
コロナ禍で外出することがなかなか難しい状況が続いていますが、ここ最近は感染者数がかなり減少傾向となっています。そのため、そろそろどこかへお出掛けしたいといった熱がムクムクと立ち込めている方も多いのではないでしょうか? 筆者自身、ワクチン接種の2回目が終わるまでは、取材に出掛けることを控えていましたが、ようやく取材に行くことが叶いました。今回訪れたのは、19世紀末から20世紀初頭にフランスで活躍した彫刻家フランソワ・ポンポンの日本初となる回顧展です。京都市京セラ美術館(京都)での夏開催の後、名古屋市美術館(愛知)にやってきました!

個人的に動物が好きで、ポンポンの彫刻をぜひ実際に観てみたい! と思っていたので、念願が叶って嬉しいです(笑)。名古屋市美術館では、2021年11月14(日)まで、ポンポンの初期から晩年に至るまでの仕事の足跡を、オルセー美術館や、ポンポンのアトリエから寄贈された作品を所蔵するディジョン美術館などのフランスの美術館、国内随一のポンポンコレクションを持つ群馬県立館林美術館からやって来た、彫刻、スケッチなどの全88作品によって振り返ります。

ポンポンは、1855年にフランス、ブルゴーニュ地方のソーリューに生まれ、20歳のときパリに出て、《考える人》で名を知られるオーギュスト・ロダンをはじめとする数々の彫刻家の下彫り職人として30年以上のキャリアを積みます。ロダンのアトリエでは工房長を務めたほどでした。ポンポンもロダンのように人物彫刻家としての人物像での成功を夢見る一人でした。

ポンポンが30代のとき、ヴィクトル・ユゴーの小説『レ・ミゼラブル』に登場する、宿屋で女中代わりに働かされるなど、いじめられながらもたくましく生き抜き、やがて幸せを掴みとっていく少女コゼットを題材とした彫刻《コゼット》を発表。

しかし、50歳を過ぎた1906年ポンポンは動物彫刻へと方向転換していきます。動物は身近にあるうってつけのモデルでした。ですが、やはり評価を受けるまでには長い年月がかかりました。
ポンポンの名を一躍世に知らしめたのが《シロクマ》です。しなやかで力強い生命感と、堂々とした安定感を持ったこの彫刻が大きな注目を集め、67歳にしてようやく高い評価を獲得します。ツルツルとした滑らかなフォルムで、動物の動きを正確に捉えており、今にも動き出しそうなほど!

《シロクマ》において、ポンポンが追求したのは、首でバランスをとって歩くこの動物の動きの印象を、まさに形にすることでした。芸術家の目が空間で一つのボリュームにまとめあげる動きは、写真が捉えるそれとは異なる、というのが彼の考えでした。動きが彫刻に生命感を与えるとする考えは、実はポンポンがおよそ30年前にロダンから学んだもの。《歩く人》を生んだロダンが彫刻史に切り開いた新しい地平において、ポンポンは写実と理想化の絶妙なバランスを持つ《シロクマ》を生み出したのです。
ポンポンは、《シロクマ》を機に、世界的に名を知られることとなります。1920年代に日本で開催された「フランス美術展覧会」で、ポンポンの作品展示があり、初の皇族首相となった東久邇宮稔彦王や、加賀藩 前田家がポンポンの作品を買い求めるようになりました。
フランスでは19世紀前半から多くの彫刻家が動物彫刻に取り組んできました。同時代の絵画と同様、動物彫刻家たちは当初、作品に物語性や豊かな感情表現を求めましたが、やがてそれは彫刻本来のボリュームの追求へと変化していきます。ポンポンはまさにその時代の流れの中で、単純にして生命力に溢れる独自の様式を生み出していきます。
ポンポンは、展覧会などの大きな仕事が劇的に増えても、知人や動物愛好家からの注文にも応え、子供たちやペットの犬をモデルとした作品を作り続けました。ポンポン自身が飼っていた鳩のニコラもモデルになっています。
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
ポンポンの洗練された動物彫刻について、1922年に評論家ロベール・レイが「究極の簡潔さはフランスの古典主義につながる」と述べたように、ポンポンは同時代に、マイヨールやベルナールらと並ぶ古典的な彫刻家として認められた一方、1920年代から30年代に花開いたモダンなアール・デコ様式の装飾空間との調和から、装飾家からも高い評価を受けました。時代の流れとマッチして、ポンポンの中で軸が出来上がっていったと言えるでしょう。また、ようやく時代の感性がポンポンの表現に追いついたという見方もできます。ポンポンは亡くなってからも、フランス各地で検証活動が行われ、世界的に一定の知名度を獲得することになりました。
以上、ポンポンがいかに成功を収めていったかを、《シロクマ》の作品を軸としてご紹介しました。名古屋市美術館で開催中の本展の入り口には、《シロクマ》の大きなオブジェの前で写真撮影ができるスポットがあります。来場者は子供連れの方も多いそうなので、ぜひお子さんと一緒に記念に写真を撮ってみてはいかがでしょうか。館内の作品は原則撮影禁止ですが、出口付近に展示されている《シロクマ》の作品のみ撮影可能です。また、モデルとなった動物と同種のものが東山動植物園で実際に飼育されている作品については、同園協力の解説パネルもあり、動物の写真とともに分かりやすい文章が添えられています。身近にいる鳩、ニワトリ、犬はもちろん、動物園にいるようなシロクマ、ヒョウ、オラン・ウータンなどの作品があり、その愛らしさから、観ている人を幸福感に包み込んでくれます。美術館にいながら、まるで動物園にいるような感覚になることでしょう。
本展をじっくり堪能したい方には、女優の常盤貴子さんがナレーションを務める音声ガイドがおすすめ。また、本展を楽しんだ後は、公式図録でポンポンの作品を振り返って、余韻に浸るのもいいですね! 名古屋市美術館の後は、群馬県立館林美術館(群馬)、佐倉市立美術館(千葉)他に巡回する予定です。
芸術の秋、感性を豊かにしてくれる「フランソワ・ポンポン展」にぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?
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開催概要
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■「フランソワ・ポンポン展」
会 期:2021年9月18日(土)~11月14日(日)
会 場:名古屋市美術館
時 間:9:30~17:00
*金曜日は20:00まで
*いずれも入場は閉館30分前まで
休 館:月曜日
料金:一般1,600円(前売券1,400円)/高大生1,000円(前売券800円)/中学生以下無料
「フランソワ・ポンポン展 」 公式サイト(https://pompon.jp/)