2025年大阪・関西万博と同時期に開催される国際芸術祭「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」。160カ国が参加し2,800万人の来場者が見込まれる万博会場を含む大阪・関西で、大規模なアートプロジェクトを展開します。本芸術祭の主要プログラム「パブリックアート」は、万博会場内に設置され、大阪・関西万博の主要プログラム「アート万博」としても位置付けられています。
今回の「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」では、「ソーシャルインパクト」をテーマに、世界的アーティストによる展覧会やアートフェアを実施。万博会場に加え、大阪文化館・天保山、中之島エリア、船場エリア、西成エリア、JR大阪駅エリアなど、大阪の主要エリアを舞台に、アートによる都市の活性化を目指します。
また、ドイツや韓国、アフリカ諸国の機関とコラボレーションしたプロジェクトなど、アートを通じた国際交流も予定しています。そして、日韓国交正常化60周年を記念した特別企画として、日韓が誘致するギャラリーや団体による日韓合同のアート&クリエイティブ・フェア「Study × PLAS:Asia Art Fair」を開催。アートの力で、新たな文化の架け橋を築きます。
本芸術祭では、2022年の開催当初から1970年の大阪万博を契機に経済変動の影響を受けてきた大阪市西成や船場などの地域に注目してきました。西成・釜ヶ崎は、かつて高度経済成長期に多くの肉体労働者たちが働き、暮らす場所でした。現在は、住民の高齢化や外国人の増加、また不動産投資による地価上昇など、さまざまな社会課題に向き合っているエリアです。また、かつて物流の拠点として、全国から人と富と情報、そして文化芸術が集まる問屋街として栄えた船場エリアなど、これまで大阪ならではの地域の特色から生まれるアートの力に注目し、多様な出会いを創造してきました。
「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとする万博の年に、大阪・関西から世界に向けて「アート×ヒト×社会の関係をStudyする芸術祭」を開催し、2025年の万博閉幕後も継続的に発展させていきます。
アートは、人々に感動や驚きをもたらすだけでなく、未来を切り拓く「創造力」と人や社会を思いやる「想像力」が身につくと言われています。アートが都市にもたらす波及効果は、国内外問わず枚挙にいとまがありません。このアートの力を大阪関西のみならず日本の成長戦略の要として活かすことが、より良い未来社会を創造する上で極めて重要です。
■アート産業化の現実と課題「アート×ビジネスが経済と地域をどう変えるか」
日本のアート市場規模(2021年)は2,363億円であり、世界アート市場の4%のシェアを占めています。一方で、アーティストの一人当たりの平均売上高は年間約280万円と、広告業(3,490万円)やデザイン業(1,210万円)と比較して低い水準にとどまっており、文化・創造産業の中でも資金供給が十分とは言えない状況です。さらに、日本の文化芸術予算が全政府予算に占める割合は約0.11%と、他国と比較しても低く、国民一人当たりの文化GDPは先進国最低レベルとなっています。この課題を克服することが、アート市場の拡大や地域創生、さらには日本全体の経済成長において極めて重要です。
2023年、経済産業省は初めてアートに関する報告書を発表し、アートには文化的価値に加えて企業と地域における経済産業的な価値があると分析しました。企業においては、創造性豊かな人材の育成や、企業理念の浸透によるエンゲージメント向上、事業差別化のための新たな手段として注目されています。実際に、住友商事やコクヨ等の大手企業も「脳が活性化している状態やポジティブな感情が強く出て、新しい企画などが浮かびやすい」など、アート投資の効果をあげています。
また、地域においては、地域コミュニティの活性化や治安の改善、不動産価値の向上、観光促進などの社会的・経済的価値をもたらします。実際米国では、壁画があるビルの価値が2.4倍に、またアートギャラリー・アートセンターの設置により住宅価格が196%上昇するなど、アートに取り組む地域で地価が上昇した事例があります。
