在日スイス大使館主催、スイスのインダストリアルデザイナーのカルロ・クロパットが日本の工芸品を考察する展覧会「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在の象徴」

遠藤 友香2023/11/28(火) - 08:47 に投稿
カルロ・クロパットと彼による有田焼の作品の数々
「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在」
「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在」展の様子

 

在日スイス大使館主催の、スイス人のインダストリアルデザイナーであるカルロ・クロパットの展覧会「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在」が2023年12月3日まで、東京・渋谷にある(PLACE) by methodにて開催中です。

カルロ・クロパット氏
インダストリアルデザイナーのカルロ・クロパット氏

クロパットについてご紹介しましょう。彼はECAL/ローザンヌ美術大学で、精密さと革新性に基づいた教育(スイスの伝統)を受けました。また、コペンハーゲンのセシリエ・マンズの下で、職人技と流動的な線描に基づいたスカンジナビアの手法を体験(2012-2013)。さらに、コペンハーゲンのStatensVærksteder for Kunst(デンマーク・アート・ワークショップ)でのレジデンス。その後、初のソロプロジェクトとして木、磁器、漆でできたキッチン用品のシリーズを発表しました。それ以降、日本の職人・製造業者とのプロジェクトを多く進めています。

彼の作品は、伝統と革新が調和する穏やかで明白、親しみやすさが特徴です。制作中は素材、工程、品質を限界まで良いものとするために、アイデア、素材、技術(テクノロジー)の検討・試作を数えきれないほど繰り返すそう。

最近では、ボルグマン&クロパットの木製家具コレクションでスイスデザインアワード2023(2023年6月)を受賞。クロパットがデザインした、株式会社セキサカ(本社・福井)の新しい食器コレクション「SARO」は、2023年6月に発売され、グッドデザイン賞2023を受賞するなど実力派インダストリアルデザイナーです。

カルロ・クロパット

クロパットは、2023年1月~3月といった3カ月間有田に滞在。本展では、有田焼の李荘窯との密接な共同作業で制作した作品のコレクションの数々を展示し、有田焼を通じてクロパットが学んだ装飾の意味や自然の関わりへの考察も発表しています。

彼は、縄文時代からポップカルチャーに至る日本の工芸品を考察し、シンボルの起源や意味、機能について掘り下げます。特に螺旋とその多様な解釈に焦点を当て、鑑賞者を自然と非物質的な世界との再会へと誘います。

自然と調和するエコロジカルな行動の原動力としての装飾の価値を示すことで、本展は環境の持続可能性に関する考察を促します。クロパットは、人間も含めた生物は限られた生物資源を持つ地球の自然な生命システムの不可欠な一部であることを、鑑賞者に再認識させたいと考えているといいます。自然は単なる資源ではなく、生きている主体です。自然を尊重し持続可能性を保つことが、人としての理性的な行動だと述べています。

次に、本展への理解を深めてもらうために、詳細にご紹介していきます。

1.クリエイティブ・レジデンシー・有田

2023年1月、クロパットの旅は「クリエイティブ・レジデンシー・有田」に参加することで始まりました。このレジデンス・プログラムは、佐賀県の職人と国際的なアーティストとの交流や共創を促進し、地域の活性化と持続可能な社会の実現に貢献することを目的としています。そこでクロパットが体験したのは、400年にわたる有田磁器の歴史と今日までの発展です。その有田での体験からクロパットは、現代の日常的な儀式:日々の食事とその道具:食器に描かれた装飾、先史時代のシンボルの使用についての研究に没頭しました。

なお、本レジデンシープログラムは、在日スイス大使館が進めるコミュニケーションプログラム「Vitality.Swiss」のイニシアティブによるプロジェクトです。BIG-GAME design、デザインディレクターのダヴィッド・グレットリ、OKRO Design & Craftの創設者ハインツ・カフリッシュらによる審査委員会により数十件の応募者の中からクロパットが選出されました。

