セルフポートレイトという形で、日本人としての「私」とは何かを問いかける「森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020−さまよえるニッポンの私」展が、原美術館にて開催中!

遠藤 友香2020/01/30(木) - 19:26 に投稿
展示の様子、(左から)《肖像(双子)》(1988)、《モデルヌ・オランピア 2018》(2018)

原美術館の外観
2020年12月末に閉館することが決まっている、東京・品川にある原美術館。1979年に開館して以来、約40年にわたって日本のコンテンポラリーアートシーンにおいて重要な役割を担ってきました。そんな原美術館で、1⽉25⽇(⼟)から4⽉12⽇(⽇)まで、「森村泰昌:エゴオブスクラ東京 2020―さまよえるニッポンの私」展が開催中です。

展示風景

名画や映画の登場⼈物あるいは歴史上の⼈物に⾃らが扮するセルフポートレイト作品で知られる森村泰昌。巧みなメイクや⾐装で、時代や⼈種、性別を超えて様々な⼈物に⾃らが成り代わり、制作を通して原作やその背景に独⾃の解釈を加えてきました。1985年に《肖像(ゴッホ)》で鮮烈のデビューを果たし、以降、⼀貫して「私」とは何かという問いに取り組んでいます。近年は、⾃らが脚本を手掛けて⾃演する映像作品や、ライブパフォーマンスへと表現の領域を広げています。

原美術館では、1994年に17世紀オランダの偉大な画家をテーマに、その人生の明暗から「自我」を深く探った「森村泰昌 レンブラントの部屋」展、2001年に20世紀メキシコ現代絵画を代表する画家の一人フリーダ・カーロの人生、その愛と死を独自の祝祭的イメージで描いた「私の中のフリーダ 森村泰昌のセルフポートレイト」展を開催。原美術館での3回目の個展となる森村の本展は、2018年にニューヨークのジャパンソサエティーで開催された展覧会「Yasumasa Morimura: Ego Obscura」の凱旋展と位置づけられています。

今回の展覧会にあわせて再編集された映像作品《エゴオブスクラ》を⽤いて、会期中に開催される森村⾃⾝によるレクチャーパフォーマンスを通じて、作家は日本近現代史、文化史に言及します。森村は聞き慣れない言葉「エゴオブスクラ(Ego Obscura)」に、「闇に包まれた曖昧な自我」という意味を込めました。映像作品には、⽇本⼈の記憶に深く刻まれている昭和天皇とダグラス・マッカーサー、あるいはマリリン・モンローや三島由紀夫らに扮した森村が登場します。

展示の様子、《思わぬ来客》(2010-2018)
展示の様子、《思わぬ来客》(2010-2018)

 

展示の様子、手前《エゴ・オブスクラの部屋》(2018-2020)、奥《鏡を持つ自画像》(1994)
展示の様子、手前《エゴ・オブスクラの部屋》(2018-2020)、奥《鏡を持つ自画像》(1994)

 

展示の様子、壁 《なにものかへのレクイエム(MISHIMA 1970.11.25-2006.4.6) 》
展示の様子、壁 《なにものかへのレクイエム(MISHIMA 1970.11.25-2006.4.6) 》

戦前の教えが否定され日本人に広がった「空虚」、そこは西洋の価値観で埋められていきました。1951年、大阪に生まれた森村は、その時代の日本で教育を受けた個人的経験から、やがて「真理や価値や思想というものは(中略)いくらでも自由に着替えることができるのだ」(映像作品《エゴオブスクラ》より)という発想を導きます。この映像作品を鑑賞することで、展示作品の意図が深く理解できるので、ぜひご覧ください。

また、エドゥアール・マネ《オランピア》(1865)をモチーフとした新旧作品が展示されています。初期の代表作である《肖像(双子)》(1988)では、マネが描いた白人の娼婦と黒人の召使を、黄色人種でかつ男性である森村が演じています。裸で横たわりつつ、視線にさらされる側から強い眼差しを返しています。主従の関係にも言及したこの《肖像(双子)》から30年後、森村は「モデルヌ・オランピア 2018」を発表。若い娼婦は蝶々夫人を想わせる芸者の姿に、黒人召使はピンカートン風の西洋男性の姿に変わりました。

展示の様子、(左から)《肖像(双子)》(1988)、《モデルヌ・オランピア 2018》(2018)
展示の様子、(左から)《肖像(双子)》(1988)、《モデルヌ・オランピア 2018》(2018)
展示の様子、《オランピアの部屋》(1988-2018)
展示の様子、《オランピアの部屋》(1988-2018)

本展では、同じくマネ晩年の秀作を原作とする「フォリーベルジェールのバー」の新作も登場します。この3点の登場人物が複雑にからまる展示は必見です。

森村曰く「物事は熱狂の渦の中にいるとわからなくなってしまいます。離れてみて初めてわかるものもある。冷めた熱狂というものがあってもよいのではないでしょうか。皆が同じ意見になることほど怖いものはない。批評精神というものが入っていない作品というのはそんなに価値がないのではないかと考えています。日本とは?文化とは?ということを、今の時代に考えた芸術家がいるということをはっきりと指し示しておきたかったのです」とのこと。

現代芸術家の森村泰昌氏
現代芸術家の森村泰昌氏

30年に渡り⻄洋美術史に侵⼊しながら、森村は何を考えて⼈種や性別を超えてきたのでしょうか? 戦後⽇本の復興を印象付けた先の東京オリンピックから55年を経た2020年、再び東京でオリンピックが開かれるこの年に、森村は「私」とは何かを我々にも問いかけます。


 

■森村泰昌:エゴオブスクラ東京2020−さまよえるニッポンの私
会 期:2020年1⽉25⽇(⼟)~2020年4⽉12⽇(⽇)
会 場:原美術館
*Tel. 03-3445-0651
時 間:11:00〜17:00(水曜日は20:00まで)
*⼊館は閉館の30分前まで
休 館:⽉曜日(祝⽇の場合は翌平⽇)
料 金:⼀般 1100円/⼤学・高校⽣ 700円/⼩・中学⽣ 500円/70歳以上550円
*原美術館メンバーは無料/学期中の⼟曜⽇は⼩中⾼⽣の⼊館無料/20名以上の団体は1⼈100円引

※毎週日曜日には、当館学芸員によるギャラリーガイドを開催。(14:30より30分程度・2月23日[日]、4月12日[日]を除く)
※映像作品の上映は入替制。受付にて整理券配布。
上映開始時間(*=水曜日のみ)
11:30/12:35/13:40/14:45/15:50/16:55*/18:00*/19:05*

詳細は公式ウェブサイトにて https://www.haramuseum.or.jp/jp/hara/exhibition/842/

 

 

Tel. 03-3445-0651

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