消滅の後には開花が続く、人間と環境の関係を見つめる国際芸術祭「あいち 2025」

遠藤 友香2024/02/05(月) - 09:04 に投稿
アドリアン・ビシャル・ロハス Adrián Villar Rojas Mi familia muerta (My Dead Family) 2009  Photo credit: Carla Barbero 提供元:国際芸術祭「あいち」組織委員会事務局 

2010年から3年ごとに開催され今回で6回目を迎える、国内最大規模の芸術祭の一つである「あいち」。国内外から多数のアーティストが参加して、愛知芸術文化センターのほか、県内の都市のまちなかといった広域にて展開しています。

本芸術祭では、主な会場として、愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、そして瀬戸市のまちなかにて、2025年9月13日から11月30日の計79日間開催予定です。現代美術を基軸とし舞台芸術なども含めた複合型の芸術祭で、ジャンルを横断し、最先端の芸術を「あいち」から発信していくといいます。

フール・アル・カシミ「あいち2025」芸術監督
フール・アル・カシミ「あいち2025」芸術監督

2024年2月1日に記者会見が行われ、「あいち2025」のテーマ・コンセプト、 参加アーティスト(第一弾)、企画体制が発表されました。今回の芸術祭のテーマ・コンセプトは「A Time Between Ashes and Roses 灰と薔薇のあいまに」で、シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター、国際ビエンナーレ協会(IBA)会長のフール・アル・カシミが芸術監督に就任しています。

アル・カシミはこのテーマ・コンセプトに関して「国際芸術祭「あいち2025」は、詩人アドニスの詩集『灰と薔薇の間の時』から出発します。その心情とヴィジョンに共鳴するこの芸術祭は、現在の人間と環境の間の分断を照らし出す国家や領土といった目先の視点からではなく、地質学的な時間軸によって見えてくる未来の展望を提示します。

本芸術祭は、極端な終末論と楽観論を中心に据えるのではなく、環境正義(出自や所得の多寡にかかわらず、公平に安全な環境で暮らす権利を持つこと)の重なり合う複雑さを扱うことで、自らの責任に向き合い、不正義への加担を自覚するよう促しています。そしてまたこの芸術祭は、破壊と開花のあいまにある陰影のニュアンスや表現、人間と環境の複雑に絡み合った関係を強調します。

世界中から招くアーティストやコレクティブによる作品は、私たちが生きる環境について既に語られている、そしてまだ見ぬ物語を具現化してくれるでしょう。キュレーターの使命とアーティストの作品は、この芸術祭の地域性を掘り下げ、陶磁器や「せともの」の生産に触発された環境の物語を掘り起こします。こうした産業は地域の誇りの源であり、人間と環境の関係の新しく実験的なモデルを模索する本芸術祭の枠組みを支えています。

愛知の産業史において、陶磁器生産によって灰のように黒く染まった空は、環境の汚染や破壊よりもむしろ繁栄を意味していました。こうした地場産業や地域遺産は、人間と環境の複雑に絡み合った関係について、ニュアンスに富んだ思考への道を開いてくれるのでしょうか。「灰と薔薇のあいまに」とは、当然視されてきた位置づけやヒエラルキーが解きほぐされるよう、幅を持ち中間にある状態を引き受けること、そのような横断的なあり方なのです」と語っています。

ダラ・ナセル
ダラ・ナセル Dala Nasser Adonis River 2023, commissioned by the Renaissance Society, University of Chicago, with support from the Graham Foundation and Maria Sukkar; courtesy of the artist 提供元:国際芸術祭「あいち」組織委員会事務局 
小川待子
小川 待子 Ogawa Machiko 結晶と記憶:五つの山 2020 Photo: Tadayuki Minamoto Courtesy of Shibunkaku 提供元:国際芸術祭「あいち」組織委員会事務局 

