猪熊弦一郎展 風景、顔

ARTLOGUE 編集部2018/07/16(月) - 16:25 に投稿

猪熊弦一郎(1902−1993)は70年に及ぶ画業のなかでも、主に1970年代前半に発表した「Landscape」と題した抽象画と、「顔」をシンプルに描いた晩年の作品がよく知られています。いずれも自身が考える、より良い作品を絶えず求め続けた猪熊が、その時の自分だけに描ける絵画としてつかんだものでした。「Landscape」は、1955年の渡米をきっかけに具象画を脱した猪熊が、ニューヨークを拠点としていた約20年の間に得たテーマである「都市」から生まれた独自の抽象画として描いたもの、「顔」は、85歳で最愛の妻、文子を亡くした後に描き始め、画業の最後に具象も抽象も区別のない境地に至るきっかけとなった作品です。

本展ではこの二つの作品群を中心に、20代から折りに触れて描いた「風景」と「顔」の作品を出品します。晩年に「もう私の頭の中には抽象も具象もそんな言葉はありえない。」※ と言葉を残した猪熊。いつも変わらず大切にしていた「絵として美しい」ものを描くために余分なものをどんどん省きつつ、何ものにもとらわれずに描くようになっていった道程を、猪熊を代表する二つのモチーフを通してお楽しみください。
※『猪熊弦一郎の世界展』(株式会社三越、1990年)

 

【見どころ】

1.初期の風景画

若い頃の作品では人物像がよく知られている猪熊ですが、実は風景画もいろいろ描いています。山や海など自然を描いた風景画や街路や公園を捉えた都市の風景画からは、生活のなかにある身近なものに目を向けて描くという猪熊の特徴が読み取れます。

2.顔の作品

抽象化されシンプルに描かれた晩年の「顔」。30代半ば、パリに遊学中の作品には既にその片鱗がうかがえるものがあります。同時期の写実的な顔と抽象的な顔を比較してみると、どこをどのように削ぎ取って描いたかが見えてきます。

3.猪熊の具象画と抽象画

「Landscape」と題された作品は、真円や四角といった形が際立つ抽象画ですが、どことなくビルが立ち並ぶ都市のシルエットを彷彿とさせます。反対に晩年の「顔」は具象画と捉えられがちですが、猪熊は形の集合体と捉えて描いています。対象を仔細に見つめ大胆に描いた初期の具象画を経て、形を突き詰め単純にしていくことで具象と抽象の枠を超えた猪熊ならではの絵画が誕生しました。

 

【作家紹介】

猪熊弦一郎

1902 香川県高松市に生まれる。
1922 東京美術学校(現東京藝術大学)西洋画科に入学。3年次から藤島武二に学ぶ。生活圏内にある身近な風景を描く。
1926 帝国美術院第7回美術展覧会(帝展)初入選。1929年、第10回帝展で特選。1933年にも第14回帝展で2度目の特選となり、以後は帝展無鑑査となる。
1936 小磯良平など、志を同じくする仲間たちと新制作派協会(現新制作協会)結成。
1938 念願のパリに留学。1938年8月19日の日記に「巴里に来て初めて人間の顔の面白さを知った」と記す。また滞欧中、イタリア、スイスなどを旅行し、各地の風景を描く。ニースでマティスに自作を見てもらうほかパリの画廊で当時の巨匠たちの実作に多く触れて刺激を受け、さまざまな描き方を試みる。
1940 帰国。
1944 神奈川県津久井郡吉野町(現神奈川県相模原市)に疎開する。疎開先と思われる風景画を描く。
1946 田園調布に戻る。人物や猫、鳥などを多く描く。画面の均整をとるために人物や動物などを厳しく単純化して描く。国際展にしばしば出品されるなど画業で高い評価を得る。
1950 三越の包装紙「華ひらく」をデザインする。以後、現在まで使われている。
1955 再度、パリへの留学を決意し、アメリカ経由で出発する。途中で立ち寄ったニューヨークの熱気に魅力を感じ、以後、約20年間ニューヨークで活動を続ける。作品から具象の面影が消え、抽象画を描く。渡米後10年ほどして、都市を題材とした作品を描き始める。
1972 この頃から「Landscape」と題した作品を描き始める。
1973 一時帰国。ニューヨークへ戻る際に開かれた送別会の席上、脳血栓で倒れる。
1975 ニューヨークでの制作が困難になり、アトリエを閉める。以後、冬の間はハワイで、その他の季節を東京で制作する。
1988 最愛の文子夫人が亡くなる。顔を丸の中に面白い形を組み合わせたものと捉え、顔の連作を描き始める。すぐに動物やその他の形も加わり、抽象と具象の枠組みを意識せずに描く。
1991 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館開館。
1993 逝去 享年90歳。

 

【関連プログラム】

・キュレーターズ・トーク

本展担当キュレーターと一緒にお話をしながら作品を鑑賞しましょう。
日 時:会期中の第1日曜日14:00~
参加料:無料(ただし展覧会チケットが必要です。)
申込み:不要(1階受付前にお集りください。

・同時開催常設展

美術館は心の病院 猪熊弦一郎とMIMOCA
2018年7月14日(土)~9月30日(日)会期中無休

 

開催概要

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会 期:2018年7月14日(土)~9月30日(日)
会 場:丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
時 間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休 館:会期中無休
入館料:一般950円(760円)、大学生650円(520円)、高校生以下または18歳未満・丸亀市在住の65歳以上・各種障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料
※同時開催常設展「美術館は心の病院猪熊弦一郎とMIMOCA」観覧料を含む
※()内は前売り及び20名以上の団体料金
※8月18日(土)、19日(日)は1階ゲートプラザにて「まるがめ婆娑羅まつり」開催のため観覧無料(当日は展示室内に音が響く場合があります)

 

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