国際芸術祭「あいち 2022」のテーマが「STILL ALIVE」に決定! 芸術監督の片岡真実が提案する3つのビジョン

遠藤 友香2020/12/23(水) - 20:11 に投稿
「あいち 2022」の芸術監督である片岡真実

「あいちトリエンナーレ」から名称と体制を大きく変えて、2022年に新たに始動する「国際芸術祭『あいち 2022』」。2020年12月22日(火)に開催された記者会見に、芸術監督の片岡真実が登壇し、テーマが「STILL ALIVE」に決定したことと、そのコンセプトが発表されました。

片岡は、「新型コロナウイルス感染症の流行以降、日常生活や社会経済活動を回復して、持続可能でより平等な世界を築いていくことが喫緊の課題。2022年は、このパンデミックからの回復期にあたり、環境、政治、経済、文化といったあらゆる領域から新しい提言が求められる時期となる。不確かな中から未来を生み出すことが、我々に課せられた責務」とし、テーマ決定に際して留意した点を述べました。

片岡真実芸術監督

テーマ「STILL ALIVE(いまだ生きている)」は、愛知県刈谷市出身で、2014年にNYで亡くなった、世界的に評価されるコンセプチュアル・アーティスト河原温が、1970年代以降電報で自身の生存を発信し続けた「I AM STILL ALIVE」シリーズに着想を得ています。この「STILL ALIVE」を多角的に解釈し、過去、現在、未来という時間軸を往来しながら、現代美術の源流を再訪すると同時に、類型化されてきた領域の狭間にも注目するといいます。

そんな「STILL ALIVE」を考えるために、3つのビジョンを9つの角度から捉えるとのこと。それらは独立して存在するものではなく、優劣の関係にも無く、相互に関連し、ときに相対しながら「あいち 2022」の全体を構成するものとなっています。以下に詳しくみていきましょう。

1.過去から未来への時間軸を往来しながら「STILL ALIVE」を考える

■100万年後の未来における地球や人間の存続を考える

現代世界を自然の営みや宇宙の法則といった大局的な視点から捉え、100年後、100万年後の未来にも地球が美しく存続し、人類が平和に生きるための意識喚起や提案を重視します。環境問題やサステナビリティへの意識は、「あいち 2022」の前身「あいちトリエンナーレ」が、2005年の愛知万博「愛・地球博」のレガシーとして創設された歴史を継承するものでもあります。


■過去の多様な物語をいかに現代に蘇らせるのかを考える

地球の歴史、人類の歴史に光を当て、世界各地のローカルな文脈を現代に照らして再考します。愛知県は江⼾時代までは尾張と三河という⼆つの国であり、そこでは戦国時代から安土桃山時代にかけて日本の統一に貢献した三英傑など数々の武将が輩出されています。歴史はしばしば正史とされる物語とそれ以外の多様な物語が、異なる視点から語り継がれるものです。「あいち 2022」では世界の多様な物語を現代に蘇らせます。

■現代を、この瞬間を、どう生き抜くのかを考える

2020年のパンデミックが引き起こした未曾有の健康危機、コロナ禍によって表面化した人種、ジェンダー、⺠族的な差異に対する差別や不平等などは、すべての人々の「命の重さ」を改めて考えさせることとなりました。自ら命を絶つ人々、なかでも女性と子供の自殺者数が増えていることも、日本社会が直面する大きな課題のひとつです。「あいち 2022」では、「生きること」と芸術制作が強く結びついた力強い表現を通して、困難な時代の「生」について考えます。

2.現代美術の源流を再訪しつつ、類型化されてきた芸術分野の狭間に光を当てる

■コンセプチュアル・アートの源流を再訪する

河原温が「I AM STILL ALIVE」シリーズを始めた1970年代は、作品の視覚的な表現よりもその概念や意味を重視する概念芸術(コンセプチュアル・アート)が花開いた時期です。この考え方は今日なお、世界の現代美術の底流をなしています。愛知県からは河原温、荒川修作など国際的に評価されたコンセプチュアル・アーティストが輩出されていますが、「あいち 2022」では世界各地のコンセプチュアル・アートにも光を当てます。