記者会見では、テーマ「灰と薔薇のあいまに」に沿って選定した参加アーティストのうち、第一弾として4組が発表されました。

多様な素材を用いて、抽象概念とオルタナティブなイメージを表現する芸術家のダラ・ナセル、鉱物の美しさの中に「かたちはすでに在る」という考え方を見出し、ゆがみ 、ひびや欠け、釉薬の縮れなどの性質を活かし 、つくることと壊れることの両義性を内包する「うつわ」として、始原的な力を宿す作品を制作している小川待子、生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を制作する沖潤子、そして、彫刻、ドローイング、ビデオ、執筆、行為や事象の痕跡などを組み合わせながら、すでに絶滅に遭ったか、絶滅に瀕して危険にさらされている人間の状態を研究し、過去、現在、未来が折り重なるポスト人新世時代における種間の境界線を探るアドリアン・ビシャル・ロハスの4組です。

また、企画体制として、学芸統括始め、各分野のキュレーター及びキュレトリアル・アドバイザーも発表されました。芸術監督には、先にも述べた通り、フール・アル・カシミ、学芸統括にはキュレーターの飯田志保子、キュレーター(現代美術)に愛知県陶磁美術館学芸員の入澤聖明、キュレーター(パフォーミングアーツ)にパフォーミングアーツ・プロデューサーの中村茜、キュレーター(ラーニング)に建築家の辻琢磨、キュレトリアルアドバイザー(現代美術)に人類学者/秋田公立美術大学アーツ&ルーツ専攻准教授の石倉敏明、福岡アジア美術館学芸員の趙純恵が名を連ねています。

大林剛郎「あいち」組織委員会会長
大林剛郎「あいち」組織委員会会長

記者会見において、「あいち」組織委員会会長の大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長)は、「世界的なコロナ禍がようやく落ち着きをみせてきましたが、その一方で、地震や戦争など、様々な形で困難に直面している人たちも多く、世界は以前にも増して不安定なものになっていると感じています。

そんな中、私たちは現代アートを紹介する国際芸術祭として、一体我々は何を目指すんだろうということを考えていきたいと思います。現代アートは文字通り、今を生きるアーティストが感じる現実そのものを反映します。ただ、その現実が絶望的な状態にあったとしても、アーティストたちは困難な現在に対して、そして未来に対して、その表現を通して人々の心に希望の火を灯すことを考えています。私はこれがアートそのものの力だと考えています。

私は、アル・カシミ芸術監督が作られたこのテーマ・コンセプトをもとに、キュレーターチームと参加アーティストの皆さんが、どのように呼応し、具現化していくのか、大変楽しみにしています。そして、人々の心に希望の火を灯す素晴らしい芸術祭にしたいと考えています」と述べています。

アル・カシミは「私は20年以上、世界中のアーティストと一緒に芸術祭を行っていました。今回、そのうちの何人かのアーティストに、この「あいち」への参加をお願いしました。私は瀬戸市や愛知県のいろいろな場所にしばらく滞在し、この土地の歴史や現状を見て、理解しようと務めました。

私たちと環境との関係は長い年月をかけて、どのように変化してきたのでしょうか? かつての私たちは自然と一体化していたのでしょうか? 女性が部族の長を務める、多くの先住民族の社会がそうであったように、自然と完全に調和してるというというのは童話の世界ものなのでしょうか? 

私たちはアドニスの詩を読みながら、手塚治虫さんの漫画にある来たるべき世界にも注目しています。愛知県の地域性を活かし、アーティストやキュレーターと一緒に答えはないかもしれませんが、私たちに可能性を想像させる場を作れるような芸術祭を開催したいと考えています」と語っています。

以上、国際芸術祭「あいち 2025」のテーマ・コンセプト、 参加アーティスト(第一弾)、企画体制についてご紹介しました。ぜひ本芸術祭に注目していただけますと幸いです。

 

■国際芸術祭「あいち2025」
テ ー マ:A Time Between Ashes and Roses 灰と薔薇のあいまに 
芸術監督:Hoor Al Qasimi フール・アル・カシミ(シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター/国際ビエンナーレ協会会長)  
会 期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)[79日間] 
主な会場:愛知芸術文化センター/愛知県陶磁美術館/瀬戸市のまちなか 
主 催:国際芸術祭「あいち」組織委員会 
(会長 大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長)) 

国際芸術祭「あいち2025」 (aichitriennale.jp)

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