束の間の美しさを切り取る。ストリートフォトの原点。
ジャズの街、神戸らしく、写真展会場にジャズメンたちが登場。素敵な午後を上質の音色で演出しました。Robert Frankとジャズの午後in Kobe。
広瀬は写真を観て、「ビート世代の「はみ出し具合を」演奏しよう」と考えたそうです。しかし演奏した7曲は、静謐で、詩的な感覚に満ちたジャズとなりました。
会場のKIITOは内装壁が硬く、音が響きすぎるのでバンドメンバーの編成と選曲は、ドラマーを呼ばず、トランペット広瀬未来、ギター金子友宣、ベース萬恭隆のトリオでリズムセクション。
コンサートホールではないので常設の音響機材はありません。
街角で演奏する感じでギターアンプだけを手に持ち、ミュージシャンたちは現れました。準備はたった1分。リハーサルなし。すぐに1曲目がはじまりました。
こんなリラックスした感じで演奏されるジャズのスタンダード。それこそが素敵だったのです。広瀬未来のトランペットは、1950年代のマイルス・デイビスを彷彿させる、詩的な響きに満ちていました。
天窓から自然光が差し込む写真展会場でのジャズ。座って聴く人もいれば、写真を観ながら、からだを揺らせる人もいます。日本のトッププレイヤーの演奏を散策しながら「片手間」に聴く。
ジャズの街神戸の、すてきな日常です。
1曲目 Pull My Daisy
by David Amram
ロバート・フランクが撮影した短編映画「プル・マイ・デイジー」(1959年)のテーマ曲です。アレン・ギンズバーグ(詩人)、グレゴリー・コルソ(詩人)、ピーター・オルロフスキー(詩人・俳優)、ラリー・リバーズ(アーティスト)というビート世代の代表たちが出演。作曲者のデビッド・アムラムも彼らに混じっています。ビート時代を理解するにはこれを観ましょう。会場では2本の映画を上映中です。
ジャズとの関わりをいうならば、映画の脚本を書いたビート世代を代表する作家ジャック・ケルアックの作風でしょう。この映画の台詞も妙な会話の積み重ねですが、彼の小説「地下街の人びと」でも、チャーリー・パーカー(ジャズミュージシャン)がアドリブを演奏するように言葉を連発し、188ページ(新潮文庫版)を3日間で書きあげたそうです。時代のエネルギーを感じるエピソードです。映画のテーマ曲は不思議な感じがします。広瀬未来の演奏も愁いを帯びた、広瀬未来アレンジによる美しいバラードを再現しました。
写真展に来場した人たちの「どんなジャズを演奏するのか?」という期待を、格調高いトランペットの音色で一気につかみましたね。
2曲目 On Green dolphin Street
by Bronislau Kaper
1949年、同名のMGM映画の主題曲です。マイルス・デイビスが1958年に取り上げました。マイルス自身何度も演奏しましたがジャズクラブ「プラグド・ニッケル」でのライブは最もスリリングな演奏として注目を集めました。その後この曲はジャズのスタンダードとして認知され、多くのプレイヤーが演奏するようになりました。とくにピアノ・トリオで数多く演奏され、ビル・エバンス、 ウィントン・ケリー、オスカー・ピーターソンなどが定番にしました。
3曲目 Someday My Prince Will Come 邦題『いつか王子様が』
by Frank Churchill
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1957年に、ジャズピアニストのデイヴ・ブルーベックが、彼の子供が持っていたディズニーの作品集に感化されてレコーディングしました。するとジャズミュージシャンの間で、コード進行が魅力的だと人気が出たのです。
1961年のマイルス・デイヴィスのアルバム『Someday My Prince Will Come』では持続低音の間奏曲が秀逸で、いまも世界中でコピーされるようです。ピアニストのウィトン・ケリーは、マイルスのヴァージョンを演奏し、彼自身のアルバムでトリオとして録音しました。
この日、広瀬トリオは、この曲を必ず演奏しようと決めていたそうです。他の曲はその場のインスピレーションで決めていったのですが、写真展の雰囲気にはこんな、のびやかなジャズ・ワルツが似合う、と思ったのでしょう。
4曲目 My One and Only Love 邦題『ただひとつの恋』
by Guy Wood
元は1947年にガイ・ウッドが作曲した「Music from Beyond the Moon」という曲です。1953年にフランク・シナトラがレコード化し、ヒットチャート28位になりました。綺麗なメロディのラブソングです。
5曲目 Confirmation
by Charlie Parker
天才チャーリー・パーカーの代表曲です。
パーカーはビバップのめまぐるしいコード進行でも、ゆったりと歌い上げるよう、楽々と演奏しているようにしか聞こえません。現代に至るまで、アルト・サックス・プレイヤーのほとんどが、パーカーの影響を受けているといわれています。
それまでに出現していなかった価値を作ったパーカー。それはビート世代を生きた時代の表現者にもあてはまります。映画「PULL MY DAISY」にもパーカーの演奏が挿入されています。ケルアックもフランクもパーカーを、変化する時代の象徴と捉えたのでしょう。激しい曲想ですが、この日の広瀬バンドはしっとりとしたリズム、押さえた音で、サロン・ミューシックのようにこなしました。
6曲目 Autumn Leaves 邦題『枯葉』
by Joseph Kosma
1945年、ローラン・プティ・バレエ団のステージ「Rendez-vous」の伴奏音楽のひとつとしてジョゼフ・コズマが作曲したメロディが原型です。このステージからモチーフを得て翌1946年に製作されたマルセル・カルネ監督の映画「夜の門」(Les Portes de la Nuit )で挿入歌として用いられました。
イヴ・モンタンやエディット・ピアフの歌で有名なシャンソンですが、マイルス・デイビスの超有名レパートリーのひとつでもあります。
マイルスは何度もジャズに革命を起こしていますが、そのなかのひとつが、ポピュラー音楽をジャズ・スタンダードにしたことです。これも、モダンジャズ誕生期に起こった、大きなムーブメントなのです。
枯葉はマイルスの演奏によって、世界中のジャズ・ミュージシャンの定番になりました。
7曲目 Straight no Chaser
by Thelonious Monk.
