自分のこころを言葉で表現するのは難しいものです。
そのために芸術療法では絵などを用いることもありますが「絵も下手だからあまり描きたくないな…」という方もいますよね。
そんな人でもこころを表現できる方法の一つがコラージュ(collage)療法です。今回はそんなコラージュ療法についてお話します。
コラージュ療法とは?
コラージュとは「膠(にかわ)による貼り付け」という意味のフランス語です。文字通り、新聞紙や雑誌といった印刷物、果てはガラスや釘といった様々な物体を糊付けしていくこのコラージュは、パブロ・ピカソ(Pablo Picasso, 1881~1973)やジョルジュ・ブラック(Georges Braque, 1882~1963)がリードした芸術運動の一つ「キュビズム」で芸術表現の一つとして取り入れられ、その後様々な作家の芸術作品に用いられるようになりました。
絵画作品ではじめてのコラージュと言われているのはピカソが1912年に制作した《籐椅子のある静物》です。これは絵の具で描くだけでなく、籐椅子の一部が印刷された紙を画面内に貼り付けて構成された作品です。
このような芸術的手法が1970年代にリハビリテーションの一つである作業療法の分野に導入され、次第に心理療法にも用いられるようになったのです。
[caption id="" align="alignnone" width="512"] キュビズムの作家フアン・グリス(Juan Gris, 1887~1927)によるコラージュの作品。 《The Sunblind》、1920、テート・ギャラリー蔵。[/caption]
コラージュ療法のために用意するもの
コラージュ療法は身近な材料で実施することができます。
必要とされているものは、
・はさみ
・のり
・切り抜いてもいい雑誌や新聞、広告など
・台紙となる画用紙かケント紙
・クレヨン、フェルトペンなど筆記具
などです。最も大切なのは切り抜く材料です。雑誌などできるだけ多くの種類を用意しておく必要があります。
コラージュ療法の実施の仕方
コラージュ療法の実施の仕方はとても簡単です。
治療者(セラピスト)は患者(クライエント)に「これらの雑誌やパンフレットなどから気に入ったイメージ、何かこころに引っかかるイメージを見つけて切り抜き、構成して、台紙の上に貼り付けてください」と伝えます。実際にはもっと簡単に「好きな絵を何でもいいので貼り付けてください」程度に語りかけることもあります。
大切なのは、芸術的な作品を創ることよりも、こころに引っかかったイメージを思うまま表現できるよう促すことです。
筆者が作成したコラージュ作品です。
左下に色んな色の花を配置してみたものの、青色のこの大きさの花が一番しっくり来ると感じました。
試しに左下の花だけピンクのものに変えてみました。これだけでも印象が変わります。ただ、全体の落ち着いた雰囲気に対してはつらつとしすぎて個人的に少し違和感を覚えます。この感覚も人によって違うかもしれませんね。作った本人ですら、時間が経つと違う感想を持つかもしれません。
コラージュ療法の治療的意味とは?
コラージュ療法は、すでにある写真やイラストを用いるため、0から絵を描くよりも取り組みやすく、こころを表現する上で負担の少ない方法だと言われています。
また、クライエントの状態によって方法を変えやすいのもコラージュ療法の利点です。
例えば、セラピストがクライエントの状態を考え、よりクライエントの気持ちを表現しやすいと考えられる切り抜きを用意して箱の中に入れて置き、そこから選んで貼ってもらうだけの「コラージュ・ボックス法」という方法もあります。
またこころが疲れてしまっているクライエントに対しては、台紙を小さくする、切り抜きを少なくするなど環境を調整することでより負担感を減らしながら、こころを表現してもらうことができます。
コラージュ療法では作品についてセラピストが積極的に解釈をすることはありません。
その代わり制作中にどのように感じていたか、また貼り付けた切り抜きに対してどんなイメージを持っているかなどを話してもらいます。その作業の中で、クライエントのこころの世界をセラピストも一緒に味わい、時には眺め、時には何かを発見していきます。
治療という観点から離れて、普段の生活の中でも気軽に取り入れやすいコラージュ。
気ままに創造力を刺激するもよし、お気に入りのイメージを切り抜きながら、その時々のこころの動きを見つめるもよし。
慌ただしく過ぎる毎日の中で自分のこころに寄り添う時間を過ごしてみませんか。