障害のある方が、さらなる活躍の道を切り開いていけるようにとの思いを込めて開催中。国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」のグランプリは、仙台市在住の浅野春香の作品「ヒョウカ」

遠藤 友香2024/09/20(金) - 14:06 に投稿
HERALBONY Art Prize 2024

株式会社ヘラルボニーが、初めて主催した国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ 2024)」。同社は、障害のある方がひとりの作家としてその才能が評価され、さらなる活躍の道を切り開いていけるようにとの思いを込めて、「HERALBONY Art Prize 2024」を創設しました。「国籍や年齢はアンリミテッド!」であるとし、世界中の障害のある表現者を対象として、今年1月31日「異彩(イサイ)の日」から3月15日の期間中、世界28カ国・924名のアーティストから総数1,973点の作品を応募。作家のキャリアを新たな高みへと押し上げ、従来の「障害とアート」のイメージを塗り替えていくとのことです。

《ヒョウカ》浅野春香
《ヒョウカ》浅野春香

今回グランプリに輝いたのは、仙台市在住の浅野春香氏の作品「ヒョウカ」。グランプリ作品受賞作家には、創作活動を奨励する資金として賞金300万円が贈られるほか、ヘラルボニーと作家契約を締結し、今後さまざまなライセンス起用により国内外にその異彩を発信していくそうです。

グランプリをはじめとする各受賞作家と最終審査進出作家の総勢58名による全62点の作品を一堂に展示しているアート展「HERALBONY Art Prize 2024 EXHIBITION」は2024年9月22日(日)まで、三井住友銀行東館 1F アース・ガーデンにて開催中です(入場無料)。

浅野春香氏
浅野春香氏

浅野氏は、20歳で統合失調症を発症後、入退院を繰り返しながら闘病を続けています。本格的に絵を描き始めたのは29歳のとき。受賞作品である「ヒョウカ」は「評価されたい」という作家の純粋な感情から制作されたそうです。作家は以前までその欲求を「恥ずかしいこと」だと思っていましたが、ある人から「それもあなたの素直な気持ちの表れ」と言われたことをきっかけに、ありのままの気持ちを表現して良いのだと気づきました。本作は満月の夜の珊瑚の産卵をテーマに、切り広げた米袋に満点の星空や宇宙、満月などのモチーフが緻密に描かれています。母親の胎内にいた頃の情景や、珊瑚の研究者である父親のことなど、作家にとって大切な存在である両親からインスピレーションを受けているとのこと。

今回のグランプリの受賞を受けて浅野氏は、「バスに乗っているときに(グランプリ受賞に関して)メールで知らせを受けたのですが、嬉しすぎて何も感情が湧いてこなかったんです。それぐらい嬉しかったんです。

(作品制作は)まず最初に、30キロのお米の入った袋をハサミで開きます。開いたら、ペンでシワをなぞって、それをポスカでなぞります。その後、隙間を色を塗って埋めて、丸を描いていきます。作品制作は、7ヶ月かかりました。他の作品も大体7ヶ月くらいかかることが多いです。(作品の)中に動物が隠れてるので探して欲しいですね。お父さんも隠れてるので探してみてください。

今、友達の絵をオマージュした作品を制作しています。その作品は動物がいっぱい描いてあります」と語りました。

(左から)へラルボニー代表の松田崇弥氏、浅野春香氏、へラルボニー代表の松田文登氏
(左から)へラルボニー代表の松田崇弥氏、浅野春香氏、へラルボニー代表の松田文登氏

へラルボニー代表の松田崇弥氏は、本国際アートアワードに関して、「今回のプライズは、私自身が2023年の5月にフランスに行くタイミングがありまして、世界中の障害のある作家のギャラリストで、今回の審査員であるクリスチャン・バーストさんに接触させていただいたり、あとシャンゼリゼ通りで障害のある人たちが当たり前に働いているカフェが存在していたり、本当に世界で色々な福祉施設がある中で、やはりなかなか支援的な構造から脱却できないんですよ。

日本で考えられているような課題と非常に近しい部分を感じまして、これを世界のコンペティションとして大きく打ち出すような可能性っていうものはないんだろうかという思いを込めて、この度ヘラルボニー・アート・プライズというものを創設しました」と述べました。

2024年8月8日にパレスホテルにて開催された「HERALBONY Art Prize 2024(ヘラルボニー・アート・プライズ)」の授賞式では、浅野氏の作品「ヒョウカ」について、ヘラルボニー代表の松田崇弥氏、文登氏より「作品タイトル『ヒョウカ』には、浅野さんが『社会で評価されたい』という強い思いが込められていると伺いました。障害のある方が『ピュア』とイメージされやすい一方で、評価されたい、自立したいという思いは、一人一人が持つ権利であると感じました。第1回のグランプリを浅野さんが受賞されたことをとても嬉しく思います。この賞が浅野さんにとって誇りとなるよう、私たちも努力して参ります」といったコメントが贈られました。

また、審査を通じて、グランプリ1作品の他、協賛企業によって選出された企業賞受賞作品として7作品、審査員特別賞受賞作品として4作品が選出されました。

【企業賞】JAL賞/《タイトル不明》水上詩楽

《タイトル不明》水上詩楽
《タイトル不明》水上詩楽

幼少期にアニメのキャラクターを好んで描いていた水上詩楽氏は、やまなみ工房に通所し始めてから、部屋にあった画材(筆や線引き棒)を手に取ると模様を描き始めました。様々な色でいくつも描かれた扇形と点の模様。筆の動きや点の打ち方は規則正しく、同じ動作をゆっくりと繰り返します。画用紙上の線や点はイメージしているものがあるのか、色や動きを楽しんでいるのか、何を感じて描いているのかは不明ですが、気分のバロメーターのように、その時の彼の気持ちを線の筆使いや整列した点が表しているかのようです。

