「アラブ・エクスプレス展:アラブ美術の今を知る」のギャラリートーク
スピーカー
南條 史生
会場
会期
2012年6月16日~10月28日
展示について
森美術館ではこれまで、中国、アフリカ、インドと、非欧米地域の現代美術を紹介し世界各地のさまざまな状況を日本に伝える地域入門編ともいうべき展覧会を行ってきました。「アラブ・エクスプレス展」はこのシリーズの最新版として、独自の現地調査をもとに企画・構成される、日本初のアラブ現代美術展です。 私たち日本人にとって、心理的距離があるアラブ世界ですが、地域の人々にも私たちと同様に日々の暮らしがあり、悲喜こもごもの生活を送っています。本展は、この「日常」というコンセプトを日本の鑑賞者とアラブ現代美術作品の架け橋とし、地域の人々の生活のリアリティーに直結した作品を中心に紹介します。欧米メディアでは、テロ、紛争、宗教や民族の対立、政治的分断といったアラブ地域のネガティブなイメージばかりが強調されていますが、本展はそれを助長するのではなく、人々の等身大の生活を描きます。 対象地域は、イラクから、アラビア半島周辺、エジプトまでの東アラブ地域ですが、これら各地域では、方言が異なり、宗教戒律の程度や、衣服を含む生活習慣も、大きな差があります。「アラブ人」であるというアイデンティティも個々人によって異なり、また、美術の状況も各地で異なります。これらの差異は必然的に現代美術作品にも反映され、アラブ地域の現代美術は、「アラブ」という一言で括るのは困難であるかのような、豊かで多様性に満ちた作品で溢れています。本展は、34 組のアーティストの絵画、彫刻、写真、映像、インスタレーションを、3 つのセクションで紹介、アラブ世界の現代美術の多様性と今日の姿を描き出します。 本展のタイトルは新聞や速達、特急列車などを連想させますが、それは特急のような速度で急速に変化を遂げるアラブ世界の今の姿を日本にいち早く伝えることを、象徴的に表現するものです。この架空の新聞は、「アラブ世界の実像とは何か?」という問いを、私たちに投げかけることでしょう。
アーティストについて
出展作家: アルファベット順 *女性アーティスト エブティサーム・アブドゥルアジーズ* (1975 年アラブ首長国連邦生まれ、在住) アーデル・アービディーン (1973 年イラク生まれ、フィンランド在住) ジャナーン・アル・アーニ* (1966 年イラク生まれ、イギリス在住) サーディク・クワイシュ・アル・フラージー (1960 年イラク生まれ、オランダ在住) リーム・アル・ガイス* (1985 年アラブ首長国連邦生まれ、在住) ターレク・アル・グセイン (1962 年クウェート生まれ、アラブ首長国連邦在住) ハリーム・アル・カリーム (1963 年イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住) ムニーラ・アル・ソルフ * (1978 年レバノン生まれ、レバノン/オランダ在住) アトファール・アハダース (2010 年レバノンで結成、活動中) アハマド・バシオーニ (1978 年エジプト生まれ、2011 年エジプトで他界) ゼーナ・エル・ハリール* (1976 年イギリス生まれ、レバノン在住) オサーマ・エッスィード (1970 年シリア生まれ、アメリカ在住) アブドゥルナーセル・ガーレム (1973 年サウジアラビア生まれ、在住) ジョアナ・ハッジトマス* &ハリール・ジョレイジュ (1969 年レバノン生まれ、レバノン/フランス在住) ルラ・ハラワーニ* (1964 年エルサレム生まれ、在住) ミーラ・フレイズ* (1989 年アラブ首長国連邦生まれ、在住) エミリー・ジャーシル* (1970 年パレスチナ生まれ、レバノン在住) ラミア・ジョレイジュ* (1972 年レバノン生まれ、在住) ムハンマド・カーゼム (1969 年アラブ首長国連邦生まれ、在住) アマール・ケナーウィ* (1974 年エジプト生まれ、在住) ジャアファル・ハーリディ (1964 年レバノン生まれ、アラブ首長国連邦在住) マハ・マームーン* (1972 年アメリカ生まれ、エジプト在住) アハマド・マーテル (1979 年サウジアラビア生まれ、在住) ハサン・ミール (1972 年オマーン生まれ、在住) マハ・ムスタファ* (1961 年イラク生まれ、カナダ/スウェーデン在住) モアタッズ・ナスル (1961 年エジプト生まれ、在住) ハリール・ラバーハ (1961 年エルサレム生まれ、パレスチナ在住) イブラヒーム・ラシード (1957 年イラク生まれ、カナダ/スウェーデン在住) ファイサル・サムラ (1956 年バーレーン生まれ、バーレーン/サウジアラビア/フランス在住) ハラーイル・サルキシアン (1973 年シリア生まれ、シリア/イギリス在住) スハ・ショーマーン* (1944 年エルサレム生まれ、ヨルダン在住) オライブ・トゥーカーン* (1977 年アメリカ生まれ、在住) シャリーフ・ワーキド (1964 年ナザレ生まれ、イスラエル/パレスチナ在住) アクラム・ザアタリ (1966 年レバノン生まれ、在住)
スピーカーについて
南條 史生(なんじょう ふみお) 森美術館館長 1949年東京生まれ。1972年慶應義塾大学経済学部、1976年文学部哲学科美学美術史学専攻卒業。1978~86年国際交流基金、1986~90年ICAナゴヤディレクター、1990年~2002年ナンジョウアンドアソシエイツ主宰、2002~06年森美術館副館長を経て2006年11月より現職。 ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館コミッショナー(1997年)、ターナープライズ審査委員(1998年)、横浜トリエンナーレ2001アーティスティック・ディレクター(2001年)、シンガポールビエンナーレ アーティスティック・ディレクター(2006、2008年)など、数々の国際展の要職を歴任する一方で、新宿アイランドパブリックアートプロジェクト(1995年)をはじめ、さまざまな大型のパブリックアート計画、コーポレートアート計画のディレクションに携わる。2007年度これまでの美術を通じた国際交流への貢献に対し外務大臣表彰を受賞。 著書に「美術から都市へ~インディペンデントキュレーター 15年の軌跡~」(鹿島出版会、1997年)、「疾走するアジア~現代アートの今を見る」(美術年鑑社、2010年)、「アートを生きる」(角川書店、2012年)がある。