モダンジャズを作ったのは4人と言われています。チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイビス、そしてセロニアス・モンク。一番の変人は誰か。「全員」、という答えも正解でしょうが、まずはモンクなのでしょう。不思議の不思議、調子の外れ、音の蹴つまずき、音程やリズムのコントロールができていない、演奏は不規則。ところがモンクの異様さはその場の思いつきではなく、緻密にコントロールされた音楽なのです。だからこそ、ジャズの歴史になったのです。
ビバップというジャズは音をたくさん使います。アドリブの自由度が高く、高い演奏技術が必要です。しかしモンクは、あまり音の数を使いません。いわゆる超絶的なテクニシャンというわけではないのです。かわりに、妙な和音を使います。不思議で変で、面白い構成。それがかっこいい。その時代を表現する言葉はジャズで「クール」と呼ばれていますが、「他とちがって目立つ」ことですね。それはビート世代の感覚でもあります。
冒頭に紹介した映画「Pull My Daisy」は、ビート世代の象徴となる即興映画の傑作と賞賛されていましたが、実際は周到に計画され、リハーサルも行い、フランクが監督したそうです。
「不思議」「調子はずれ」が個性とされるモンクの音楽と、相通じるものがあります。
プロの演奏家は聴衆あってのもの。この日の広瀬未来トリオは「Pull My Daisy」と「いつか王子様は」だけを決め、あとの5曲はお客様の反応を感じながら「じゃあ次の曲は……」とアイコンタクトではじめました。もちろん譜面ナシです。いつもの仲間で、いつもの調子で、さくさくっと演奏したわけです。
即興で曲を選んだとはいえ、さすが一流プロ、すばらしいスイング感でした。
広瀬未来があやつるBACK製のトランペット。
マイルス風(もちろん広瀬未来風だけれど)の、ゆるやかに押さえた音色は、自然光差し込む静かな神戸の午後を、詩的に彩りました。
ジャズプレイヤーは楽器で遊ぶことができる達人だけれど、プロの演者の技術はもうひとつある。聴衆の心が揺れ動くのに反応し、楽しみ方を聴衆それぞれに選ばせるのだ。
これが、入場無料とは。
神戸も「クール」なことをやるものです。
会場でのジャズ。聴き方はさまざま。
次週9月16日[土]15時–16時は、サックスの高橋知道をリーダーとするトリオの演奏があります。
Robert Frank : Books and Films, 1947-2017 in Kobe
ロバート・フランク:ブックス アンド フィルムス, 1947-2017 神戸
会 場:KIITOホール ギャラリーA
会 期:2017年9月2日(土)~9月22日(金)
開館時間:10:00~18:00
観 覧 料:無料
U R L:https://robertfrank2017kobe.tumblr.com/
革新的な撮影術と独自の視点でストリート・フォトグラフィーを創始し、現代写真に最も大きな影響を与えたスイス出身の写真家ロバート・フランク。初期のポートフォリオの写真から、代表作『The Americans』、《Pull My Daisy》をはじめとする映画作品、最新作となる〈ヴィジュアル・ダイアリー(目で見る日記)〉シリーズまで、フランクの創作活動の全てをご紹介します。
ロバート・フランク|Robert Frank
1924年、スイス、チューリヒ生まれ。伝統的な写真術と異なり、直観にもとづいて被写体を連続してとらえる独自の手法で、写真というメディアの新たな表現方法を切り拓いた。その作品群は、同世代以降の写真家に多大な影響を与え続けている。ニューヨークとカナダ、ノバスコシア州マブー在住。
◎ Live Jazz with Robert Frank
ストリートでの演奏を聴くように、ロバート・フランクの作品に囲まれてジャズを楽しんでみませんか。
・9月10日[日]15時–16時
演奏=広瀬未来(Trumpet)、 金子友宜(Guitar)、萬 恭隆(Bass)
・9月16日[土]15時–16時
演奏=高橋知道(Tenor Sax)、金子友宜(Guitar)、坂崎拓也(Bass)
その他、ギャラリー・トークやクロージング・イベントを予定しています。詳しくは公式サイトをご覧ください。
https://robertfrank2017kobe.tumblr.com
◎ Steidl Book Fair
ロバート・フランクの写真集をはじめ、シュタイデル社が発行する書籍の数々を展示・販売いたします。
9月2日[土]–22日[金]、
場所:SALON(元町・旧居留地 商船三井ビル内)
詳しくはサイトをご覧ください。
http://www.salon-and-associates.com
◎ 映画「Don’t Blink ロバート・フランクの写した時代」
ロバート・フランクがその知られざる人生について初めて語るドキュメンタリー映画が上映されます。
9月16日[土]–10月1日[日]、場所:元町映画館
詳しくはサイトをご覧ください。
http://www.motoei.com