名古屋城を舞台に展開するアートプロジェクト「アートサイト名古屋城2023 想像の復元」

遠藤 友香2023/12/01(金) - 06:27 に投稿
「アートサイト名古屋城2023 想像の復元」
名古屋城
名古屋城

名古屋城という史跡を舞台に展開するアートプロジェクト「アートサイト名古屋城2023 想像の復元」が、2023年12月10日まで名古屋城内の各所にて開催中です。名古屋城主催で現代アートのプロジェクトを行うことは初めての試みとなっています。

今回の「アートサイト名古屋城2023」では、丸山のどか、玉山拓郎+GROUP、寺内曜子、山城大督といった4組の現代アーティストが、名古屋城のこれまでの歴史や2018年に完成公開を迎えた「本丸御殿」、今なお復元整備が進む「名勝二之丸庭園」などからインスピレーションを受け、独自の観点をもとに新作を発表しています。また、夜間の本丸御殿やライトアップされた二之丸庭園など、日頃は見ることができない史跡・文化財などの特別公開もあわせて楽しむことができます。

本プロジェクトキュレーターの服部浩之は「どうやって作家選定をしていこうか考えた際、三つキーワードが出てきました。一つ目は、名古屋城が築城されて400年という長い時間というもの、二つ目に復元や再現といったメンテナンス作業、三つ目は先程の復元と繋がる部分から、どう全体を見ていくか、ピースみたいなものからどう何かを築き上げていくか、そんな観点から作家選定を考えていきました。

今回、美術館でもアートセンターでもない、展示のための場所ではないところでも何かしらのパフォーマンスを発揮できるというか、新たな経験や場を作れる人と、新しいものを一緒に作っていきたいという、そのようなことを考えて今回作家の方々に参加していただいています」と述べています。

次に、各アーティストの作品について見ていきましょう。

1.丸山のどか/《Labor to Blur》

丸山のどか/《Labor to Blur》
《Labor to Blur》の展示風景

身の回りにある「言葉」や「もの」「風景」を発想の源にして、合板や角材などホームセンターで入手可能な規格サイズの木材を用いた立体作品を制作している丸山のどか。現実と虚構が入り混じり、次元の境界が曖昧となる作品は、観るものと風景との距離感を否応なしに意識させられます。

《Labor to Blur》の展示風景
《Labor to Blur》の展示風景

二之丸庭園で展開されるLabor to Blurは、木材で制作された立体作品で、庭に関わる人の営みが想起されます。二之丸庭園は、作庭後に大規模な改修が施され、明治期には兵舎造営のために一部が取り壊され、現在は発掘調査と庭園復元が続くなど、様々な営みが重ねられています。

丸山のどか《Labor to Blur》
丸山のどかと《Labor to Blur》の作品

丸山曰く「複数の異なる時代の庭が組み合わさったような庭園であることを最初の下見の際に教えていただいて、陸軍の所管だった時代の後、陸軍の建物が名古屋大学の学生寮として使われていたり、デザイン博の際に二之丸庭園の東側にパビリオンが建てられていたり、すごく面白い色々なことを経験してきた庭園なんだなと思いました。長い時間をかけてつぎ足されて、また消されて、その時代と時代の境目を動かすように色々なものが庭園の中を移動してきたことを想像して、二之丸庭園に関わってきた異なる時代の人々の労働の姿を様々な形の台車に置き換えて、かつて庭園内を移動してきたであろう物を、その台車の上に載せてこの庭園の各所に配置しました。全部で15ヶ所に作品を展開しています」。

2.玉山拓郎+GROUP/《Locus》

玉山拓郎+GROUP/《Locus》
《Locus》の展示風景

身近にあるイメージを参照し生み出された家具や日用品のようなオブジェクト、室内空間をモチーフに、鮮やかな照明や映像、音響を組み合わせたインスタレーションを制作している玉山拓郎自然の中にはあまり見ない鮮明な色彩や光によって空間を大きく変容させる彼は、本展では井上岳、大村高広、齋藤直紀、棗田久美子、赤塚健による建築コレクティブ「GROUP(グループ)」と協働し、本丸御殿エリアに大型の屋外作品を展開しています。

玉山拓郎+GROUP/《Locus》
《Locus》の展示風景

玉砂利が敷かれた真っ白な中庭に、ひらりと舞い落ちる葉を箒で掃く―400年前にもそんな風景があったかもしれないと想像し、人が掃き掃除をする営みに着想を得た作品です。滑らかな曲線を描いて中庭を蛇行する鉄パイプには、たくさんのLED照明がリズムよく吊り下げられており、掃き掃除をする人の残像のように見えるかもしれません。

玉山拓郎+GROUP/《Locus》
(左から)GROUPの井上岳、玉山拓郎

玉山とGROUPの井上は「一番最初に城内を下見をしたときに、やはり本丸御殿の中庭というかこのスペースの御殿の内側に関してすごく精悍な佇まいで、すごく不思議なスケール感を持ってるなと思ったんですね。かつ遠くには天守を拝むことができるという、そこのスケール感の中で何か作品を作れないかなというところが始まりです。

この作品は、全長が100mぐらいある鉄のパイプで全体の形を作っています。高さは一番高いところで4m弱ぐらいあります。この中庭を管理していたであろう方が掃除をする際のその人の動線とモップ、当時は箒だったと思うんですけど、その箒の揺れていく様を軌跡としてこの形にしています。

