近づいて見つめる。武士達が戦いに明け暮れる中、はりつけられ、しばり首にされた死体がおびただしくある。その一方で、同じ時間、洗濯を干し、田植えに励む一日を送る人の姿がある。・・・あれ!?お葬式をしている人や、ゴルフの打ちっぱなしをしている人もいる? 屋根瓦はドミノ?・・・。
池田学を味わい尽くせる「池田学展 The Pen −凝縮の宇宙−」
今回は金沢21世紀美術館で現在開催中(~2017年7月9日(日)まで)の「池田学展 The Pen −凝縮の宇宙−」の内覧会についてお届けします。池田さんの生まれ故郷である佐賀からスタートしたこの巡回展では、なんと、池田学さんのこれまでの画業をほぼ網羅する約120点を展示。国内外で評価の高まる池田さんを知る絶好の機会となっています。
《巌ノ王》 は、池田学さんの原点とも言えるペンを使って描いた最初の作品。パネル状になっているのは、学生時代、担当教官に描いた絵(中央最上部)を見せ作品について助言を求めたところ、この絵を生かし描き足すことを勧められたため。この作品で賞や高評価を得たことで、池田学さんの今日のスタイルが生まれました。
一日に握りこぶし一つ分程の面積しか描き進まないくらいみっちりと描き込まれた池田学さんの作品には、何度みても発見の尽きない緻密さがあります。誰もが聞いて驚くのは、池田さんの作品に下絵がないこと。絵の最終形が最初から念頭にあるというよりは、漠然としたテーマの下、創作されるそうです。丹念に時間をかけ、イマジネーションや、その時々、池田さんに訪れた出来事を織り込み、紡ぎ出された作品は、まさに、創作にかけた池田さんの日々の集積。しかしながら、近づいては離れ、近づいては離れを繰り返し、絵を描き進めることで来上がった作品は、あたかも最初から一つの有機体であったかのような見事な統一感に満ち、離れて全体を眺めた時、みる者に圧倒的な迫力でせまってきます。
紆余曲折、3年の歳月かけ米国で完成させた大作《誕生》
池田さんの作品が一同に会した今回の展覧会、中でも目を引くのは最新作《誕生》です。アメリカ・チェゼン美術館でのアーティスト・イン・レジデンスプログラムで、約3年の月日をかけて完成したこの大作は、3m×4mと、池田さんの作品の中でも最大級となります。瓦礫をその身体に巻き込みながら枝や幹を画面いっぱいにのばし、花の咲き乱れる大木。その根元には波が打ち寄せ、画面全体が息づいてみえます。2011年3月11日に起こった東日本大震災を否応無く連想させるこの作品。しかし池田さんは、より普遍的な視点で、世界中どこでも起こり得る自然災害に人はどのように向き合うのかを問うています。制作期間中、ご自身の子供の誕生、親友の死を体験し、また利き手の右手の負傷に見舞われた池田さん。それらを経て、作品にはどんな非常時にも繰り返される生と死、再生が描き込まれています。
但し、この作品は傷ついても再生する姿を詠うだけのものではありません。明るい未来を予兆させる色とりどりの花。実は、一つとして本当の花はありません。よくみると花びらは、仮設住宅であるテント、漂着したプロペラ、ボート、骸骨等から出来ています。ハザードシンボルの花すらあります。この木自体、まだ本当の花、つまり新しい生命を生み出せる程、回復してはいないのです。何かが起これば、すべては流され、木しか残らないかもしれません。そこには、自然が蘇り、人が生活を立て直すには想像以上に長い年月がかかるのではないかという池田さんの思いがあります。
豊かなイマジネーションと確かなテクニックからうまれる池田さんの作品は、何度みても見飽きることがなく、まさに眼福といえます。今回の展示作品の中には海外で収蔵されている作品もあり、このタイミングでなければ、簡単にみることは出来ないかもしれません。池田さんの作品と直に向かい合えるこの機会を是非お見逃しなく。その圧倒的な筆致を楽しむもよし、描き込まれたストーリーを探すもよし、・・・個人的には「ウォーリーを探せ」ならぬ「学」(池田さんのサイン)を探せもお勧めです!
池田学展 The Pen ー凝縮の宇宙ー
会 場:金沢21世紀美術館
会 期:2017年4月8日(土)~7月9日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし5月1日は開場)
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
URL:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1746