東京で初の本格的な個展として、総数約100点で作家の活動の全容に迫る「白髪一雄」展

遠藤 友香2020/02/20(木) - 13:55 に投稿
あびらうんけん(胎蔵界大日如来念誦) 1975年 兵庫県立美術館 油彩、キャンバス

※新型コロナウイルス感染症の感染予防・拡散防止にかかる政府からの要請をふまえ、東京オペラシティ アートギャラリーは、2020年2月29日(土)から3月16日(月)の予定で臨時休館中です。最新の情報は公式ウェブサイトでご確認ください。
※新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、本展は終了しました。(2020年3月13日)

都内の美術館で初の大規模展覧会となる「白髪一雄」展が、2020年3月22日(日)まで東京オペラシティ アートギャラリーにて開催中です。超大型作品や初期作品、映像資料なども含めて約100点にものぼる作品が一堂に展示されています。
「白髪一雄」展会場風景


白髪一雄(1924~2008)は、戦後日本の前衛芸術を牽引した具体美術協会の中心メンバーとして知られ、近年改めて国際的に熱い注目を集めています。兵庫県尼崎市に生まれた白髪は、幼少より書画骨董、映画や芝居、浮世絵版画や中国の怪異小説などに親しんで育ちました。当初は日本画を学びましたが、京都の美術専門学校を出てから油彩画に転向しました。初期作品からは、伝統と近代、日本画と洋画など、様々な対立軸のはざまで自己の表現を模索した白髪の息づかいが伝わってきます。

アトリエでの制作風景  1960年代  画像提供:公益財団法人 尼崎市文化振興財団
アトリエでの制作風景 
1960年代 
画像提供:公益財団法人 尼崎市文化振興財団

1952年に金山明、村上三郎、田中敦子らと先鋭的な表現をめざして「0会(ゼロ会)」を結成。具体美術協会に参加する前年の1954年より、床に広げた支持体に足で直接描く「フット・ペインティング」の制作を始め、その実践と探求により、未知の領域を切り拓いていきます。従来は制作の手段にすぎなかった身体運動(アクション/パフォーマンス)をまさに画面の主役に据えるそのラディカルな方法は、既存の芸術的、社会的な常識を一気に飛び越え、人間がものを作る行為の原初にたち返る画期的なアイデアでした。当時の白髪は、身体を酷使して得られる精神的な糧のようなものを、作品を残すこと以上に重視していました。

1955年、白髪は「0会(ゼロ会)」の仲間とともに、吉原治良率いる「具体美術協会」に参加。以後、実験的作品やパフォーマンスを次々と発表します。それらは今日のインスタレーションやアースワーク、パフォーマンス・アートなどの先駆として高く評価されています。本展ではこれらを貴重な動画や写真資料で紹介しています。

「具体」の国際的評価が高まるなか、作品を海外に送る際、個々の作品を識別するために、少年時代から愛読した『水滸伝』に登場する豪傑たちのあだ名をタイトルにつけ始めます。血なまぐささや暴力性をはらんだ作品イメージに、豪傑たちのあだ名は合致していたのでしょう。

白髪は1960年代頃から密教に関心を深め、1971年に比叡山延暦寺で得度し天台宗の僧侶となります。吉原治良の死去を機に「具体」が解散する頃から、作品には密教的な妖しさ、濃密な精神性が漂い始め、素足にかわってスキージ(長いヘラ)を用いて画面に流動感をもたらす方法が優れた効果を上げています。具体美術協会解散後も先鋭な制作原理を貫いた白髪の作品は、空間や時間、物質や運動のなかで人間存在のすべてを燃焼させる圧倒的な力をはらんでおり、同時に、絵具の滴り、滲み、粘性や流動性、堅牢さ、といった油彩画ならではの魅力を豊かに備えています。白髪の探求は、人間の資質と感覚をいかに高めるかという問題や、宗教的な精神性の問題など、独自の人間学的アプローチを含んでおり、様々な視点からの検証を待っています。

地暴星喪門神 1961年 兵庫県立美術館蔵(山村コレクション) 油彩、キャンバス
地暴星喪門神
1961年
兵庫県立美術館蔵(山村コレクション)
油彩、キャンバス

 

貫流 1973年 東京オペラシティ アートギャラリー蔵 撮影:早川宏一 油彩、キャンバス
貫流
1973年
東京オペラシティ アートギャラリー蔵
撮影:早川宏一
油彩、キャンバス

白髪は1974年に延暦寺で激しい仏道修行を修めて以後、スキージで円相を多く描きます。しかし動きに乏しい円の反復で制作は停滞し、それに気づいた白髪は、改めてフットぺインティングに回帰します。それは単なる回帰ではなく、精神の凝縮を感じさせる充実した作品群を生み出すことになりました。

群青 1985年 尼崎市教育委員会蔵(尼崎市立尼崎高等学校) 油彩、キャンバス
群青
1985年
尼崎市教育委員会蔵(尼崎市立尼崎高等学校)
油彩、キャンバス

白髪の没後10年以上を経て開催する本展は、東京で初の本格的な個展として、初期から晩年までの絵画約60点をはじめ、実験的な立体作品や伝説的パフォーマンスの映像、ドローイングや資料も加え、総数約100点で作家の活動の全容に迫ります。白髪の世界観を体感しに、ぜひ会場に足を運んでみてください。
 


■「白髪一雄」展
会 期:2020年1月11日(土)~3月22日(日)
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、本展は終了しました。(2020年3月13日)
会 場:東京オペラシティ アートギャラリー
時 間:11:00-19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館の30分前まで)
休 館:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、2月9日(日・全館休館日)
料 金:一般1,200(1,000)円/大・高生800(600)円/中学生以下無料 
*同時開催「収蔵品展069 汝の隣人を愛せよ」、「project N 78 今井麗」の入場料を含む
*収蔵品展入場券200円(project Nを含む/割引無し)もあり
*( )内は15名以上の団体料金
*障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料
*割引の併用および入場料の払い戻し不可
問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)



 

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