■伝統⼯芸、先住⺠の芸術表現などを現代芸術の⽂脈から再考する

愛知県には地場産業、伝統工芸、食文化など固有の文化的伝統があります。海、山、川のある豊かな自然環境によって窯業や繊維業も発展してきました。近代以降、陶芸や染織などは「工芸」として「美術(ファインアート)」とは一線を画すものとされてきましたが、近年では多様な文化圏における近代美術の発展が再考され、工芸と美術を横断する表現、先住⺠族の芸術表現なども再評価されています。「あいち 2022」ではこうした芸術領域を固定概念から解放し、同時代に生きる表現として再考します。

■言葉と記号による芸術表現を再考する

河原温は「I AM STILL ALIVE」シリーズの他にも、日付や起床時間など数字や言葉を使った作品を残しています。ソーシャルメディアが発達した現代社会では短い言葉や記号によるコミュニケーションが拡がっていますが、「あいち 2022」では文字を使った美術表現やポエトリー(詩)の領域にも注目します。

■身体表現や五感でアートを体感する

身体表現や五感で体感する表現などは、生きていることを直接的に実感させるものです。「あいち 2022」では、現代美術とパフォーミング・アーツという領域が共存してきたあいちトリエンナーレの歴史を踏襲しつつ、現代美術の文脈で語られてきたパフォーマンス・アートに特に注目します。ここでも個々の領域の枠組みや空間にとらわれず、それぞれが有機的に融合するかたちを模索します。

3.生きることは学び続けること。未知の世界、多様な価値観、圧倒的な美しさと出会う

■ラーニング・プログラムを通じて、体験や感動を未来に継承

初めて出会う現代美術作品は、しばしば難解であると言われますが、それぞれの制作背景やアーティストの生きた時代や文化などのストーリーを学ぶことで、世界の遠い場所に住む人々や世代の異なる人々の感情や意識への共感にも繋がります。「あいち 2022」では、さまざまなラーニング・プログラムを通して、作品をより深く理解し、国際芸術祭での体験や感動がみなさんの記憶に刻まれ、その先の人生に活かされる知恵や知識、精神の糧となるよう取り組みます。

■美しさに心を動かす

詩人のウィリアム・ワーズワースは、空に虹を眺めるときに踊る心を唱いました。大人になっても、年齢を重ねてもそうでありたい、と。国際芸術祭「あいち 2022」もまた、芸術の圧倒的な美しさに感動し、人生のどの一瞬にあっても明日を生きるためのポジティブなエネルギーに繋がる、心躍る出会いや体験の場になることを目指します。

片岡は、「テーマとコンセプトが決定した段階で、まだ1割。スタート地点として、どういう作家、どういう作品を味わい深い物語として編み込んでいくかを、1年間かけてやっていく。アーティストの数は、平年並み。会場は、来年下見をして決めていきたい。9つの角度は、独立したテーマではなく、入り乱れて絡み合うものなので、別会場とはならない。どういうふうに重なり合っていくかは、作品を観ながら考えていく。テーマカラーもロゴもこれから検討していきたい」としました。

また、国際芸術祭の楽しみ方として「アートと土地の発見はもちろん、地元の方にとっても新しい発見があるといい。ホワイトキューブの中だけでなく、思い切り楽しみたい。アーティストのリサーチと共に発見していきたい」とし、「普通に生きていくことがどのくらい大変なのか、こういった時期にアートは必要なのかと考えた。衣食住とは異なる、生きる力になりえると信じている」と力強く述べました。

最後に「「STILL ALAIVE」というテーマなので、亡くなっている作家も対象にしたい。生存しているかしていないかは、線引きしていない」とし、デジタル活用に関しては、「コロナに関わらず、デジタル領域は拡張されていくと思うので、活用していきたい。デジタルだからこそできるような、そういった作品が生まれるかもしれない」と語りました。

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