心が疲れたとき、仕事に煮つまったとき、そっと逃げ込みたい絵本の世界。紅茶を飲みながら、ゆっくりとページをめくりビジュアルを追っていく。目と心に栄養をあたえてくれる、大人も楽しめる美しい絵本たちをご紹介しましょう。
美術工芸品のようなタラブックスの絵本
かつて、マドラスの名で知られた南インドの古都チェンナイ。美しいハンドメイドの絵本で、世界的に有名となった出版社タラブックス(Tara Books)は、この歴史ある港湾都市にあります。ベストセラーの代表作『夜の木(The Night Life of Trees)』は、わたしも持っていますが、それはそれはため息が出るほどの美しさ。
古い綿布からつくられた漆黒の紙に、色鮮やかな木々が浮かび上がって、生命の息づかいが聞こえるかのよう。インド中央部の森に住む、ゴンド族のアーティストたちが伝承をもとに描いたドローイングを、シルクスクリーンで一枚ずつプリントし、手作業の糸かがりとじで製本されています。
https://www.youtube.com/watch?v=BrrmXnNafnc
『夜の木』は重版を重ねて各国の多言語に翻訳され、日本語版はタムラ堂より出版されています。オリジナル版を含めて部数限定でつくられているので、すぐに売り切れてしまうことがあります。入手できる機会があればお見逃しなく。
タラブックスの出版物、原画、写真、メイキング映像などを展示した展覧会、『世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦』が、板橋区立美術館に続いて、愛知県の刈谷市美術館でも2018年4月21日〜6月3日まで開催されます。
グラフィックデザイナーや現代美術アーティストの絵本
IBMやABC放送局のロゴで有名な、アメリカのグラフィックデザイン界の巨匠ポール・ランド(Paul Rand, 1914〜1996)。どこか温かみを感じるアートワークやロゴタイプ作品は、今なお世界中のグラフィックデザイナーから愛されています。
ポール・ランドは妻のアン・ランド(Ann Rand)とコンビを組んで、4冊の絵本もつくっています。どれも素晴らしい作品ですが、『I Know a Lot of Things』は、切り絵を使った大胆な構図と配色にハッとするデザイン。『ぼくはいろいろしってるよ』の邦題で日本語版も出ていますが、アンによる短いフレーズはとてもシンプルな英文なので、英語版のほうがデザインとマッチしておすすめです。
『いろ いきてる!』は、元永定正(1922〜2011)の色を使ったプリミティブな表現のエネルギーに満ちた作品。原画は東郷青児美術館大賞を受賞。
元永定正は、1955年〜1971年まで「具体美術協会」に参加していた気鋭の現代美術アーティスト。具体の代表的作家として、絵画、オブジェ、インスタレーション、パフォーマンスなどに幅広く活動。絵本作家としても、谷川俊太郎やジャズ・ピアニストの山下洋輔の文章とコラボレーションして、それまでになかった独創的な絵本を創り出しています。
もしかすると大人より子どもにウケがいいのが、大竹伸朗の『ジャリおじさん』 。
コンテンポラリー・アートのフロントランナー大竹伸朗のアヴァンギャルドでカオスな世界が展開します。衝動におもむくままに描きなぐられたような絵は、子どもの感性に近いものを感じます。
シュールな世界に連れて行ってくれる絵本
『やっぱりおおかみ』は、佐々木マキの1973年の最初の絵本作品。
1960年代後半から、シュールレアリスティックな漫画作品を『ガロ』に発表していた佐々木マキ。当時の作品の熱心なファンだった村上春樹から請われ、デビュー作『風の歌を聴け』など、初期の村上作品の装丁画を担当したことでも知られています。
漫画家から絵本作家・イラストレーターに転身後は、数多くの絵本を出版。『やっぱりおおかみ』は40年を超えるロングセラーとして現在でも人気の作品です。
佐々木マキのマンガ作品の自選集『うみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81』で、村上春樹を虜にしたシュールな作品に触れることができます。杉浦茂が好きな人にはオススメ!
絵本は、写真集より気分転換効果が高いようにおもいます。不思議な世界にまぎれこんだり、ビジュアルからエネルギーをもらうと、いつの間にか心が軽くなっているのに気づくことでしょう。