読売新聞が5月19日に報じた「アート市場活性化へ「先進美術館」創設検討」の記事がアート関係者の中で賛否の議論を巻き起こしています。
先進美術館、「リーディング・ミュージアム」とは、アート市場活性化の役割を国内の美術館や博物館に担ってもらうための制度で、政府がその創設を検討しているようです。
「リーディング・ミュージアム」に指定された美術館や博物館には国から補助金が交付され学芸員を増やすなど体制を強化することが出来るという内容ですが、その中で特に議論を呼んでいるのが美術館のコレクションを売却するという点です。
もちろん美術館がコレクションを売る際には売却委員会など設けられ、厳しく精査される必要があります。とはいえアート市場での流通量が増大することにより、市場活性化の効果は期待できるのではないでしょうか。アート市場が活性化し規模が拡大すれば、アート業界全体の雇用増大にもつながります。ステークホルダーが増えることで、アートの裾野が広がることも期待出来ます。
一方で、美術館の基本機能は収集、保存、研究、展示、教育普及です。それを踏まえて美術館が市場の活性化のためにコレクションを売ることの是非を指摘している声は多いです。また、文化資産は一度手放しでしまうと再度手に入れることが非常に難しく、貴重な作品の散逸も懸念されます。
ただ、日本はすでに人口減少社会に突入しており2040年には自治体の半数が消滅し、50年後には人口が8000万人台にまで減少すると予想されています。それに伴い税収の減少、文化予算の減少は避けられないでしょう。
日本のアートの市場規模は 2,437億円、対して世界のアート市場の規模は 637億ドル(約6.75兆円) 。日本のGDPは世界第3位、加えて100万ドル以上の資産を持つ富裕層の数ランキングでも日本はアメリカに次いで第2位!にもかかわらず日本のアート市場は世界でわずか3.6%という結果なので、伸びしろは大きいと思われます。
多くの美術館の収蔵庫がすでに限界に近づきスペースが足りなくなってきている問題もあります。作品をコレクションをしているということは有限なスペースを消費している側面がある上、保存や管理のための費用も必要です。また残念ながら国指定の文化財の公開率はわずか1.5%ほどで死蔵化されてしまっている状況です。
そういった社会や美術館、博物館の状況をなんとかしようと「リーディング・ミュージアム」などの政策が考えられていると思われます。
課題先進国日本。この国がとる政策が、今後、世界のスタンダードになっていくのか、それとも失敗に終わるのか。いずれにせよ今のままでは美術館は保たないことは分かっています。
どうすればサステナブルなアート業界を成立させられるのか、未来社会を見据えてみんなで知恵を絞っていかなければならないでしょう。
4月17日に行われた未来投資会議 構造改革徹底推進会合 「地域経済・インフラ」会合 (中小企業・観光・スポーツ・文化等)(第4回) にて配布された資料
資料7 :文化庁提出資料
アート市場の活性化に向けて
資料8 : 東京画廊提出資料