています!)、森美術館「宇宙と芸術」展でもお馴染みの《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス、そして超越する空間 / Crows are Chased and the Chasing Crows are Destined to be Chased as well, Transcending Space》も再びここで体感することができます。
ただし同じ作品でありながら、森美術館でのそれとは明らかに違います。
同じだけど違う、たくさんのアートに触れた帰り道、再び空を見上げてみてください。少しだけ違うものが目の前に見えてくるかもしれません。
宇宙と芸術展
会 期:2017年4月1日(土)~ 7月30日(日)
会 場:ArtScience Museum、10 Bayfront Avenue
開館時間:10:00~19:00
URL:http://www.marinabaysands.com/museum/the-universe-and-art.html#POwi3E3TLP23liRR.97