1888(明治21)年、太田南海は松本市の中心部・中町に人形師の長男として生まれました。
息子の才能を見込んだ父により、木彫家・米原雲海に入門したのは17歳のときでした。
当時の日本には西洋美術の波が押し寄せ、日本の伝統的な技法と西洋の技法とを絡み合わせながら、近代彫刻の幕が開けようとしていました。
そんな時代、南海は師・雲海の信頼も厚く、師の晩年の作である「善光寺仁王像」などに雲海工房の主力として腕をふるいました。
独立し、拠点を故郷・松本に移すと、地元の人々に請われて、仏像や肖像、祭りの舞台などを制作しながら、文展・帝展などへの出品を続けました。
岡倉天心に日本画の手ほどきを受けるなかで磨かれた感性は、卓越した技術を背景に、《弱法師》《雪ぞら》などの作品に発揮されました。
とくに、3人の女性を「過去」「現在」「未来」に見立てた大作《宿命》は、キリスト教の聖母と仏教の観音像を融合したかのような独特の優美さと静けさをたたえています。
1959(昭和34)年、70歳で没するまで地元で活動を続けた南海。
地方の美術活動振興のため、作家たちの発表の場を設けたり、審美眼で古美術の目利きをするなど、一彫刻家の枠にとどまらない活動は、地元の美術家たちの信望をあつめました。
今年は、南海が生まれてから130年。
本展では、彫刻家としての足跡をたどるべく、プロローグとして師・雲海作《竹取翁》を、南海作《竹取翁》とともにご紹介します。
木彫作品を中心に、陶彫や日本画も含め、市井に眠る多彩な南海の芸術世界をご堪能ください。
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