津田大介監督を招き、テロをも警戒しながらの「ManiA ミーティング @ 愛知」を経て。

鈴木 大輔2019/08/25(日) - 23:37 に投稿
津田大介監督を招き、テロをも警戒しながらの「ManiA ミーティング @ 愛知」を経て。

8月17日(土)「ManiA ミーティング & ミートアップ @ 愛知:文化と政治をむすんでひらく」を開催しました。まずは主催者として無事に終えられたことにホッとしています。

あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」の中止後、津田大介監督が初めて公のイベントで津田大介監督が初めて本件に関して語るということもあり、キャパ30~40人ほどの小さな会場に多くのメディア(テレビ 4、新聞 9、WEB 4)が取材する中、一般の参加者の方のスペースが十分に確保出来なかったのは申し訳なかったです。

さて、イベントについてお話しする前に改めて「ManiA」とは何かから始めたいと思います。「 ManiA(マニア・Manifest for Arts)」とは日本の政治の場で文化芸術がないがしろにされている現状を憂いて始めたプロジェクトで、今夏の第25回参議院議員通常選挙時に全ての候補者へ文化芸術に対する活動実績やビジョンを「文化芸術マニフェスト」として問うことからスタートしました。「ManiA ミーティング」は、このプロジェクトの普及啓蒙とファンドレイジングを目的としたイベントで、これまでに、6月27日 京都芸術センター、6月29日 ネオローグ(東京の津田さんの事務所)で実施しました。

ManiA プロジェクトの説明中
ManiA プロジェクトの説明中​

 

名古屋での開催は今年5月17日に、僕から元愛知県庁職員で、あいちトリエンナーレの立ち上げから関わっていた吉田隆之さん(大阪市立大学大学院都市経営研究科准教授)に相談したところから始まりました。

鈴木から吉田隆之さんへのお願いメッセージ

吉田さんとやりとりする中で、2018年2月に亡くなられた延藤安弘先生(建築家、都市研究者)が「津田監督が、『社会が分断される時代に、文化で結んで開くをやっていきたい』と言っていたが、それは長者町でやってきたことや。津田監督と長者町でジョイントしたい」とお話しされていたことを知り、加えて吉田さんからも「名古屋で行うなら津田大介さんに参加いただきたい」という希望をお聞きしました。今回津田さんにご出演をお願いしたのはそうした経緯からです。

その後、吉田さんから長者町で活動する名畑恵さん(NPOまちの縁側育くみ隊代表理事/錦二丁目エリアマネジメント株式会社代表取締役)や寺島千絵さん(アーツマネージャー)をご紹介いただき、開催に向けて一気に進みました。

無論、そのときにはこのような事態の中でイベントを開催することになるかなど、微塵も考えていませんでした。
 

「表現の不自由展・その後」中止決定

8月3日、大村知事が会見し「表現の不自由展・その後」の中止が発表されました。この時点で僕は「ManiA ミーティング」への津田さん出演は難しいかもしれないと考えていました。また、津田さんも連絡出来る状況ではないだろうと思い、敢えてコンタクトはとらないようにしていました。ただ、「ManiA ミーティング」を中止にしてテロ予告や電凸している側に屈したくはなく、チームの総意でイベント自体の中止は考えませんでした。

しかしその後、政治家が補助金の交付や、大村知事の進退にまで言及し始めるに及び、芸術祭レベルではなく、政治問題へとエスカレーションし状況はますます悪化していました。

8月5日には拝戸雅彦さん(愛知県美術館学芸員で、第1回から3回のトリエンナーレの中心的な人物)経由で「表現の不自由展・その後」を中止したのにも関わらず、未だに続く電凸が深刻であり「津田監督は厳重保護対象となっている」と聞いていました。

8月9日には神戸市でのシンポジウムも中止になり、ますます津田さんの出演は無理かなと思っていたのですが、同日、拝戸さん経由で「開催は主催者の判断に委ねる」という津田さんの意思を知りました。また、「ManiA ミーティング」についてはトリエンナーレ推進室でも情報共有されており、大村秀章愛知県知事にも伝わっているとのこと。非公式ながらトリエンナーレからも勇気ある開催に謝意を伝えられ、我々は改めて「ManiA ミーティング」の開催を決意しました。