よく建築家とアーティストの協働というときは、アーティストの展示のその構成を、建築管理者が担当するようなことはよくあると思うんですけど、あくまでも一つの作品を一緒に作り上げるような、何かそういうことを意識して、2人で話し合っていきました」と述べています。

3.寺内曜子/《一即多多即一》《パンゲア》

寺内曜子/《一即多多即一》
《一即多多即一》の展示風景

「世界は区別のない一つの物」とのコンセプトのもと、表裏、内外など、当たり前と見なされている対立項の解消を素材から必然的に成る形の彫刻で実証したり、人間の知識や見ることの限界を、展示空間自体を巨大な全体の一部とみなした「部分しか見えない」状況のインスタレーションで提示し続けている寺内曜子。

寺内曜子/《パンゲア》
《パンゲア》の展示風景

寺内による作品は、二つの茶室の床の間に設置されています。猿面茶席には《一即多多即一と名付けられた掛軸のような形式の作品が架けられ、望嶽茶席には《パンゲア》と題された作品が床上に置かれています。どちらも「私たちは世界の部分しか見ることができない」と述べる寺内の思考をあらわすもの。部分しか見えていないはずの私たちが全体を見通せていると思い込んでしまうことで、様々な分断が生まれてしまうのかもしれません。

寺内曜子
寺内曜子

寺内は「基本はやはり世界は一つで、対立というものは人間が自分中心に世界を見て、それで良いとか悪いとか、簡単に上下左右といった位置関係で分けていて、対立を作っているのは私達であって世界にはないと思うんです。なぜ対立を作ってしまうかというと、私たちは部分しか見れないのに、何かを判断するときには、どうしても部分を全体として、それに意味合いを持たせてしまうがゆえに、それと異質なものに出会ったときに、対立となってしまうんだと思います。

この作品は、実際に足を運んで、ご覧になった方が自分で見つけてこその体験になるんです。ここにきて、頭で考えるのではなく自分の目でよくよく見て欲しい。それをやってほしいというのが私の願いです」と語っています。

4.山城大督/《SOUND OF AIR》

山城大督/《SOUND OF AIR》
《SOUND OF AIR》の展示風景

映像の時間概念を空間やプロジェクトへ応用し、その場でしか体験できない〈時間〉を作品として展開している山城大督。近年は映像や音、光、家具を配置する上演型インスタレーションを制作しています。

《SOUND OF AIR》の展示風会
《SOUND OF AIR》の展示風景

正門を入ったすぐ左手には、名古屋城築城以前の600年前から生きているとされるカヤの木が鎮座しています。このカヤの木は毎年晩夏から初秋にかけて実をつけるといいます。山城は、カヤの木とそれにまつわる名古屋城関係者の活動に興味を持ち、カヤの木と関わる方法を模索。本展では木の実や葉などからエッセンシャルオイルを生み出す専門家の協力を得て、カヤの実の香りを凝縮したエッセンシャルオイルを精製します。

山城大督
山城大督

山城曰く「本展で名古屋城に関わることになった際、最初に調べたのが名古屋の歴史です。中でも結構気になったこととして、戦争と名古屋城があります。名古屋では名古屋大空襲で、名古屋城も一体が焼けたという歴史があることを知りました。天守も本丸御殿も本当にこの一帯はほとんど焼けてしまいましたが、隅櫓は残ったんですね。また、その他に残ったものの一つにカヤの木があります。ですが、カヤの木は半焼していて、今でも炭の匂いがしそうなぐらい幹が黒くなっています。

カヤの木は名古屋城が築城されるもっと前から存在していたことを知って、600年間生きていて1回半焼までしているのに、毎年大体6000個とか1万個ぐらいのすごく膨大な数の実がなるんです。1932年には、カヤの木は天然記念物に指定されています。

毎年名古屋城は、生態調査のためにカヤの実の数を数えてるのですが、落ちた実を触って嗅いだところ、ものすごくいい香りがしたんです。心地よい香りでありながら、600年という長い時間の中で、いろんな風景を見ながら空気を吸って、今も毎年同じ香りを落とし続けている―そういう物語からすごくインスピレーションをたくさん受けました。(展示空間の)左には精製した精油を展示しています。実際に香りを嗅ぐことができるので、ぜひ香ってみてください。香りは、性別年齢国籍を問わず、言語を飛び越えて、すごいスピードでコミュニケーションできるメディアなんだなっていうのを改めて感じました」。

 

以上、名古屋城で初となるアートプロジェクト「アートサイト名古屋城2023 想像の復元」をご紹介しました。歴史のある名古屋城の中で現代アートを堪能できるまたとない機会なので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

※各作品の詳細は、アートサイト名古屋城2023公式『ガイドブック』をご参照ください。

 

■「アートサイト名古屋城2023 想像の復元」 

会期:2023年 11月29日(水)ー12月10日(日)

会場:名古屋城内の各所(本丸御殿南側、二之丸庭園、茶席、カヤの木ほか)

入場料:大人500円 中学生以下無料

・名古屋城内への入場料でアートプロジェクト「アートサイト名古屋城」を鑑賞できます。

・名古屋市内高齢者(敬老手帳持参の方) 100円

・障害者手帳をご提示の方 無料(付き添い2名まで)

入場時間:9:00-19:30(閉門20:00)

作品観覧時間:10:00-19:30

・17:00以降一部観覧できない作品があります。

・本丸御殿への入場は9:00より19:00(閉門の1時間前)まで。

・西の丸御蔵城宝館、乃木倉庫への入館は9:00より16:00まで。

・天守閣には現在入場できません。

https://nagoyajo.art/

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