《死者供養をする老婆、恐山》〈婆バクハツ!〉より 1969年
ゼラチン・シルバー・プリント 東京都写真美術館蔵
このたび東京都写真美術館は、「内藤正敏 異界出現」展を開催します。本展は異色の写真家・内藤正敏の50 年を超える軌跡をたどりご紹介します。作家は 1960 年代の初期作品において、化学反応で生まれる現象を接写して生命の起源や宇宙の生成の姿を捉えました。その後、山形県・湯殿山麓での即身仏との出会いをきっかけに、1960 年代後半から 80 年代にかけて、主に東北地方で民間信仰の現場に取材した〈婆バクハツ!〉〈遠野物語〉など刺激的な写真シリーズを次々と発表しました。「モノの本質を幻視できる呪具」である写真と、見えない世界を視るための「もう一つのカメラ」である民俗学を手段として、現世の向こう側に幻のように浮かび上がる「異界」を発見する人、内藤正敏。そのヴィジョンは、今日の私たちに大きな戦慄と深い洞察を与えてくれるはずです。本展は主な写真シリーズを通して、その 50 年を超える足跡をたどるとともに、その表現世界に通底する独自の世界観、生命観を捉えていきます。
展覧会概要
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会期:2018年5月12日(土)〜7月16日(月・祝)
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
電話:03-3280-0099
時間:10:00〜18:00(木・金は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜日(7月16日は開館)
料金:一般 700円 / 学生 600円 / 中高生・65歳以上 500円 / 小学生以下無料
本展のみどころ
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幻視者・内藤正敏の視点
写真家であり、民俗学の第一人者である内藤は、「モノの本質を幻視できる呪具」である写真と、見えない世界を視るための「もう一つのカメラ」である民俗学を手段としながら、生命の起源や宇宙の生成の根源を探求し続けています。そして、内藤の関心は自身の作品により触発され、深化します。本展は生と死、現世とあの世の二つの世界の境界に生きる修験者*、あるいは霊媒者のような視点で異界を幻視し、写し撮ってきた内藤の約 50 年の軌跡をたどりながら、独自の世界観、生命観に迫ります。
*修験者:日本古来の山を祖霊の住む他界とみなして崇める山岳信仰と、仏教の密教、道教などが結びついた宗教道の信者のこと
前衛的な特殊技法
大学時代、化学を専門に学んだ内藤は、制作過程において独自の実験的な手法を取り入れています。化学反応を写した〈コアセルベーション〉などの初期作品では暗室でのネガポジ反転、多重露光やコラージュなど特殊技法を駆使するなどのほか、〈婆バクハツ!〉シリーズなどを手掛けた 60 年代後半では報道用にしか用いられなかったストロボ撮影を意識的に取り入れ、さらにノーファインダーで撮影することで強い光を受けて闇夜に怪しく存在する被写体の姿が強調されています。
TOP コレクションならではのラインナップ
本展では当館が所蔵する内藤正敏作品 117 点をすべて出品いたします。なかでも「東京を表現、記録した写真作品を収集する」という収集の基本方針をもつ当館のコレクションより〈東京 都市の闇を幻視する〉全 52 点を総覧いただけます。また、内藤が手掛けた北海道の開拓写真調査から「写真の本質の美」を見出し、その後の東北調査へと向かわせるきっかけとなった、明治期の北海道開拓写真 2 点を展示します。そのほか、内藤が誌面を作品発表の場としていた 1959年の『カメラ芸術』等、貴重な図書資料からも、内藤正敏の多角的な仕事を紹介します。