 

「ManiA ミーティング」開催に向けて

…とはいえ、そこからが大変でした。何より大事なのは安全確保をどうするか。この問題について、トリエンナーレ推進室、愛知県庁、警察とも連絡を取りながら検討しました。

会場である「綿覚ビル」は小さな雑居ビルで避難経路もなく、1階の会場は路上からも中の様子が筒抜けです。また、綿覚ビルの1階から6階を会場とした「ART FARMing」という展覧会も行われており、イベント開催中そちらのお客さんも来場します。

 

外から、会場が筒抜け。
外から、会場が筒抜け。

 

8月17日名古屋周辺では、お祭りや大規模なイベントが重なっていたらしく、警備会社には人員不足を理由にことごとく警備を断られました。警備会社に片っ端から連絡したものの全滅。とはいえ何か手立てをと思い、吉田さんの知り合いの男性に警備の腕章を付けて立ってもらいました。幸い、県庁からも警護も兼ねて190cmはあろうかという巨体の方に来ていただくことが出来ました。

その他とった対策は次の通りです。

◯ 津田さんが出演するイベントが開催することがなるべく拡散されないためにも、Facebook 上のイベントは削除し極力静かにしていました。

◯ メディア以外、一般客は、荷物を全て受付で預かることにしました。

◯ 会場には控室もないので、津田さんには開始時間ギリギリに来てもらいました。

◯ 外から筒抜けの会場ですが、津田さんの席は路上からは見えない位置にしました。

◯ イベント開始前には私服警官が4~5名来て、現場の確認と対応を協議、イベント中もパトロールをしてくれていました。これほど警察の存在が頼もしかったことはありません。

◯ メディアおよび一般客も、当日のSNS投稿なども含む情報解禁は「ManiA ミーティング」が終わり、完全撤収後の19時にしました。18時台のテレビのニュースで流したいとの声もありましたが、それもお断りしました。

出来ることはしましたが、最後まで「安全」を確信出来ることはありませんでした。

流石に、これまで様々イベントも開催してきましたが、命の危険を感じる会は初めてです。


 

この津田さんの位置は外からの死角になっている。
この津田さんの位置は外からの死角になっている。

 

みんなで決めたこととはいえ、主催者であり責任を負う立場として、スタッフや参加者の「命の危険」までを払ってイベントを開催すべきかは直前まで悩みました。

街宣車程度ならまだしも「刃物を持った暴漢が乱入してきたらどうするか」、「万が一ガソリンを撒かれたらどうするか」など、終了時まで気が抜けませんでした。

結果としては、「ManiA ミーティング」当日も何事もなく、ARTLOGUE には一通のメールも電話もなかったです。クレーマーも散々「税金を使って・・・云々」と言っている手前、民間企業が主催で、民間の施設で行うイベントには何も言えないのでしょう。

 

余談ですが、7月29日、あいちトリエンナーレの内覧会が終わり、愛知芸術文化センターからオープニングレセプションの会場である名古屋東急ホテルへ向かう途中、警察と共に何やらパフォーマンスの残骸のような状況があり、パフォーマーっぽい格好をした人たちがいたので、声をかけて話しを聞きました。彼らは「アートとか知らん」、「あいつら(あいちトリエンナーレ)は大音量だしているのに、なんでこっちはダメなんだ」、「あいつらは税金を使っているがこっちは使っていない」などと言っていました。その時はあいちトリエンナーレへの抗議のパフォーマンスだと思っていたのですが、後に外山恒一氏の記事を読んで声をかけた人物がエレベーターの中で警察官に対し「ガソリンだ」と言いながら液体をかけたことで逮捕された室伏良平氏だと分かりました。
余談ですが、7月29日、あいちトリエンナーレの内覧会が終わり、愛知芸術文化センターからオープニングレセプションの会場である名古屋東急ホテルへ向かう途中、警察と共に何やらパフォーマンスの残骸のような状況があり、パフォーマーっぽい格好をした人たちがいたので、声をかけて話を聞きました。彼らは「アートとか知らん」、「あいつら(あいちトリエンナーレ)は大音量だしているのに、なんでこっちはダメなんだ」、「あいつらは税金を使っているがこっちは使っていない」などと言っていました。その時はあいちトリエンナーレへの抗議のパフォーマンスだと思っていたのですが、後に外山恒一氏の記事を読んで声をかけた人物がエレベーターの中で警察官に対し「ガソリンだ」と言いながら液体をかけたことで逮捕された室伏良平氏だと分かりました。

