植田正治は、1960年代を中心に「出雲」と「松江」をテーマに多くの撮影を行っています。1950年代から「古きよきもの」に強く関心をいだいていた植田から、山陰の代表的な景勝地「出雲」と「松江」をテーマに撮影したことは必然であったでしょう。雑誌『フォトアート』には、「新出雲風土記」(1964年)や「出雲風土記」(1968年)の連載、そして「山陰の町/松江」(1962年)、「松江雨情」(1965年)、「松江初夏」(1966年)といった多くの掲載がみられます。この頃、そでに写真家としての地位を確立していた植田が、「出雲」と「松江」を自身が撮るべき被写体として強く意識していたことがわかります。
「カメラ紀行 出雲の神話 神々のふるさと」(淡交新社、1965年)、「出雲路旅情」(朝日新聞社、1971年)、「松江」(山陰放送、1978年)など、意外なことに、植田は「出雲」と「松江」の紀行本などを多く手掛けています。もちろん、依頼によるものが多いのですが、依頼する出版社も、演出写真の上だが「出雲」と「松江」をいかに表現するかといった、期待があったのでしょう。
今回の展覧会では、水の都といわれる「松江」。神々のふるさとといわれる「出雲」、いずれも、植田流の演出がきかない被写体に対して、植田がいかに挑み、いかに表現したかをご覧いただけることでしょう。これらの写真に潜む、植田独自のまなざしをお楽しみください。