リー・ミンホ展

ARTLOGUE 編集部2018/02/07(水) - 19:01 に投稿
《Fil blanc n.47》2015 60x60cm インクジェットプリント

 

リー・ミンホは韓国・ソウル出身。1990年からフランスのパリにて本格的な作家活動を開始し、1990年代後半より画家から写真家に転向しました。リーが継続してテーマとするのは、現代におけるアイデンティティの喪失と匿名性です。2009年の個展《ポータブルランドスケープ》シリーズでは、写真中写真の形式を用いて異なる時空間を画面上で同居させ、2012年個展での《名前のない風景》シリーズでは、一貫性のない写真の断片を本来のコンテクストから引き剥がしてパソコン上で合成することで、風景の匿名性というテーマをさらに突き詰めました。こうした継ぎ接ぎの風景は、現実世界がイメージの戯れに置き換えられてしまった現代のシミュレーション社会を克明に描き出す一方、彼女が日常の中で撮影した写真によって構成される記憶の多面体として、大きな歴史と小さな歴史が混在する現代の歴史・美術状況をも示唆します。

これらに続く本展では、リーが近年取り組んでいる「糸」をモチーフにした作品群をご紹介いたします。糸は両端が異なる時間と空間に据え付けられた物質であり、そのイメージはギリシャ神話「アリアドネーの糸」に結び付けられます。この神話でテーセウスが迷い込んだような迷宮とは、入口と出口がわからず、(不)可能性のなかで「無限の反復」が行われる空間だと彼女は語ります。シリーズ《赤い糸》は迷宮のような空間を惑うように進む小さな赤い糸によって着想源となったギリシャ神話を強く想起させますが、一方のシリーズ《白い糸》では、量感のある巨大な糸玉が不可思議に配置されることで、神話への現代的解釈が織り込まれます。どこから来たかもわからない白い糸玉は時空間からニュートラルな存在として、何にも属することのない現代人の存在状態を示唆します。また神話では入口の扉に一端を結わえた糸玉がテーセウスを迷宮から救い出しましたが、彼女の作品で糸玉が足跡を残そうとするのは、地球上の特定の「場所」を想起させない匿名の空間であり、出口があるのかすら定かではありません。しかし現代の迷宮の只中に曝け出された巨大な糸玉は、戸惑っているようにも、安らいでいるようにも映ります。まるで空虚な宇宙に浮かぶ天体のように根無し草の私たちは、現実への根を回復する必要に迫られているというよりも、それらに縛られない新しい存在様態を、戸惑いながらも受け入れつつあるのかもしれません。時空間と人間との二重の匿名性、そしてその中での人間の在り方を象徴的に暗示することにより、本シリーズは彼女の今までの仕事の一つの結実となるとともに、現代の「神話」あるいはその不在を効果的に描き出しているのではないでしょうか。

ギャラリーヤマキファインアートで6年ぶり4度目に展開されるリー・ミンホの世界観を、ぜひこの機会にご高覧下さい。

 

<概 要>

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会 期:2018年02月06日(火) - 2018年03月01日(木) 休廊日 : 日・月曜日
時 間:11:00 - 13:00 / 14:00 - 19:00
会 場:ギャラリーヤマキファインアート
所在地:〒 650-0022 神戸市中央区元町通 3-9-5-2F
問合せ:TEL: 078-391-1666  FAX : 078-391-1667  MAIL: info@gyfa.co.jp
アクセス:JR ・阪神 元町駅 西口より徒歩 1 分
料 金:無料

 

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