初公開作品、新発見、再発見などを含む約125点の「肉筆画」のみを集結させた、「筆魂 線の引力・色の魔力 ー又兵衛から北斎・国芳までー」が開催

岩田文香2021/02/01(月) - 10:13 に投稿
葛飾北斎、勝川春英、歌川豊国、勝川春扇、勝川春周、勝川春好 「青楼美人繁昌図」(前期)個人蔵

2021年2月9日(火)〜4月4日(日)の期間、すみだ北斎美術館にて「筆魂 線の引力・色の魔力 ー又兵衛から北斎・国芳までー」が開催されます。


◆絵師の魂を感じる「肉筆画」のみが集結

タイトルから惹きつけられるこの展覧会は、浮世絵といっても「版画」ではなく絵師が絵筆で直接描いた「肉筆画」のみを集めた約125点が展示されます。その中には、重要文化財、重要美術品、新発見、再発見、初公開作品が約40点も含まれており、浮世絵ファンにとっては非常に心躍る内容でしょう。

肉筆の「肉」は「生身」を意味し、前述したように絵師が絵筆で直接紙や絹に描くことを指します。版画のように大量生産できるものではなく、一点ものの作品ということです。浮世絵=版画というイメージから、肉筆画はあまり馴染みのない言葉ですが、版画よりも歴史が深く、よりディープな時代背景を見ることができそうです。版画も彫師の手によって細い繊細な線が表現されていますが、絵師自身による絵筆の筆感や色づかいも見どころです。


◆浮世絵師およそ60人の作品を、3章に分けて展示

本展覧会は3つの章で構成されており、約60人の浮世絵師の作品が展示されます。


ー章立てー
1章 浮世絵の黎明から18世紀前期まで
2章 浮世絵の繁栄
3章 幕末を彩る両袖 葛飾派と歌川派


「1章 浮世絵の黎明から18世紀前期まで」では、岩佐又兵衛の作品で重要文化財である「弄玉仙図」と、重要美術品である「龐居士図」が展示されます。

重要文化財と重要美術品の展示は、すみだ北斎美術館の初の試みとのこと。元々この2作品は福井の豪商である金屋家に伝来した「金谷屏風」と呼ばれる六曲一双(6面ある屏風が2つ並んでいる作品)の屏風の一部でしたが、屏風の12図はそれぞれ掛け軸となり、現在では分けて所蔵されています。

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その他、浮世絵の始祖、菱川師宣の作品も並びます。丹念に表現された着物の質感や柄に思わず目を奪われます。

菱川師宣「二美人と若衆図」(前期)個人蔵、福井県立美術館寄託
菱川師宣「二美人と若衆図」(前期)個人蔵、福井県立美術館寄託


「2章 浮世絵の繁栄」では、葛飾北斎の師である勝川春章の「竹林七妍図」が目を惹きます。勝川春章は優れた肉筆美人画で有名な絵師。7人の女性が描かれたこの作品は、髪型や服装によって身分や立場が描き分けられています。西洋の絵に比べ立体感や写実的な要素、光沢感はあまりない浮世絵ですが、艶墨を重ねて表現されている髪の艶や、髪の毛の生え際1本1本はとても繊細です。着物の柄や色合いも見事に描かれています。

勝川春章「竹林七妍図」(後期)東京藝術大学蔵
勝川春章「竹林七妍図」(後期)東京藝術大学蔵


「3章 幕末を彩る両袖 葛飾派と歌川派」では、葛飾北斎の肉筆画を多数展示。中でも2つの鏡を両手で持ち、合わせ鏡にして髷(まげ)の具合を確かめる美人の後ろ姿を描いた「合鏡美人図」は、実物の公開は本展覧会が初めてとのことで見逃せない作品です。

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他にも、生涯何度も号を変えたことでも知られる北斎が「戴斗(たいと)」と名乗っていたた戴斗期(北斎数え年 51~60 歳頃)の美人画の傑作「立美人図」、今にも画面から飛び出しそうな龍を描いた「登龍図」などが展示され、北斎の肉筆画を一度に堪能できる最終章となっています。
 

◆新発見!「青楼美人繁昌図」

筆者がもっとも気になった作品は、北斎とほかの絵師の意外な交流関係が伺える作品「青楼美人繁昌図」。

葛飾北斎が、勝川春英、勝川春扇、勝川春周、勝川春好といった勝川派の絵師たちや、歌川豊国とともに描いた作品です。「意外な交流関係」といわれるのは、北斎と不仲だったと伝えられている勝川春章門下の兄弟子・勝川春好や、ライバルとして取り上げられる歌川派の総帥・歌川豊国とこの作品を合作しているからです。不仲だったとされる勝川春好との仲も、すでに修復されていたのかもしれません。

遊郭の女性たちと太鼓持ちが重なり合って配置されていて、「描いた順番はやはり手前の北斎からなのだろうか。題材、構図は誰がどのように考えたのか?」などど想像してしまう興味深い作品です。

葛飾北斎、勝川春英、歌川豊国、勝川春扇、勝川春周、勝川春好 「青楼美人繁昌図」(前期)個人蔵
葛飾北斎、勝川春英、歌川豊国、勝川春扇、勝川春周、勝川春好 「青楼美人繁昌図」(前期)個人蔵


ところで、浮世絵についてみなさんはどのぐらいご存知ですか?ここで少しお話ししたいと思います。

浮世絵は江戸時代に多く描かれた風俗画。「浮世」の言葉の意味は今の世の中、現実生活、恋愛や情事を表します。題材は多種に及び、美人画や歌舞伎役者や舞台を描いた役者絵、名所絵などが有名です。

19世紀以降、大量の作品が国外へと渡ると、西洋絵画の伝統とは全く異なる浮世絵の構図や身体の描き方などの特徴はヨーロッパの画家たちに衝撃を与え、日本美術に強く影響された「ジャポニスム」という潮流が生まれました。それほど真新しく、目を惹くものだったのでしょう。西洋絵画を見慣れている筆者も、浮世絵を初めて観たときはなんともいえないワクワクした気持ちになったのを思い出します。

また、今回の展覧会では重要文化財・重要美術品が展示されます。重要文化財というのは日本に所在する有形文化財の中で歴史、学術、芸術の観点から価値の高いものを指し、重要美術品は、主に日本国外への古美術品が流出するのを防ぐため、1933年公布の「重要美術品等の保存に関する法律」で認定された有形文化財のことを指します。重要美術品に認定されているジャンルの中で浮世絵の点数は非常に多く、その時代の歴史を紐解くための貴重な資料にもなっています。

300年以上に渡って描かれた浮世絵の歴史を辿ることが出来るのもさることながら、貴重な作品の数々の生の筆遣いが観られる本展覧会。絵師たちが筆に込めた魂をぜひ体感してみてください。


※今後の状況を踏まえ、予告なしに開館期間・展覧会開催等の変更される場合があります。


開催概要
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日  時 :2021年2月9日(火)〜4月4日(日)
      ※一部展示替え実施予定
      前期 2021年2月9日(火)〜3月7日(日)
      後期 2021年3月9日(火)〜4月4日(日)
会  場 :すみだ北斎美術館
開場時間 :9:30〜17:30(入場は17:00まで)
休  館  日:月曜日
入  場  料:一般1,200円、高校生/大学生900円、65歳以上900円、障がい者400円、小学生以下無料
 

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