【開催によせて】
本展覧会は、空気や水、そしてテクノロジーも自然の一部と捉えられる現代において、自然環境を捉え直す芸術的な試みである。企画の軸として、ブーメランに始まる物理学研究の傍ら、80年代初頭からテクノロジーを通じて自然現象を鋭敏に捉える先駆的な活動を行ってきたフェリックス・ヘスの20年ぶりの日本招聘を行い、その思想に共鳴する世代を超えた作家達による場を結実させる。
20年の空白
フェリックスの生む芸術の根幹にはただ機能のみが強く存在する。純粋な機能とは、もののふるまいであり、それ以上でも以下でもない。にもかかわらず詩的な印象を受ける要因は、彼の言葉に集約されているだろう。In fact, my work is aimed at an awareness of sensitivity* と述べるようにその機能は、世界認識の自覚を促すことを目的とし、特定の美しさや有用性を目的としていない。故に作品は正直であり、人間のための演出は存在しない。しかし人は機能を理解することで起こりうる瞬間を想像し待つことができる。日本の公立美術館において音をテーマに扱った最初期の展示の一つとされる「音のある美術」展(栃木県立美術展, 1989)への参加以降、98年まで定期的な来日を重ねていたが、以降、現在までの20年間、日本でフェリックスの作品を体験出来る機会は無かった。
繋がりと その先へ
私はテクノロジーを意識的に応用した活動を行うなかでフェリックスの影響を公言しつつも、それが資料参照に過ぎないことは常に意識していた。テクノロジーが芸術のみならず生活や意識の内に浸透し続けるなかで、人間やテクノロジーの感度自体に焦点を当てるフェリックスの先駆的な試みを実際に体験することは学生の頃から夢だった。数年前にふとしたきっかけで始めたフェリックスの連絡先探しから、元ジーベック下田展久、アーティスト鈴木昭男、mikiyui、和田淳子他、彼を知る人達がするりするりとフェリックスへと繋げてくれたことは、驚きと感謝の連続であった。彼らの温かいサポートの下、最終的には厚かましくもハーレンにある自宅まで押し掛けて、本展示企画の許諾と、日本に伝わりにくい近年の精力的な活動の情報とを得る事が出来た。アーカイビングされにくい先駆者の活動を実体験する為に20年の空白を埋め、自分を含め未体験の世代をつなぐことの必要性を再認識した。そして、この意識を実行可能な静かな器を探していた時、瑞雲庵に偶然に足を運び、この穏やかな佇まいこそ企画にふさわしい場所だと実感した。本企画を採択して頂いた西枝財団の助成がなければ実現には至らなかったと感じている。
空気、水、電気風をヘスに、テクノロジーとしての電気を斉田+三原に、水を鈴木+宮北+大城に、3つの自然が時に厳密に時に緩やかに繋がるように、来場者の思索が生まれる場を提示する。
フェリックス・へス(1941-/オランダ在住)はシンプルな機能を有する電子メディアを複数空間に展開させ、音や光そして風などの自然環境に対し、群として繊細に呼応し、有機的なふるまいを生成する環境を作品化してきた。特に蛙の合唱を思わせるふるまいの作品が良く知られている(サウンドクリーチャーズ)。群集であることがまた一つの機能として、環境と呼応する集合知のようなアートフォームは彼の活動以外にこれまで芸術の世界では聞いたことがない。現在は禅画のコレクタ/キュレータとして活動する彼は、日本の伝統素材や美意識にも造詣が深く、本展覧会では、微風にたゆたう和紙のついたヤジロベーを畳の間に拡げ、展示空間の気流を視覚化する「It’s in the air(vanes)」の関西初展示を行う。
私と斉田一樹、むぎばやしひろこのコラボレーションにより始まったmoidsプロジェクトは2006年より2つのバージョンとして具現化してきたが、常に先駆者であるフェリックスの活動から影響を受け続けたてきた。moidsは創発をテーマに、同一機能の電子音響回路の集群、環境との対話の作品化してきた。特に個と集合の飛躍に照準を当て、群のステータスにおいて、最もイマジネーションを最大化出来る芸術最小単位を、私は視覚芸術から、斉田は電子工学から、むぎこは現代思想から、探し求めてきた。本展覧会では、個との対概念として無限を設定し、電子それ自体を扱う本プロジェクトの最終形として新作展示を行う。
オープニングパフォーマンスとして、鈴木昭男+宮北裕美+大城真にテーマとして水を扱った一時をお願いしている。鈴木はサウンドアートの第一人者としてフェリックスと共に時代をつくってきた。私と同世代の大城は音を様々なかたちで扱うエキスパートである。この二人に改めて世代をつないでもらうと同時に、自然環境にあって忘れてはならない身体の意識を宮北に込めてもらう。
空白より感得すること
現在のとてつもなく速い社会変化のなかで、この言葉がどのような印象を持つかは個人の想像力に委ねられているだろう。懐古的な響きを感じるかも知れないが、本企画は、多くの人の生活基盤である科学技術を含めた自然世界を改めて思索する展覧会企画である。日本は自然豊かな技術立国として戦後復興し、現在は世界で最も進んだ少子高齢社会の一つである。東日本大震災を経て、現在進行形の自然さを問いかける感性を主題とする事で、この余白の多く含まれる本展覧会が人間を変えていく装置として機能していくことを願っている。
三原聡一郎(本展覧会企画)
【展示作品】
・フェリックス・ヘス「It’s in the air (vanes)*」「It’s in the air (cracklers)」 *関西初展示
・斉田一樹+三原聡一郎「moids ∞」(2018年 新作)
・大城真「waves」(2018年 新作)
・フェリックス・ヘス関連資料
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開催概要
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会 期: 2018年10 月13 日(土)~11 月11日(日)
*火水木=休
会 場 :瑞雲庵
時 間: 13:00~19:00
料 金:無料
■関連イベント
会期中の毎週末、展覧会場内にてトークやパフォーマンスを開催
・10月28日(日)16:00- トーク
金子智太郎 美学・聴覚文化論研究者
・11月5日(月) 15:00- トーク
松井茂 詩人、IAMAS准教授
・11月9日(金) 18:00- パフォーマンス
山川冬樹 現代美術家 、ホーメイ歌手
・11月11日(日) 17:00- パフォーマンス
大田高充 アーティスト
小林椋 美術家
米子匡司 音楽家
Haco ヴォーカリスト、作曲家、エレクトロニクス奏者