京都を舞台にした「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」が、2021年10月1日(金)から10月24日(日)の24日間にわたって開催されます。本フェスティバルは、2010年より毎年京都市内で開催している国際舞台芸術祭で、今期で12回目を迎えます。国内外の「EXPERIMENT(エクスペリメント)=実験」的な舞台芸術を創造・発信し、芸術表現と社会を、新しい形の対話でつなぐことを目指しています。演劇、ダンス、音楽、美術、デザイン、建築など、ジャンルを横断した実験的表現が集まり、そこから生まれる創造、体験、思考を通じて、舞台芸術の新たな可能性をひらいていきます。
今回のフェスティバルは「もしもし? !」がキーワード。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、オンラインでの対話や創作など、目の前には存在しない、不在の身体に呼びかけることが多くなったこの1年半。いまここにいる/いない他者の声や、いま起きている/起きていない音にいかに耳を傾けるのか、これまで以上に問われているのではないでしょうか。「もしもし」と呼びかける主体は私なのか、それとも私は呼びかけられているのか。そして、見えない「もしもし」の向こうをいかに想像していくのか。声・音・語り・静寂など多様な切り口から、これらを問い直す作品群の上演、リサーチ、エクスチェンジによるプログラムで、見えない声、聞こえない音を発見していくことを目指すといいます。
それでは、早速、中身についてみてきましょう。
本フェスティバルのプログラムは、関西地域をアーティストとともにリサーチし未来の創作基盤につなげていく「Kansai Studies」、国内外の先鋭的なアーティストによる作品を上演するプログラム「Shows」、トークやワークショップなど鑑賞とは異なるフォーマットで、舞台芸術に限らず先端的な思考に触れる「Super Knowledge for the Future[SKF]」の3つから構成されます。
1.「Kansai Studies」
「Kansai Studies」は、京都をはじめとした関西の地域文化を、アーティストが中心となってリサーチし、そのプロセスで起こった出来事や思考、発見を、テキストや写真、動画を通して記録・蓄積していくプログラム。1年目となった2020年度は、私たちの暮らしに欠かすことのできない「水」をテーマに琵琶湖をリサーチし、その過程や記録を特設ウェブサイトで公開中。
2年目を迎える2021年度は、水の視点から発展した生活文化のひとつとして、「食事」をテーマに、関西になじみの深い「お好み焼き」をリサーチ。
1年目に引き続き、大阪を拠点とする建築家ユニットdot architectsと、京都を拠点とする演出家の和田ながらが中心となり、お好み焼きを起点に関西の歴史や感性のあり方に迫ります。
街ごとに微細に異なるメニューや命名の謎についてなど、多角的にアプローチを開始。アウトプット形式を事前に決めずに作りながら考え、その過程も公開しながら、数年かけてリサーチを続けていくことが特徴となっています。フェスティバル期間中には、経過報告を兼ねたパブリックイベントを開催予定です。
2.Shows(上演プログラム)
国内外から先鋭的なアーティストを迎え、いま注目すべき舞台芸術作品を上演するプログラム。京都および関西における舞台芸術の変遷と動向に注目しながら、ダンス、演劇、音楽、美術といったジャンルを越境した実験的作品を紹介します。
参加アーティストは、国内から6組、海外から5組で、ホー・ツーニェン(シンガポール)、チェン・ティエンジュオ(中国)、荒木優光(日本)、ベギュム・エルジヤス(トルコ/ベルギー/ドイツ)、ルリー・シャバラ(インドネシア)、和田ながら×やんツー(日本)、フィリップ・ケーヌ(フランス)、松本奈々子、西本健吾/チーム・チープロ(日本)、鉄割アルバトロスケット(日本)、関かおりPUNCTUMUN(日本)、Moshimoshi City(テキスト:岡田利規、神里雄大、中間アヤカ、ヒスロム、増田美佳、村川拓也)(日本)が名を連ねています。
例えば、ホー・ツーニェンは、歴史的、哲学的なテクストや素材から、映像作品や演劇的パフォーマンスを発表してきたアーティスト。近年は東南アジアの近現代史につながる、第二次世界大戦期の日本に関心を拡げており、その新作が「京都学派」をテーマにした映像/VRインスタレーションです。山口情報芸術センター[YCAM]での展覧会に続き、今回、作品テーマと深く関わりのある京都で展示を行います。作品「ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声(YCAMとのコラボレーション)」では、主に京都学派の4人の思想家が真珠湾攻撃の直前、1941年11月末に京都・東山の料亭で行った座談会の記録と、同時代の関連テクストや証言を読み解いていきます。3Dアニメーション、日本のアニメの美学を融合させたVRによって、鑑賞者をアニメーションの登場人物へと同一化させながら、「歴史の再演」を目撃させていきます。
また、インドネシアのジョグジャカルタを拠点とする、実験的音楽デュオ「SENYAWA」のメンバーで、ボイス・パフォーマーとして自身のバンド「ZOO」を率いるルリー・シャバラは、自ら開発した即興的コーラス手法「ラウン・ジャガッ」を用いたパフォーマンスの新作を発表。
公募で集まる出演者と、他のミュージシャンとのコラボも多く手がけるバンドのテニスコーツとともに披露します。注目は、コロナ禍で来日できないシャバラが、リモートで出演者や演出家の筒井潤とともに作品を創作し、指揮者不在でパフォーマンスを行う自身初の展開プラン。AIを搭載した色彩システムを即興の手がかりに、演者たちは自由にことばやリズムを変え、他者の声に共鳴させて「声」で遊びながら、セッションを繰り広げていきます。パンデミックの逆境とテクノロジーを活かし、声の可能性を追求したパフォーマンスの新たなフェーズへ向かう本作をお見逃しなく。
和田ながら×やんツーは、「擬娩」を発表。