こうした背景の中、経済産業省は、国内外で開催されている「ビエンナーレ」や「トリエンナーレ」といった芸術祭の経済産業的意義に注目しています。アート作品の流通促進やデジタル技術の活用など、アート産業の新たな可能性を探り、アート市場の拡大を通じた地域創生と経済成長への貢献を目指しています。
2024年12月4日、本芸術祭に先駆け、東京・六本木において「アートはビジネスに必要か」をテーマに、The Breakthrough Company GO 代表取締役CEOの三浦崇宏氏と、株式会社アートローグ代表取締役CEOで大阪関西国際芸術祭 総合プロデューサーの鈴木大輔によるトークセッションが開催されました。
鈴木からの、アートがビジネスに及ぼす影響や、ビジネスにおいて未来を作っていくためにアートに触れることに対する意義についての質問に際し、三浦氏は「アートとビジネスには深い関わりがあり、大きく3つあると思います。ます、単純にアートビジネスは、これからどんどん伸びていくと思っています。共同保有の市場だったり、オークションの市場だったり、投資対象としてのアートとか、また観光ビジネスとしてのアートですね。日本中で、あるいは世界中でいろんなアートフェアが観光の切り札になっているというのもありますので、アートビジネスの市場そのものが日本では小さ過ぎますが、グローバルでは大きいので、これに追いつく過程において、すごく伸びてくる市場だと思います。
もう1個は、経営者とクリエイターとかリーダーにとって、アートはすごく大事な影響があると思っていて、要はリーダーの仕事って、不確定な状況で意思決定することなんですよね。確定的な状況で意思決定するのは、社員でも誰でもできるんですよ。要は、Aを選んだら70%成功、Bを選んだら30%成功だったら、Aの70%を選ぶでしょう。これは誰でもできるんです。ただ、僕らリーダーって、Aをやることでこんなリスクがある、Bにもこういうリスクがある、会社としてどっちを選ぶのかというリスクのある意思決定をするという行為が、実は経営者の一番大事な仕事だと思っています。実はアートを購入するとか、アートと向き合うということは、不確定なものと向き合うってことですよね。
例えば今、壁に品川亮さんという作家の作品がありますけれども、この作品が一体何を意味しているのか、この作品の価値は一体何なのかということは、誰も決められない、誰にもわからないことなんですよ。でもそれをどこに飾るか、どう愛せるか、これは相手に委ねられるわけですね。一つの決まった答えがない状況において、それをどう自分なりに解釈して、選び取って、自分なりに行動どうするのかということは一つのレッスンというか、習慣づけになるので、アートってすごく大事だなと思っています。
3つ目は、これから先全ての人間にとって、センスこそが一番重要になっていくと思ってるんですよ。要は、当たり前の判断とか、当たり前のもの作りって全部AIがやってくれるんです。AIって一体何かというと、AIって生成してないんですよね。生成AIっていいますが、無から有を作ってるわけじゃないんですよ。例えば、何か絵を描いてくれと言ったら、ピカソ、マティスなど、色々な画家の色々な絵があって、既にあるものの間にある何かを、点を取っているんです。点と点の素晴らしいものがある間の中にある、何か中途半端なものを作っているのがAIの仕事なんですね。
逆に言うと、その特異点というか、一つのその領域を限定する点を作るのは人間の仕事なんですよ。その点を作るのが一部の天才だとして、AIが作ってきたものに対して、これにどれくらいの価値があるかというのを見出すには、人間がある程度センスを磨かないといけないんです。センスって何かというと、膨大な量のいいもの、素敵なものを見た結果からくる総合的な判断力のことです。だから、アートとか人間がすごく素敵だと思うものをたくさん見た人間じゃない限り、そのものが優れているか、いいかっていう判断ができないわけですよ。だから、どんな人間でも意思決定とか、いいものを作って判断するためには、アートに触れる経験の数が大変重要になってきて、そういうことがこれから必要だと思いますね」と語りました。
以上、「Study:大阪関西国際芸術祭 2025」に関してと、アート産業化の現実と課題、The Breakthrough Company GO 代表取締役CEOの三浦崇宏氏と、株式会社アートローグ代表取締役CEOで大阪関西国際芸術祭 総合プロデューサーの鈴木大輔によるトークセッションについてご紹介しました。ぜひ、より良い未来社会を創造する上で極めて重要な役割を果たすアートに注目してみてください。