日本航空株式会社のコメント

社員投票でJALグループ社員の心を掴んだのは、多様性と自由な発想を感じる水上詩楽さんの作品です。様々な色の点は多様な人々が集い、つながる様子を象徴し、明るい色彩の扇形は未来へと羽ばたく姿を描き出しているように感じられます。まさに、空を飛び、世界をつなぐJALグループとの親和性を感じる作品です。

【企業賞】丸井グループ賞/《Blue Marble》フラン・ダンカン

《Blue Marble》フラン・ダンカン
《Blue Marble》フラン・ダンカン

フラン・ダンカンは、自己発見と受容、そして自身の筋痛性脳脊髄炎と側弯症という健康問題を含む逆境に立ち向かいながら、情熱を絶やすことなく表現に向き合い続けています。年齢や身体的制約に関係なく、自由と開放を見出したのがアルコールインクを使った作品です。その制作過程において、厳密にコントロールすることを許さないインクを、彼女は潜在意識に導かれながら相互的に協働する意識で制作しています。未知を受け入れ、予期しない美しさを見出すこの手法に、彼女なりの人生の教訓を重ねています。つまり、人生の複雑さを乗り越え、あるがままの自分を発見し尊重すること、そして創造性には限界がないことを、私たちに示してくれます。

式会社丸井グループのコメント

丸井グループは共創投資先であるへラルボニーの描く未来に共感し、本プライズに協賛いたしました。企業賞選定にあたり丸井グループ全社社員にアンケートを実施し、1位に選ばれた作品が《Blue Marble》です。私たちが目指すインクルージョンの世界感を見事に表現し、躍動感あふれる本作品に丸井グループを授与いたします。

【審査員特別賞】日比野克彦(アーティスト/東京藝術大学長)/《Untitled》S. Proski

《Untitled》S. Proski
《Untitled》S. Proski

視覚障害のあるアーティスト S. Proskiは、盲目そのものを視覚の媒体として展開してきました。作家が盲目の世界で感じとる浮遊感や歪みに焦点を当て、切り取ったキャンバスの切れ端を手作業で丁寧に縫い合わせたり、コラージュしたりして、層状で触覚的な構成の絵画にしています。スケッチやコラージュを使ってイメージを構築し、解体し、再構築するーこの物質的で回り道とも言える手法は、見えない視覚の世界を理解するための手段であり、視覚ではなく触覚を通じて絵画を探求しようとする工夫に満ちています。リサイクルとリミックスの過程を用いて、 S. Proskiは能力主義や同化、そして絵画との関係によって生じた傷を癒そうと試みています。

日比野克彦氏(アーティスト/東京藝術大学長)のコメント

こんな作品を私も作りたいと素直に思った。憧れる作品はどうして生まれてくるのだろうか? 作者に聞いてみたい。制作のきっかけは? 何をイメージしながら? などなど作品制作の様子を見てみたい。そんなまだ会えぬ作者を想像するのが、憧れを深める時間。

【審査員特別賞】黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター/株式会社へラルボニーアドバイザー)/《落書き写真(タイル状の壁)》isousin

《落書き写真(タイル状の壁)》isousin
《落書き写真(タイル状の壁)》isousin

子供の頃から社会に対する不安や自己否定が強く、漠然とした生きづらさを抱えていましたが、写真と出会ってからは自己を受け入れられるようになり、自然と自由な自己表現としてのアートにも興味を持つようになりました。ある日、日が暮れて誰もいなくなった公園の砂場で、子供が描いたであろう落書きを見つけます。一人その場に佇み、食い入るように見つめた後、おもむろにスマートフォンのカメラでその落書きを一枚の写真に収めました。本作は、その時の写真をヒントに制作されています。カメラと画像編集ソフトを使用して写真を抽象的なイメージへと昇華させ、そこに別で撮影した地面や壁の写真を合成することで、不思議な造形を生み出しています。

黒澤浩美氏(金沢21世紀美術館チーフ・キュレーター/株式会社へラルボニーアドバイザー)のコメント

21世紀の人々はカメラという機械の眼によって、世界の断片を収集しているが、何を写し取るのかは、ひとえにシャッターを切る人の選択に拠る。写真が「現実と創造力の交差」と言われる所以だ。isousinは街中の建物や道路の一部に見られる模様に関心を寄せて、それらを写し取り、その上に別に撮影したイメージを重ねる。このレイヤーによって抽象化された被写体が、印画紙から浮き出すように存在感を増す。子供が地面に落書きをしていたのを見て思い立ったというが、そこから在るモノに被せる手法を思いつくとは驚きだ。小さめの作品サイズも功を奏し、作品それ自体、まるでパズル化された街の1ピースのように見える。秀作である。

 

■「HERALBONY Art Prize 2024 Exhibition」
会期:2024年8月10日(土)~9月22日(日)
時間:10:00~18:00
料金:入場無料
会場:三井住友銀行東館 1F アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
主催:株式会社ヘラルボニー

HERALBONY Art Prize 2024 Exhibition

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