音楽を演奏することは、「こころ」と密接な関係があります。
身近な例でいえば、カラオケで大声を出すことでネガティブな気持ちを切り替えて「ストレス解消」という人は多くいますよね。
また、お祭りなどでは太鼓を打ち鳴らし、リズムに乗せて掛け声をかけることで気持ちを高揚させて、みんなと一体感を感じる「こころ」を生み出すことができます。
一方で、仲の良くない人とのカラオケや、自分が歌いたくない場面で罰ゲームのように無理やり歌わされることは恥ずかしい気持ちを呼び起こしますよね。
それは音楽を演奏することが自分の「こころ」をさらけ出すことになるからなのです。
「アートとこころ」最終回では、引き続き音楽に焦点をあて、音楽を演奏することが「こころ」にどう働きかけるのかご紹介していきます。
音楽記号にこめられた「こころ」
音楽を演奏するための楽譜には、ト音記号をはじめとする音楽記号が載っています。
この音楽記号には、実は「こころ」を表現するものがたくさんあることをご存知ですか。
例えば、「vivace(ビバーチェ)」は「活発に速く、生き生きと」、「amabile(アマービレ)」は「愛らしく」、「appassionato(アパッシオナート)」は「熱情的に」、「lamentabile(ラメンタービレ)」は「哀れに」といった風に。
実際「こころ」を表現する目的で、音楽演奏が行われることもあります。
たとえ音楽記号がなかったとしても、演奏するとき、自分なりに心を込めて表現していることが多いのではないでしょうか。
音楽演奏と「こころ」の癒し
演奏することが「こころ」を癒す効果があることが研究で報告されています。
澤田悦子は、認知症高齢者に対して簡易楽器や手拍子での演奏を含めた音楽療法を週に1回のペースで12回実施しました。その結果、表情が生き生きと明るくなり、発言も増え、音楽療法自体への参加意欲も高まるといった効果があったことを報告(澤田悦子「認知症高齢者への能動的音楽療法の効果」浅井学園大学短期大学部研究紀要 第45号、2007年)しています。このように、歌や楽器を通して音楽を演奏することで癒しの効果が得られることが明らかになっているのです。
また、多田内幸子と原浩美が2004年に発表した研究(多田内幸子・原浩美「老人保健施設における手具体操と音楽演奏の効用(2)」『久留米信愛女学院短期大学研究紀要』、2004年) では、高齢者を対象に演歌やなつメロ、童謡などを歌った後、どのような気持ちになるかの調査を行いました。
結果として、歌った後「気が晴れる」、「楽しくなる」、「ほがらかになる」、「気持ちが安らぐ」などの気持ちになると回答が得られ、音楽を演奏することで癒しの効果があることが明らかになっています。演奏することが「こころ」を癒す効果があることが研究で報告されています。
このように、歌や楽器を通して音楽を演奏することで癒しの効果が得られることが明らかになっているのです。
誰かと一緒の演奏が「こころ」に与えるもの
また1人で演奏するだけでなく、誰かと一緒に演奏することが「こころ」に影響を与えることもわかっています。
例えば、今野義孝が吹奏楽部に所属する学生を対象に行った研究( 今野義孝「吹奏楽における「息の合う」演奏の促進に及ぼす動作法の効果」『人間科学研究第31号』文教大学人間学部、2008年) では、息の合う演奏ができると「身体の軽さ・躍動感」や「身体のリラックス感」が1人での演奏時より高まることが報告されています。
おわりに
音楽演奏と「こころ」。
演奏すればそれだけで「こころ」が癒されるわけではありません。安心できる空間で表現すること、そして自分以外の誰かと一体感を得ることができるような演奏が「こころ」の癒しにつながります。
音楽演奏にハードルの高さを感じる人もいるかもしれませんが、手拍子や合いの手を入れるだけでも十分な音楽表現です。
自分が楽しめる音楽を通して、自分の「こころ」を表現して、癒してみませんか。