ニッポンの写実 そっくりの魔力
上田薫 「玉子にスプーンA」 1986(昭和61)年 豊橋市美術博物館蔵
何かにそっくりなものを目にしたとき、私たちは「すごい!これ、本物?」と、素朴なおどろきをおぼえます。目に見えるものをあるがままに再現したいという欲望は、私たちの心に深く根ざした、古くて新しい感情なのではないでしょうか。
初期の洋画家たちは、西洋美術の流入を刺激として、再現的描写技法の獲得につとめました。明治の外光派は、自らの感覚に忠実に現実の世界を再現しようとし、続く世代の画家たちは、求道的ともいえる厳しい態度で、対象の本質に迫ろうとする動きも出ました。絵画の表現としての「写実」へのアプローチは異なりますが、感覚に直接はたらきかけるような現実感を求めたという点で、いずれも、「そっくり」であることの魔力に魅入られた画家たちだといえるでしょう。