ピカソから建築、映画、バイオアート、グラフィティアートまで、アーティストが交差し、アートとは何かを問う。山梨県北杜市の自然を舞台にしたアートの祭典「HOKUTO ART PROGRAM ed.1」

遠藤 友香2021/11/22(月) - 15:55 に投稿
ピカソから建築、映画、バイオアート、グラフィティアートまで、アーティストが交差し、アートとは何かを問う。山梨県北杜市の自然を舞台にしたアートの祭典「HOKUTO ART PROGRAM ed.1」

山梨県北杜市とHOKUTO ART PROGRAM実行委員会が主催となり、公益財団法人 清春芸術村、中村キース・へリング美術館、公益財団法人 平山郁夫シルクロード美術館、女神の森 セントラルガーデン、そして身曾岐神社において、「HOKUTO ART PROGRAM ed.1」が、2021年12月12日(日)まで開催中です。芸術と観光という二つの要素を多面化し、「時間をかけてここに来ていただくことの価値」を磨き続けることを目的としています。

前回の「HOKUTO ART PROGRAM ed.0」の「アート」、「建築」、「ライブ」、「食とお酒」、 「星空」という、これらの要素を一つに溶け合わせるコンセプトは変わらず、更なる観光資源の真価としての成長を目指すとのこと。

本展では、自然を活かした持続可能性、テクノロジー、サイエンス、バイオ、伝統的な日本の美を中心として、アートとは何かという問いをテーマに、アート、建築、映画、音楽、伝統文化、パフォーミングアーツなど、多様なジャンルのアーティスト・クリエイターが参加します。

中でも注目したいのが、清春芸術村の自然豊かな広大な敷地内で開催される作品群の展示。西には南アルプス、北には八ヶ岳が迫り、富士山も遠望できる清春芸術村は、1977年に創設者である吉井長三が、小林秀雄や谷口吉郎、白洲正子、東山魁夷夫妻らと桜の季節にこの地を訪れ、その美しさに魅せられたことから始まりました。

多数の名建築が集まっていることでも知られ、建築家の谷口吉生の設計で、武者小路実篤、志賀直哉など白樺派の作家たちが建設しようとしてその夢を果たせなかった〈幻の美術館〉を、武者小路、志賀の両氏を敬愛し、個人的にも親交のあった吉井が実現した「清春白樺美術館」や、安藤忠雄による設計で建てられた、人工照明ではなく、季節や時間とともに変化する自然光のみの「光の美術館」、また、建築史家の藤森照信による一本足の「茶室 徹」など、建築に携わっている方や建築好きにはたまらないスポットとなっています。
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そんな清春芸術村の庭園には、重松象平、島田陽、谷尻誠(SUPPOSE DESIGN OFFICE)、永山祐子、長谷川豪、藤村龍至のモビリティをテーマとした、デザインの中にも実用性を兼ね備えた作品が点在しています。