妊娠・出産をめぐる日本の現状は、明るくはありません。少子高齢化に直面しているものの、「産み育てやすい」環境整備は遅々として進んでいないのが現状です。一方で「産まない自由」に対する社会的圧力も未だやむことはありません。この閉塞的な状況に「擬娩」という、一風変わった習俗の再起動を通してアプローチ。本作は和田ながら氏の2019年初演作品を、今回が舞台作品への初参加となるメディアアーティストのやんツーをコラボレーターに迎え、リクリエーションするもの。
広辞苑によれば、擬娩とは「妻の出産の前後に、夫が出産に伴う行為の模倣をする風習」。この極めて原始的かつ演劇的なフレームを借りることで、男女の出産未経験の出演者たちは、“母だけが可能”とされてきた妊娠・出産体験を舞台上で解放し、シミュレートしていきます。新しい想像力を持って「産むこと」への問いを投げかけていくことでしょう。
そして、3歳から20歳までバレエを踊り、その後自らの身体のあり方を問い直してきたパフォーマーの松本奈々子と、主にドラマトゥルクの役割を担う西本健吾が共同で演出を行う「チーム・チープロ」は、綿密なリサーチを積み重ね、“身体”を媒介に個人の記憶と集団の記憶を再構築するパフォーマンスユニット。
KYOTO EXPERIMENT初の公募プロジェクトで選出され、2021年、2022年の2年間にわたり京都でのリサーチを繰り返しながら制作し、THEATRE E9 KYOTOにて作品を上演します。初年度は、2020年の緊急事態宣言発令後に松本が始めた、想像上のものや人、風景と踊ることを試みる「イマジナリー・ワルツ」プロジェクトを、京都バージョンとして展開。
日本で明治以降に踊られるようになったワルツは、男女が身体を接触させて踊ることから、その道徳的な問題が繰り返し指摘されてきた過去があります。ここを出発点に、当時とは別の意味で身体的接触が制限される現代において、触れ合うこと、手を取り合うことについて問いかけていきます。
3.Super Knowledge for the Future[SKF](エクスチェンジプログラム)
とりわけ実験的な舞台芸術作品と社会を、対話やワークショップを通してつなぎ、新たな思考や対話、フレッシュな問題提起など、未来への視点を獲得していくプログラムです。
例えば、「日本仏教における“アヴァンギャルド”:平安初期の比叡山と天台仏教の文化」は、荒木優光による公演の舞台、比叡山ドライブウェイ駐車場にちなみ、土地の歴史・文化に光を当てる企画です。比叡山には806年に最澄が開いた天台宗の総本山延暦寺があり、当時この地には、僧侶の国際交流、新しい価値観の興隆といった思想の一大ムーブメントがありました。平安初期の仏教文化から、現代社会を考察するプログラムです。
また、音や声を扱う作品にフォーカスしている本フェスティバルにちなみ、日常的に身の周りに存在している「音」を発見し、体感するワークショップ「ビートピクニック(みんなで作るフィールドレコーディングワークショップ)」にも注目したい。身近な環境音で音楽を作るコミュニティ「Beat Picnic」が オーガナイザーとなり、参加者がそれぞれ好きな場所で採集してきた音をミックスし、みんなでひとつのサウンドスケープ作品を作りあげていくプログラムです。
このように、[SKF]では、実験的表現が映し出す社会課題や問題をともに考え、議論し、現代社会に必要な智恵や知識を深めていきます。ここで獲得できるスーパー知識(ナレッジ)は、予測不能な未来にしなやかに立ち向かうための拠り所となるはずです。
また、フェスティバル開催期間、ローム・スクエアに出現する「ミーティングポイント」は、観客とフェスティバルとをつなぐ交流の場です。今回、オランダを拠点に活躍する美術家のオスカー・ピータースが手掛ける巨大な木製ローラーコースター「The Moving Mountain」が“会場そのもの”となり、トークイベントやワークショップを開催したり、常駐スタッフによるおすすめプログラムの紹介を行います。巨大コースターに乗って会場をめぐるのは人間ではなく、「ライダー」と呼ばれるオブジェたち。この「ライダー」は、伝統工芸・現代アートの各部門でプランを公募するほか、市民向けワークショップで制作も行います。ここに集う作品たちが紡いでいく、もうひとつの“物語”にもご期待を。これまでにないエンタメ感、スケール感が加わったミーティングポイントを、ぜひご体験ください。
今回の開催にあたって、KYOTO EXPERIMENT 共同ディレクターを務める塚原悠也氏は「コロナ禍で、国際的な要素を成立させるのが難しいが、国内のアーティストは劇場で上演する予定。共同ディレクターとして2年目を迎える今期、共通認識として次の一手を考えたい。海外アーティスト側の意識にも変化が見られ、オンラインでもできることをやりたいと、ポジティブな気持ちでクリエイティブに発想してくれており、勇気づけられている。EXPERIMENTがどうなっていくか見届けていただきたい」と語っています。
フェスティバルのキーワード「もしもし?!」が、多様な声を発見し、それにより私たちの今を見出すきっかけになることでしょう。ぜひ、舞台芸術の新たな可能性を体験しに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
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■「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 AUTUMN」
日時:2021年10月1日(金)~24日(日)
会場:ロームシアター京都,京都芸術センター,京都芸術劇場春秋座,THEATRE E9 KYOTO,京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA,比叡山ドライブウェイ他
チケット販売:2021年年8月10日(火)11:00から、KYOTO EXPERIMENTチケットセンター等で前売開始。
※チケット取扱等は公式ウェブサイト(KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 )にてご確認ください。
※ベギュム・エルジヤス「Voicing Pieces」のみ、チケット発売日は9月上旬を予定。