あなたは空の雲を見て、「アイスクリームみたい」「なんだか顔みたいに見える」など感じた経験はありませんか。
そのようなイメージを膨らませている時、人はこころを働かせています。
今回はそんな「投影」というこころの働きと、「投影」を使ってこころの目でアートを生み出す「スクイグル法 (squiggle)」という芸術療法についてお話していきます。
投影ってどんなもの?
まず下の図1を見てください。何に見えますか?
「切り取られたケーキ」「大笑いする人」「カニのはさみ」などなど色々な答えがあると思います。あなたはどんなものをイメージしたでしょうか。
実際にはこの図はケーキではありませんし、笑ってもいません。カニかどうかもわかりませんよね。ただの黒い図です。
しかしあなたに「こころ」があるからこそ、こんな黒い図でもイメージができます。そして「こころ」は人それぞれなので多種多様なイメージが生み出されます。そのイメージを生み出すこころの働きの過程を「投影」と呼びます。
そして「投影」された内容を知ることで、こころの断片を垣間見ることができます。
ではその「投影」を使った芸術療法「スクイグル法 (squiggle)」を見てみましょう。
投影法を使った芸術療法「スクイグル法 (squiggle)」
スクイグル法 (squiggle)は、医学者として小児医学、精神医学の領域で活躍したドナルド・ウッズ・ウィニコット(Donald Woods Winnicott,1896~ 1971)により提唱された方法で、日本では「なぐり描き法」とも呼ばれています。
この方法は2人で相互に行います。
例えばまず治療者が画用紙にペンなどで自由になぐり描きを行います。描き方に特に決まりはありません。描けたら患者に渡します。
図2は私が描いたものです。何か見えてきますか?
患者は渡されたなぐり描きから見えてくるものを想像します。なぐり描きはどの方向から見ても構いません。
そして見えてきたイメージに合うように線を書き足したり、色を塗ったりして見えてきた絵を完成させます。
例えば次のような絵です。
「しっぽの長いねずみ」です。
また同じなぐり描きでも次のようなものもイメージできます。
「大きな赤いリボン」です。
このようになぐり描きの段階では何の意味も持たない絵が「投影」によってこころのイメージを表現するアートになります。
1つの絵が完成したら今度は先ほど絵を完成させた患者がなぐり描きを行って治療者に渡し、治療者は患者のなぐり描きに投影を行い、絵を完成させます。これを何度も繰り返します。
「スクイグル法」の治療的な意味とは?
「スクイグル法」では治療者と患者がなぐり描きと投影を相互に行います。
これは言葉でのコミュニケーションにとても似ています。
言葉で表現することが苦手な患者でも、なぐり描きにこころを託して、自分の思いを治療者に渡すことができます。治療者は患者のこころを受け取り、「今、こんな気持ちなのかしら」と想像をふくらませ、色や形で表現して患者に返します。
そして患者も治療者のなぐり描きに対して色や描線を書き足すことで、「先生はこう思ってるかもしれないけど、私は本当はこんな気持ちなんです」という気持ちを表現し、治療者に返していきます。
この作業を何度も繰り返すことでお互いにこころの深い部分を少しずつ知ることができるのです。
こころの目で見てみよう
こころは目に見えませんが、こころでイメージを見ることはできます。
そのイメージをアートにして共有することで、あなたのこころがどんな風に働いているかを感じ取ることができるのです。
あなたもこころの目で見たものをアートにしてみませんか。