2.展示物について―お茶を飲む:日常の儀式

「お茶を飲む」という行為に惹きつけられたカルロ・クロパット氏
「お茶を飲む」という行為に惹きつけられたカルロ・クロパット氏

有田焼を代表する窯元のひとつ「李荘窯」をパートナーに、クロパットは現代の日常的な儀式とそれに関連するもの、特に「お茶を飲む」という行為に惹きつけられました。実際、クロパットはたった3か月間の滞在中に、何と21もの茶器や道具のコレクションを制作。それぞれのアイテムの形は、球体や円柱、あるいはその組み合わせといった、シンプルで古風なものです。また、いくつかのオブジェは、異なる起源を持つ螺旋状の装飾模様で彩られています。これは、多様な実用的なオブジェに意味の層を加え、私たちの社会と自然を再び結びつけることを意図しています。

3.デザイナーとしての考察

「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在」
「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在の象徴」展

本展は「美」や「美的行為」(道徳的行為-自らの意志で行う行為)という考え方を通して、無形なもの、近づきがたいもの、幻想的なものといった神秘的な実態、すなわち、美や神話、儀礼を通してうかがえる地、風、水、火といった元素精霊によって息づく世界の理解に寄与することを目標としているといいます。

クロパットにとって、周期的に浮かんでは消えるこれらの要素は、季節や美の感覚と結びついています。彼の解釈は、はかなさを美の理想とする日本の価値観と共鳴。そこでクロパットは、自己鍛錬を体現し超越的な体験を提供する、凝縮された美の儀式である茶道に焦点をあて、日本的・仏教的な振る舞いにおける神話やシャーマニズムとの親和性を描くことにしました。

本展では、装飾、特に螺旋の歴史を、縄文文化からポップカルチャーに至る日本の工芸品を通して辿ります。クロパットは民藝運動の創始者である柳宗悦の哲学、特に、社会が自然や環境とどのように関わるかにおいて、模様やシンボルが重要な役割を持つという考え方にインスピレーションを受けたといいます。

クロパット曰く「日本に出発する前、私はオークションの骨董品を見て、有田の磁器生産の歴史を理解しようとしました。そこで私は(あまり驚くことではありませんが)、白磁に青呉須が400年間も使い続けられていることに気づいたのです。そこでこう思いました。有田焼の本質に迫り、地元の職人の技を生かしたいと思うなら、自分の作る実用的なアイテムへの装飾は避けて通れない、と。

この考えは、私の中に深い違和感と大きな好奇心を同時に呼び起こしました。というのも、私はそれまで装飾を施したことがなかったからです。むしろ、装飾は役に立たないものだと学んでいたのです。

しかし、職人たちが間違っているはずがないという相反する思いに突き動かされ、約2万年にわたる陶磁器の歴史と、そこで使われ続けてきた装飾について深く研究を進めたいという気持ちが沸き起こりました。柳宗悦の著書『知られざる職人』の中で、文様を持たない社会は自然との関係や自然に対する理解を持つことができないと書かれていることに勇気づけられ、私はこれらのシンボルは単に美しいだけでなく、明確な文化的機能を持つものであることを理解しました。それぞれが固有の世界観を体現し、行動規範を内包するのです。シンボルの喪失とそれに伴う生物の喪失、言い換えれば水不足、生物多様性の減少、環境危機を助長する種の絶滅という現在の状況において、シンボルの起源と機能についての探求は重要であると思いました。

そこで私は、先史時代に世界のいくつかの、あるいはすべての地域や文化圏で、同じような時期に出現していた原始的かつ普遍的なパターンとして「螺旋」をとらえ、焦点を当てることにしました。螺旋はそれを取り巻く環境すなわち宇宙の直観的な表現として、また、循環する生命、動き、そして成長を描き示すもの、あるいは銀河、流体、私たちのDNAの無意識的な表現として使われています」。

日本初となる科学領事館
日本初となる科学領事館

以上、カルロ・クロパットの展覧会「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在の象徴」をご紹介しました。スイス連邦が、在大阪スイス領事館を日本初の科学領事館として開所するなど、スイス熱が高まっている今、ぜひスイス人のインダストリアルデザイナー、カルロ・クロパットの本展に注目してみてくださいね。

■カルロ・クロパット「美の行為 ― 装飾:自然と調和した存在の象徴」展

会期:2023年11月17日~12月3日

時間:11時~19時

会場:(PLACE) by method  

東京都渋谷区東1-3-1 

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