さまざまな時代やジャンルを象徴する作品で構成され、時に「日本美術の教科書」と称されることもある、京都・細見美術館の細見コレクション。2021年6月4日から8月15日まで、細見美術館で「細見コレクション 集う人々―描かれた江戸のおしゃれ―」展が開催中です。
本展ではコレクションの中から、流行・文化の発信地に集う人々を描く名所遊楽図や祭礼図、葛飾北斎の肉筆画の名品《五美人図》、そして様々な身分や立場のスタイルを示す作品など、時代の先端をいく人々の美意識、往時の個性豊かなファッションが描かれた江戸時代の絵画を調度品とともに紹介。展示室には、これまでになく描かれた大勢の人々がおしゃれをして集結しています。
主任学芸員の伊藤京子氏は、「江戸時代は安定した時代で、庶民にもおしゃれが浸透していた。活き活きとした活気溢れる時代で、皆がおしゃれをして、出掛けていた。今の人に負けないくらい、江戸時代の人々はおしゃれだった。奢侈禁令中には、シンプルで地味めな装いでも、裏地で華やかさをプラスしていて、歩いたときに見えるおしゃれを楽しんでいた。コロナ禍の今、人が集うことが困難な状況だが、本展の絵の中に飛び込むことで、気持ちが明るくなるといい。ワンポイント上手な江戸時代に人々のおしゃれは、共感を持てる部分が多いと思う」と述べています。
本展は、3章から構成されており、次に各章毎にご紹介します。
第1章 名所に集う人々
桃山時代後期から江戸時代前期にかけて、京都をはじめとして奈良や江戸の名所や祭礼などに焦点を当てた風俗画が多く描かれました。新名所や人気の観光スポットに繰り出す人々や、花見や芝居見物、祭りや踊りに熱中する人々の様子からは、今にも喧噪の賑わいが聞こえてきそうです。絵を描かせた誰か、描いた絵師、そして生き生きと描かれた人々のエネルギーみなぎる絵画世界に、私たち鑑賞者も時空を超えて出掛けてみませんか。
大きな伽藍をみせる画面中央の浅草寺。左上には梅若丸伝説を伝える木母寺が描かれ、右上に向かって隅田川が流れています。下方には、歌舞伎小屋、人形 浄瑠璃の小屋、遊郭などが連なります。古くから知られる名所と新しい遊興地を組み合わせ、新興都市江戸の活気を示そうという作者の意図が汲み取れる作品。明暦の大火(1657年)以前の江戸を描く屛風は少なく、極めて貴重な作例です。
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第2章 男の出で立ち、女の着こなし
色鮮やかで絢爛豪華な装いが主流だった江戸前期。人々が集う場所はさながらファッションショーの会場のよう。武士のフォーマルな姿や風流に興じる庶民の、華やかな色彩や模様が目をひきます。度々の奢侈禁令により華美な装いなどが禁じられた江戸中期以降、男も女も格子や縞などのシンプルな柄、ベーシックな色味のきものを纏うようになります。一見地味に見える装いですが、裾や裏地などに工夫を凝らして個性を発揮。粋な美意識がモードを生み出してきました。
反物を前に思案する娘を中心に、立場や年齢の異なる5人の女性たちを描いた作品。娘の前の風呂敷包みには「本店」と書かれ、名のある呉服店から好みを伺う品がいくつも届いた様子が窺えます。新年の晴れ着選びか、婚礼の支度でしょう。女性たちはいくつもの三角形を成すように配され、北斎の40代後半の構築的な画風が面白い。「正月品定め図」とも称され、広く親しまれてきました。
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第3章 時世粧 (いまようすがた)
異国の行列、遊里、店先、祭事や日常のひとこま―様々な場面に生きる人々の姿を描く風俗画には、往時の空気までもが写されています。流行の先端もそれ以前の姿も、絵画に託されて今に甦ります。
江戸後期のさまざまな身分、職業の男女26人を解説を交えながら列記した図巻。戯作者山東京伝の名を記す文化五(1808)年の序文によると、作品の内容はさらに14、5年前(寛政5、6年頃)のものと判明。18世紀末の江戸のファッションが階層別に具体的に描かれ、服装史、風俗史などにおいて極めて有用な資料です。画家については、歌川豊国とする説が近年強い支持を得ています。
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集まりやお出掛けのままならない今日この頃、作品の世界の中に入って、往時の人々のエネルギーを体感してみてはいかがでしょうか。
開催概要
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■細見コレクション 集う人々-描かれた江戸のおしゃれ-
会 期:2021年6月4日(金)~8月15日(日)
会 場:細見美術館
時 間:10:00~17:00
*入館は16:30まで
休 館:月曜日
料 金:一般 1,300円/学生 1,000円