この記事をお読みになる前に、インスタグラムのANREALAGE公式アカウント「anrealage_official」をご覧ください。
anrealage_official https://www.instagram.com/anrealage_official/
ファッションブランド『ANREALAGE』(アンリアレイジ)が2019年3月19日に渋谷ヒカリエホールにおいて、新作コレクションを発表する『ANREALAGE 2019-20 A/W COLLECTION “DETAIL”』を開催しました。ANREALAGEといえば、ライゾマティクス・リサーチやサカナクション(山口一郎)といった、アートや音楽などのさまざまなジャンルのアーティスト/クリエイターとコラボレーションしたショーや展覧会を行ったりと、従来のファッションブランドとは一線を画した活動を展開しています。
現在は森美術館で開催中の「六本木クロッシング2019」において、東京大学大学院情報理工学系研究科川原研究室(JST ERATO 川原万有情報網プロジェクト)の協力を得て、新作インスタレーション《A LIVE UN LIVE》を出展しています。同作品は生命のように形状が変化する、低沸点液体を用いた素材を使用し、太陽が昇り、また沈むように形や色を多様に変化させる、ファッションという規定からの自由な存在としての「生きている服」を提案しています。
このように、新素材やさまざまな技術を用いて、新しい服のかたち、服の未来を見せてくれるような作品を提案するのがANREALAGE、という印象なのです。今回のコレクションもそうした展開を想定していたのですが、それは良い意味で大いに裏切られました。
このショーは2019年2月にパリで発表したコレクションを東京で展開するもので、そのショーを行う上での仕掛けが話題になりました。新作コレクションはショーで初めてお披露目するのが当たり前なのですが、このショーでは、ショーに先駆けて詳細画像を含めた新作40点をインスタグラムで公開。先にスマートフォンで見た作品を、あためてショーで現物を見るというもの。現物を見た時にどういった印象を持つのか、その二段階の見せ方に注目が集まりました。
この試みについて、ANREALAGEデザイナーの森永邦彦氏は、パリでの同コレクションの様子を紹介した番組「ANREALAGE 2019-20 A/W COLLECTION “DETAIL”」(BSフジ/2019年3月29日 24:00~24:30)において、「洋服を見る環境、洋服との接点が圧倒的にリアルよりもインスタグラムだったり、スマートフォンの中でみる画像になっている」と語り、それにより「すべてが同じサイズで、同じ大きさで、質感もなくフラットで、違和感を感じないほど当たり前になってしまっている」と指摘。「そこに対して、通り過ぎないで自分が見落としていることだったり、失われてしまったものを洋服で取り戻すような発表をしたい」と狙いを明かしています。
今回のコレクションは、ANREALAGEのブランドとしての重要なテーマである「神は細部に宿る」に立ち戻り、いま一度、フラットな気持ちで「DETAIL」にフォーカスしたものとなっており、洋服のサイズを変化させることで、通常のサイズとは大幅に異なる存在となった洋服のディテールをそのまま服へと変換させてしまったのが最大の特徴といえます。それらの服をきたモデルは、まるで人間のものを借りてきて生活に使っていたアリエッティ*のようにも見えて、とてもかわいらしく、愛らしく感じました。
*アリエッティ:スタジオジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」に登場する床下の小人の少女
ANREALAGEのこの試みは、赤ちゃんなど人をモチーフに、ディテールはリアルなまま、サイズを大幅に変化させることで、実物を目にしたときの驚きが半端ではないロン・ミュエクの彫刻作品を思い起こさせました。もちろんANREALAGEの試みとロン・ミュエクの作品は、目的も、こめられたメッセージも異なるわけですが、いずれも比較のないままの画像を通して見てしまうとサイズ感がわからず、リアルを知って驚かされます。実際に目にしたり、触れたりしなければ、リアルは享受できないという、本来であれば当たり前のことに気付かされるという点で共通していると感じました。
Heykeltıraş Ron Mueck’in çalışmalarından derlemeler. pic.twitter.com/ocKRYi42Zq
— Wannart (@wannartcom) 2018年2月22日
コレクションで発表されたこれらの服は、単にコンストラクティブ(構築的)であるだけでなく、ディテールにフォーカスすることで、服というものを再構築しようとする試みでもあると感じます。同時に服飾技術へのこだわり、オマージュを強く感じ、画面からでは得ることができない、服のすごさ、おもしろさ、たのしさを伝えたいという、強い想いを感じさせます。
チバヒデトシ(ジャーナリスト/美術館研究家)
ANREALAGE公式サイト
http://www.anrealage.com/main
六本木クロッシング2019
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/roppongicrossing2019/