例えば、谷尻の作品は「サウナ」で、「モバイル」という言葉を「可逆性」と「簡易性」という2つのキーワードから再解釈し、自然の中で循環する建築です。建築の構成には大地を構成させる「石」を使用しています。通常構造物を作る際に使われることが少ない蛇篭を用いて、サウナを制作。ワイヤーで石が吊ってあるなど、浮遊感を演出しています。こちらは実際にサウナとして機能し、中には薪ストーブやサウナストーンを設置。また、外には水風呂も用意されています。何でも、谷尻氏自身がサウナ好きのため、生まれた作品だといいます。
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永山は、森の中に佇んで周りを見あげる体験、そんな体験を切り取ったようなテントを考えたといいます。白樺の林の中に置かれた3つの雫型の透明テント。木の位置など周囲環境を3Dスキャンして、枝の向きや葉の広がりなども考慮しながら、テントの大きさ、高さ、位置を決めていくなど、ロジカルに作られています。起き上がり小法師のように様々な方角を向くテントの表面に周囲の緑が映り、いつまでも眺めていたくなる作品です。
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長谷川は、アウトドア用のテントは自然豊かな場所に設営するものであるにも関わらず、内部は閉鎖的で自然との関わりが薄いため、大地と近いテントならではの人間と自然の関係について考えたそうです。テントの中央部分には、草花が透明の筒に入れられており、人間と植物の共生を感じることができます。そこにあった自然と一晩だけ一緒に過ごすことができる、大地を切り取るテントです。
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藤村は、伊東豊雄が1985年に発表した「東京遊牧少女の包」に立ち戻り、大都市のインテリアから超都市の里山に飛び出し、内向きに個に閉じる「包」から多様性を包むそれへと進化させる、現代の遊牧民のためのテントを考えたそうです。内側から膨らむように自立するフレームの外側を、立体裁断によって洋服のようにそのかたちを定められたテント生地が少しルーズに包むことで、半分閉ざし半分開いたクロープンな空間をつくり、寝るためではなく、過ごすためのテントを作りました。
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また、光の美術館には、田所淳、長谷川愛、藤元翔平、HUMAN AWESOME ERRORの作品が展示されています。例えば、田所の作品は、4つの映像から構成されています。

田所
その色彩と形態によるハーモニーは、協和的なものから不協和なものへと揺らぎながら、絶えず変化し続けます。それぞれの映像が、互いにその調和的な構造へ介入して、混沌の中からまた秩序が生まれてきます。田所は、前橋工科大学で教鞭をとっており、作品からアカデミックとアートの融合を感じることができます。

その他、谷口が設計したルオー礼拝堂では、世界的映画監督である河瀨直美による新作の撮り下ろし映像を初公開。沖縄・奄美大島のイメージで制作され、時間の流れの中でも、記憶は残っていくことを表現しています。

河瀬直美氏の作品展示風景
茶室 徹では、茶道宗徧流不審庵11世家元山田宗徧が、実際に茶室 徹でお茶を点てている映像作品《手なりの美しさ 先にお茶始めていてください》を観ることができたり、清春白樺美術館では、特別企画展として、写真家デヴィッド・ダグラス・ダンカンが、晩年のピカソと妻ジャクリーヌの生活をとらえた写真展 『人生で最もすばらしい癒し、それが愛なのだ』が開催されるなど、盛りだくさんの内容で、見応え十分。
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清春芸術村の理事長で、本展の総合ディレクターである吉井仁実は「日本全国には様々な芸術祭があるが、本芸術祭は新たな取り組みとして、バイオ、サイエンス、テクノロジー、建築、映画など、様々な要素を盛り込んだ。これからの日本のスタディモデルとなるように作ったので、ぜひ楽しんでいただきたい」と語っています。

吉井仁実氏
吉井仁実氏

感性を磨くため、自然豊かな山梨県北杜市を舞台にしたアートの祭典に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

​​​開催概要
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■HOKUTO ART PROGRAM ed.1
会 場:清春芸術村 山梨県北杜市長坂町中丸2072
会 期:2021年10月30日(土)〜12月12日(日)
※清春芸術村 月曜日休館
10:00~ 17:00(入館は16:30までとなります)
料 金:一般(特別料金)2,000円 大・高校生1,000円 小・中学生無料障がい者手帳をお持ちの一般の方1000円
障がい者手帳をお持ちの学生の方入場無料
付き添いの方500円 

<出展アーティスト>
●清春芸術村・庭園 — 重松象平/島田陽/谷尻誠 (SUPPOSE DESIGN OFFICE)/永山祐子/長谷川豪/藤村龍至
●安藤忠雄  光の美術館   —  田所淳/長谷川愛/藤元翔平/HUMAN AWESOME ERROR
●谷口吉生 ルオー礼拝堂  —  河瀨直美
●谷口吉生 清春白樺美術館   — パブロ・ピカソ/ デヴィッド・ダグラス・ダンカン
●白樺図書館  — 長場雄
●藤森照信 茶室徹 — 茶道宗徧流不審庵11世家元山田宗徧
 

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