 

「あいちトリエンナーレ」が育んだ寛容な人と街

このような状況下でも開催出来たのは、これまでの「あいちトリエンナーレ」が育んできた長者町という寛容な街と、そこに集う人があったからこそです。

名畑さん、寺島さんも「私たち(長者町)がやらなければ、どこがやるの?」という気概で開催に尽力してくれました。お二人がいなければ、長者町でなければ他と同じように会場に断られるなどして実現はなかったでしょう。

芸術祭を村の祭りのように揶揄する方もいますが、あいちトリエンナーレを通じた長者町の発展のように、今日の新しい祭りとして育てていけばいいのではないでしょうか。
 

終了後、伏見地下街(長者町地下街)で少し打上をしました。
終了後、伏見地下街(長者町地下街)で少し打上をしました。


ManiA ミーティングの最後でも述べたのですが、日本では失敗した挑戦者に対して不寛容すぎます。
挑戦者の失敗を「それ見たことか」と蹴落とすような社会になれば、誰もが萎縮し挑戦することを躊躇するようになります。現にそうなっているからこそ今の日本ではイノベーションの創起が緩慢になっているのではないでしょうか。

東浩紀氏はアドバイザーを辞任し顧問費も辞退すると表明しました。一方、津田さんはあいちトリエンナーレと社会に大きな傷を付けたことを少しでもリカバリーしようとしています。責任のとり方は様々ありますが僕は津田さんの判断を支持します。仮に津田さんが辞めても誰かがその極めて難しいミッションを担わなくてはならないですし、津田さん自身がやることが適任だと思います。

騒動について語る津田大介さん
騒動について語る津田大介さん

 

論ずることは評論家に任せればいいし、評価は数年先にならないと出せないでしょうから、「ManiA ミーティング」では、本件の犯人探しや過去を悔やむのではなく、未来志向でどのようにリカバリー出来るかを議論したいと伝えていました。
時空間で考えると、空間としての「あいちトリエンナーレ」と「社会」、時間は短期(開催中)と中長期に対して考える必要があります。
しかし、イベントでは時間の制約もあり、リカバリーのために何をするべきかの議論がほとんど出来なかったのは残念でした。

一方、何よりも津田さん自身が出演を望んでも、会場や主催者の意向で中止が相次ぐ中、「対話の場を設けた」ということには意味があり、これをきっかけに今後、対話の場、対話の機会がどんどん生まれていくのだとしたら、少しでも意義のあるイベントになったのではないかと考えています。

今回のあいちトリエンナーレの騒動は、直接的ではないもの政治家の発言によってエスカレートしたことは間違いないです。
「表現の自由」は政治家や権力者がそれに反発する言動を抑止するために規制することで侵害されます。昨今の香港の騒動を見れば普通選挙が行われ、表現の自由が保証されていることがどれほど尊いことか分かります。
政治家がどのような考えを持っているのかを知るためにも、そして「表現の自由」を守るためにも、より一層、ManiA プロジェクトの重要性を感じています。

ARTLOGUEは社会的企業であり、CEOの僕はアントレプレナーかつアクティビストなので、今後も具体的アクションによって態度の表明と社会的課題の解決に挑んでいきたいと思います。

 

ManiA では、まもなく、全ての国会議員、全国の知事、政令指定都市・中核市の市長に「文化芸術マニフェスト」を問うアンケートを実施します。

この活動には多大なお金がかかるので、是非とも ManiA へのご支援をよろしくお願いいたします。

ManiA クラウドファンディング
締切:8月30日23:59
https://motion-gallery.net/projects/mania_artlogue/
 

写真:名畑恵、鈴木大輔

 

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