『金の船』表紙絵
2018 年は、高畠華宵が愛媛県宇和島に生まれて130 年になります。大正から昭和にかけて挿絵画家として活躍した華宵ですが、全盛期の仕事ぶりと比べると戦後は挿絵の仕事も減り、華宵にとっては思うように絵を描けない厳しい晩年を過ごしました。しかし華宵が残した作品は、同時代の少年少女は言うに及ばず、彼の死後も多彩なジャンルのアーティストに様々な形で影響を与えています。
戦後の少女漫画は華宵ら大正ロマンの画家たちの流れを受け継いでいますが、中でも美少年や少年愛をテーマにした竹宮惠子、萩尾望都、山岸涼子などの作品には、華宵の美少年の美しさと凛々しさが受け継がれています。アングラ演劇を牽引した寺山修司や唐十郎は、ポスターや書籍の装丁に華宵作品を使っています。華宵作品は彼らのイマジネーションを刺激したのでしょう。美輪明宏は自他共に認めるように華宵的な妖美を誇っています。このように華宵の美意識は、直接的にしろ間接的にしろ、現代文化にもその水脈が続いていると言えますが、その代表格が異才の漫画家・丸尾末広です。
丸尾末広は1956 年に長崎で生まれました。独学で絵を描き始め、レトロなタッチで大正から昭和の雰囲気を醸し出す作品を多く描いています。1980 年代後半からは伝説的な漫画雑誌『ガロ』を中心に作品を発表し、グロテスクなエロス、猟奇趣味の世界を細密で耽美な画風で表現しています。2007 年からは江戸川乱歩原作の「パノラマ島奇譚」「芋虫」を漫画化し、手塚治虫文化賞新生賞を受賞しました。もとより海外での評価も高く、ヨーロッパでは仏語、独語、伊語などに翻訳作品が出版されています。
そんな丸尾は以前より華宵ファンを公言しており、自身の画集の中で華宵の幽霊との(架空の)対談を掲載しています。また画風そのものに華宵の影響を見ることが出来ますが、漫画の中に華宵作品を引用する例も散見されます。丸尾は独特の感性と美意識で華宵を受け継ぎ、華宵作品が持つ、隠れた「毒」の美しさを漫画作品の中に織り込んでいます。
高畠華宵と丸尾末広の作品は、一見写実的ではありますが、生々しさを排除した幻想世界です。それは美と醜、善と悪、生と死、愛と憎悪が入り混じる幻想世界です。なぜ人間は幻想を求めるのでしょうか?本展がその答えを探るヒントになれば幸いです。
【展覧会概要】
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会 期:2018 年4 月22 日(日)~5 月20 日(日)
会 場:高畠華宵大正ロマン館
開館日:毎週金・土・日・月曜日(※火・水・木曜日は休館)
時 間:11:00~17:00(入管締め切りは30 分前)
入館料:一般800 円/大学生以下500 円/
障害者手帳をお持ちの方・65 歳以上の方600 円
「華宵会」会員・小学生以下 無料
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