生誕100年記念 菅井汲 ― あくなき挑戦者 ―
菅井汲(1919-1996)は、1940年代から1990年代にかけて活動しました。戦前から戦後にかけては商業デザイナーとして活動し、その一方で日本画家中村貞以に師事して日本画を学びました。転機が訪れたのは1952年のことで、この年単身フランスに渡ります。それ以降パリを拠点に主に版画制作を中心に活躍し、数々の国際展で受賞するなど成功をおさめました。
本展覧会では、渡仏後から晩年までの約40年間に制作された当館所蔵の版画コレクションを展示し、作風の変遷を辿ります。渡仏当初の彼は大胆で力強い象形文字のような形態の作品を手がけていましたが、1960年代になると作風は一変し、明快な色彩と形態からなるダイナミックな抽象表現に転じます。さらに1970年代に入ると、ほとんど円と直線で構成される幾何学的モチーフを制作するようになり、1980年代から晩年までは自らのイニシャルである「S」の字を象った作品を描き続けました。菅井はいったん気に入ったかたちを見つけると、その図形にこだわり、組み合わせを変えつつ描き続けました。彼は同じパターンを繰り返すという行為に画家としての個性を見いだしたのです。その一方で、「新しい美術を生み出したい」という思いから、何度も作風を変えていったところに、菅井の挑戦者として顔を見ることができます。
「1億人の日本人からはみ出した存在でありたい」という強い意志のもと、その生涯を通じて、常に独創性を求め、新たな絵画に挑み続けた菅井汲の世界をご覧ください。